第二話 乱闘、そして空飛ぶ火吹きトカゲ 破
「おまたせー…っしょっと」
大きなドーム。その観客席の内の一つにポップコーンを携えて大貴は座った。
「柴田さんも食べていいよ」
「ホント?じゃあ、お言葉に甘えて」
大貴は地面のバッグを確認する。中には銀色のアタッシュケースがあった。
「───赤コーナー、鳥谷ィー直也ァーアンドゥッ佐藤ゥー優太ァーッ!!!」
「あ、始まった」
大貴は赤コーナーを見る。ポップコーンを傾け、真緒は小さく一礼して一つ取った。
「青コーナーァ〜…羽山ァーッ!!!康ゥーーー之ィーーーッ!!!」
会場はものすごい歓声と盛り上がりだ。それぞれドームの端と端で、魔道具を構える。
「「「装填!」」」
直也は剣の柄の尻に青白いステイトインクを挿入し、剣の樋についているスライダーを引っ張って、持ち手にあるトリガーを引いた。
優太は拳銃のマガジンに緑のステイトインクを挿入し、スライドを引いてから空に向けて発砲。
その対岸側で、康之は腕にある小型の魔道具の真ん中に赤いステイトインクを挿し込み、八の字を描いて真ん中に戻す。
直也の剣の中心からと優太の拳銃の銃口からとは勢いよく、そして康之の腕の魔道具からジワジワと、それぞれのステイトインクが各員の全身を包み込み、三人は装動歩兵と化した。
「ん?おー…」
「レディーッ…ファイッ!!!」
大貴は見慣れない康之の装備をマジマジと見る。赤い装甲は薄め。所々内部機構が剥き出しになっていて、次の瞬間、姿を消した。
「うわッ」
「うぐッ」
高速で移動し、二人を攻撃する康之。そのまま連撃を食らわせてから離脱して地面を滑りながら減速、同時に装甲の隙間から蒸気を出す。
(『赤』の放熱機構で、コンスタントな高速移動を可能にしてるのか)
やるなぁ、と感嘆の言葉が大貴の口から零れた。
「あれ凄いの?」
真緒の質問に答える大貴。
「ああ、高速移動は制御が難しいから、通常『緑』で五感を強化した状態じゃないと使えないんだ」
「へぇ〜…」
真緒は、理屈は分かったが、感覚にはピンと来ていないといった様子だ。
「F1カーのアクセルベタ踏みで歩道を走るようなものだよ」
「なるほど…?」
そりゃすごい、と真緒は思う。眼前の戦闘では見事に乗りこなし、直也と優太の二人を圧倒しているように見えた。
「羽山くんってあんなに強かったんだ」
「知り合いなのか?というかクラスメートか」
「それもそうだし、同じ石元寮だから」
「なるほどね…」
地面を転がる優太。直也は攻撃を見切って剣でガードし、優太の方へ駆け寄る。
「フーッ…」
康之は二人から離れた所で一息つきながら放熱した。その隙に優太は立ち上がり、直也は耳打ちをする。
「俺が攻撃を防ぐ、隙を見て撃ってくれ」
康之がまた姿を消す。その瞬間に直也の剣が火花を上げた。次の攻撃も剣で弾かれ、その繰り返しの中、優太は感覚を研ぎ澄ます。
「そこッ!」
「うぐッ」
優太の銃撃が康之に直撃し、火花を上げながら倒れた。大貴たちの対岸側から歓声が沸き起こる。
「いけェー!」「がんばれーッ!」「その調子だ!」「やれるぞーッ!」
一方、大貴側のスタンドでは、ブーイングが起こっていた。
「何やってんだ!」「てめーに金賭けてんだよ!」「しっかりやれや!」「アホー!」「カス!!!」「これだから石元寮は」
そして関係者席からの咲の声援。
「優太がんばってーっ!」
「クソが…ッ」
康之は悪態をつきながら、地面の土を掴んで何とか立ち上がる。しかし追撃に来た二人は連携して康之を攻撃した。
「グハッ!!!」
(勝負ありか…)
直也の斬撃と康之の銃弾、そしてトドメの康之のビームと直也の飛ぶ斬撃。二つがそれぞれ康之に向かって放たれる。
「クソ…!」
次の瞬間、風が康之の体を運んだ。横に投げ出される彼の体に攻撃は当たらない。
「何!?」
「何だ!」
「おーっとぉ!ここで乱入者が登場かァーッ!?」
飛び出てきたのは、なんと『n-θ』だった。しかし大貴は中身が一発で分かる。
「幸太郎!?」
「貴様…何者だ!」
「たまに居るんだよ、お前みたいなヤツ」
当然、二人は怒っていた。乱入者は黙ったままでいる。
おもむろにその装動歩兵は走り出し、二人に向かう。そして優太の銃撃を避け、直也の斬撃をかわして拳を二人の装甲に叩き込んだ。火花を上げて吹き飛ぶ直也と優太。
「立てるか」
「アンタは…」
「一ノ宮幸太郎。兄貴と呼べ」
「アイツ…!」
「えっ!何してるの!」
驚く真緒をよそ目に大貴は銀色のアタッシュケースから折りたたまれたフルフェイスヘルメットを取り出してそれを被る。
レディオに赤のステイトインクを詰めてから装填して、赤いエネルギーが大貴の全身を駆け巡った。
幸太郎は軽く飛び、片足を突き出して直也に飛び蹴りを繰り出す。大貴はそれを片手でキャッチした。
幸太郎のもう片方の足での蹴りと大貴の片手のパンチが衝突する。幸太郎は後ろに飛んで着地。
「ッ」
「やめろ幸太郎!お前何を!」
「こいつは俺の仲間だ!そう思っただけだ!」
幸太郎の飛び前蹴り。それを横にかわして大貴の中段回し蹴り。直撃して幸太郎は怯んだ。追撃を掛けようと大貴が思った次の瞬間、横からの攻撃の気配を感じて回避行動を取る。
二人の間に飛び込んできたのは郷田だった。そして次の瞬間右フックで大貴のボディを狙う。ガードするも、衝撃で後方へ吹き飛んだ大貴。
「首を突っ込んでくるな!大貴!」
飛んできた大貴を剣で斬ろうとする直也と、それを空中で二段ジャンプして避け、着地する大貴、両方を高速の攻撃が襲った。
直也は直撃を受けたが、大貴は辛うじてガードに成功する。その傍らで優太の銃撃を拳で弾く郷田。
二対一の戦いは、いつの間にか二対一対三の乱闘と化してしまった。
どうしてこうなる、と大貴は心の中で独りごちる。とりあえず、郷田と幸太郎の蹴りを跳んで避けた。
「はぁ…」
ため息をつく幸太郎。同じ部屋で部屋で大貴は本を読む。
「百万円は取りすぎだろ…」
「それで、どうするんだ?」
「どうするもこうするもねーよ、無いものは無い」
「差し押さえくるぞ」
「マジか…はぁーっ…」
再び深くため息をつく幸太郎を見て、大貴は仕方ないといった様子で提案をした。
「借りればいいんだよ、金のあるところからな」
数分後、二人は寮長室のソファーに腰掛けている。テーブルに置かれた紅茶を飲む大貴に幸太郎は耳打ちをした。
「飲んで大丈夫なのか?なんか入れられてたり…」
「美味いものに毒は入ってない」
悠然な態度の大貴を見て、逆に不安になってくる幸太郎。そこに一人の制服姿の青年が部屋に入ってきた。
「ごめんごめん、待たせちゃったかな」
「いや、呼び出したのはこっちだ。忙しいのに悪いな」
「ううん、僕と君の仲だろ?幾らでも時間は取ってやるさ」
青年は大貴の前に座る。メイドの出した茶菓子と紅茶にありがとうと言い、正面に向き直った。
「それで、用件は?」
「二百万ぐらいの仕事、ないか?」
青年はムッとする。
「またなんかやらかしたの?」
「いやー、今回はコイツが悪い」
大貴は隣に座る幸太郎を親指で指した。軽く礼をする幸太郎。
「ああ、普通科の転校生くんか…なにしたの?」
「コイツ、ファイトに乱入したんだ。会場から苦情は来なかったが、片方の違約金の肩代わりしなくちゃいけない」
「ふーん…まあいいや。それよりさ、君たち巡り合わせだよこれは。丁度面倒な依頼が来てたんだ」
メイドがタブレットを青年に渡す。そして軽く操作して、画面を二人の方へ向けた。
「じゃじゃん!『百層魔窟』魔力線付き〜」
報酬は大貴の要求を超えての三百万もある。そして端に、『依頼主 難波財団』の文字。
(これは…)
「斡旋料として僕らに百万、これで二百万きっかりだよね?」
「受けよう」
大貴は即答した。隣で幸太郎が驚く。
「お前な…!」
「ステイッ!文句言うな!」
「むむむ…」
難しい顔をして、深くソファーに座り直す幸太郎。その横で大貴は既に契約書にサインを書き込んでいた。
「───ということがあってさ、是非さ、えーっと…羽山くん!羽山くんにも協力してもらいたいんだが…」
「断る」
翌日の教室にて、康之は興味なさげに本を読み続ける。
「そこを何とか頼む、羽山の腕が必要なんだ」
「第一、俺に関係ないだろ?しかも魔力線のある百層ダンジョンってどうやって攻略するんだよ」
「だから羽山の高速移動が必要なんだ!頼むよ、悪いようにはしないから!」
「ヤダよ、なんで二重に迷惑かけられなきゃ」
「ドロップアイテム」
「…ん?」
「ドロップアイテムは全部やるから!」
「…」
数日後、泉都南部にて。
「幸太郎、ヘルメット俺に寄越せ」
「なんで?」
「普通にそれ、難波財団のだからな。依頼主と揉めたくないだろ?」
無線もGPSも生きてるらしいぞ、と大貴は言った。それならなんで取りに来ないんだよと幸太郎は反論したが、半ば強引に奪われるヘルメット。
「ちょ、おい!それないと俺ダンジョン潜れねえって!」
「ついでに頭金貰ってくるから、それで買えばいい」
大貴は『難波財団』の南泉都支部へと入る。すると、幸太郎と康之が二人きりになった。
「今日はありがとなー」
幸太郎の呼び掛けに反応しない康之。
「お前の気持ちが俺には分かる。一人除け者にされているような感覚…そうだ、分かるだろ?無視されてきた人間の波長なんだよ」
「…はぁ?お前、頭おかしいよ」
嫌そうな顔の康之に、幸太郎はニヤリと笑った。
「分かるはずだ。俺がお前に感じたように、お前も俺に感じるはず。近い将来、お前は俺の事を兄貴と呼ぶ」
「気色の悪い…」
大貴が帰ってくるのが遠くに見える。幸太郎は康之の肩をポンと叩いて、大貴の方へ歩いていった。
「ほらよ」
大貴はデバイスとステイトインクを投げ渡す。幸太郎はそれをキャッチした。
「おいおい、俺に選ばせろよ」
「悪い悪い、でもお前にどうしてもピッタリだったからさ」
受け取ったデバイスに目を向ける幸太郎。腕時計型魔道具で、つまるところ康之と色違いの一品だ。
「お前ら気色悪りぃよ…」
それを見た康之は堪えきれずに毒を吐いた。しかし二人、特に幸太郎はそれに動じず、言葉を繰り出す。
「俺はな、どうやら感覚が過敏らしい。いつもそう言われるよ、後々深い仲になるやつには、皆にな」
「俺は?」
半笑いで訊く大貴。
「変人同士ってとこだな」
奇跡的な噛み合いってやつだ、と幸太郎は続けた。三人は歩き始める。
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