第一話 ダンジョン百鬼夜行 急
「ひゃあああああ」
老婆がその場に崩れた。目前にはゴブリンの群れ。
「ふん」
それを強烈な風が吹き飛ばした。
「大丈夫か?」
老婆に手を差し伸べる幸太郎。
「み…ミツヒコ…」
「?誰だそれは」
「死んだじいさんに似ててのぅ」
「そうか、早く逃げな」
「ありがとうのぉ」
幸太郎の手を取って立ち上がる老婆。手押し車を押して急いで歩く。
それを見る幸太郎の前にぞろぞろと新手がやってきた。
「やれやれって感じだな」
幸太郎が手をかざすと、モンスターの大半が吹き飛ばされた。しかし鎧や岩石から出来たモンスターはその風に耐える。
彼らは幸太郎との距離をジリジリと縮めた。
「相性悪いんだよな…」
幸太郎が構えをとった所に、赤い光が一閃した。
「誰だ?」
赤い光の正体は一人の『装動歩兵』だった。飛んできた彼はモンスターたちを徒手空拳で蹴散らし、幸太郎の前で着地した。
「薄情だな、昨日からの長い付き合いだってのに」
ヘルメットのバイザーを開けて顔を晒す。幸太郎は彼が大貴だと初めて認めた。
「大貴!お前」
「残りは俺に任せてお前も避難しろ」
「俺も」
「ダメだ。魔力線に晒される可能性がある。装動歩兵の出番だ」
大貴は一跳びした。そして施設の駐車場に止められていた、エンジンがかかったままの『n-θ ドライバー』に乗る。
ブブブンとエンジンを吹かせて発進し、そこら中に蔓延るモンスターを轢き殺していく。
「あがッ」
ゴキッ!と骨の折れる音。首をおかしな方向へ曲げ、力なく地面に倒れたのは魔窟隊の装動歩兵たちだった。
「ブルルルル…」
ナイトタウロスは一体で魔窟隊を全滅させ、地上へ出た。
ヴゥーーーン!施設から出た瞬間、バイクがナイトタウロスに飛んでくる。
タウロスは地面を転がり、バイクは着地してその前に止まった。
「ブルルルルンンンン!!!!!!」
タウロスはケンタウロス型に変身し、大貴に向かって突進する。バイクを回転させて、それと逆方向に逃げる大貴。
「なんだこれ、急に渋滞だぞ?」
情報がまだ伝達しきっておらず、車たちはたまにクラックションを鳴らしたりしてただ立ち往生している。
「うわっ!?」
ズドンドンドン!という衝撃と共に車の警報音が鳴る。大貴とタウロスは車の上を走りながら戦っているのだ。
「ブルルッ」
タウロスは剣を生成し、隣を走る大貴に切りかかった。一撃目を屈んで避け、二撃目が来る前にバイクを変形させ、空を飛び、後方の車のない交差点の真ん中に着地する。
「思い出した、お前にダメージを与えられたせいで、十三層目は攻略しなかったんだ…」
バイクから降りて、ポーチからアサルトバッテリー(電池のような円柱状のもの)を取り出した。バイクのハンドルにそれを挿し込んでから引っ張り出すと刀になる。
タウロスは剣を振り上げながら大貴に突進する。大貴もそれに向かって走る。
互いに射程に入りそうなところで大貴がジャンプし、それを切ろうとタウロスは剣を横に振る。しかし大貴は小型のジェットパックで二段ジャンプしてそれを避け、タウロスの頭上から切りつけた。
「ブルルオオオオオン!!!!!!」
肩に傷を負ったタウロスはそのまま少し走り、傷口からの出血を手で抑えながらミノタウロス型へ変身する。
上半身の鎧を剣に変化させ、傷口を鋼鉄で癒着させたタウロスは、眼に血管を走らせている。
タウロスは二刀を構えた。大貴は止まって刀を構える。
仕掛けたのはタウロスだった。勢いよく走り込み、右手は横一閃、左手は突き。
大貴は低い姿勢を取ると同時に上体を捻り、一閃と突きの両方を避けた。そしてそのまま、捻りの力を利用して、タウロスの左脇腹から右脇腹を両断。
「ブオオオオオオオオッ…」
『θ』の紋章が浮かび上がり、体を沸騰させながらタウロスはその場に倒れる。あっという間にタウロスの体は蒸発した。
「死体が!いや今はいい!」
施設へ走り、中に飛び込む大貴。その中には魔窟隊の死体が転がっていた。
「悪い、使わせてもらいます」
大貴は彼らの死体から装備を集めると、ヘルメットに手をかける。
「『重装』…出来るか?」
「くそッ」
「一体でもキツイボスモンスターが、こんなに…ッ」
一方直也たちはボスモンスターの群れに防戦をしていた。頼みの綱の魔窟隊がやられてしまっていることを、彼らは知らない。
「うっ」
「護!」
生徒の一人が攻撃を受け吹き飛ばされる。そしてそれを追撃するオークキングが、棍棒を振り上げたその時、
ヴゥーーーン!!!と爆音と共に飛んできたバイクがオークキングをはね飛ばした。
「!!?」
そのバイクのライダーの赤いマントには、樹枝のように黒い電紋が広がっていた。
車体を傾けて滑り、ショートバレルアサルトライフル『XP-01』をオークキングに撃ち込んでいた。
7.62ミリの弾丸がオークの頭蓋骨を粉砕し、その巨体はあっけなく倒れる。
バイクから降りると共に、コメカミのボタンを押す。全身の赤が吸い上げられ、消えた。
「脱装」
赤い液体が入ったカートリッジ、『ステイトインク』を耳のデバイス『レディオ』から取り出し、青のステイトインクとアサルトバッテリーを挿入し、コメカミを押す。
すると青い流体が外付けのパイプを駆け巡り、同時に装甲がパージしていく。取り外された装甲はひとりでに集まり、大きな球体のドローンとなった。
『θ』の『ステイト』、パターン『青薔薇』だ。
宙に浮かぶドローンに触れると、大貴の体に電流が流される。帯電した彼は、次の瞬間消えたかと思えば、衝撃波が辺りに生じた。
ドローンのビーム射撃と、大貴の高速移動しながらの連撃により、十秒足らずでその場にいた八体のボスモンスターが消し炭と化す。
「彼は…まるで『彗星』じゃないか」
ヘリの中で男が呟く。そして同接数を確認してほくそ笑んだ。
ボスモンスターを駆逐すると大貴は『ステイト』を赤のパターン『鋼』へと戻す。
直也たちが呆気に取られている内に、大貴はバイクに乗って下層へと走る。
(そろそろ装甲の耐久が不味い…)
六層で咲と隠し部屋に隠れていた優太は、意を決してアサルトバッテリーをマガジンに挿入する。
カチャリというコッキングの音に、外にいた人狼が反応した。
「ガヴオオオオォーーーッ!!!」
「ッ!」
隠し部屋に気づいていないのか、部屋の前でウロウロしている。小さな穴から覗き込んで狙いを付けると、壁越しに引き金を引いた。
「アオーーーーーーーーーン!!!!!!」
ビームは人狼の脳天を貫き、絶命へ至らせた。しかし死ぬ間際の雄叫びが周囲のモンスターや二人を探しているボスモンスターを呼び寄せてしまう。
「行くぞ咲!」
優太は咲の手を引いて走る。直也たちと分かれる前の道に戻り、上の階層を目指して走り出す。
「ココキキココキキ」
しかし前方に腕が何本もあり、そのいずれも剣を持っている骸骨が立っている。優太は何発が弾丸を撃ち込むが、たやすく剣で弾かれてしまった。
「ボスモンスターか…!」
来た道を引き返そうとする優太だったが、後方からも地鳴りのような足音が聞こえてくる。目をこらすと、象ほどの大きさがありそうな、サイのように大きな角を前方に持った四足歩行のモンスターがやって来ていた。
「クソッ」
立ち往生した優太は咲を背中に隠して銃を構える。万事休すと思われたその時、骸骨の後ろから眩いライトが現れた。
バイクに高速ではねられてバラバラになる骸骨。そのまま優太たちの前を通り過ぎ、四足歩行のモンスターの前に出る。
ポーチからバッテリーを取り出し、車体を極限まで傾けて滑らせ、モンスターの腹の下をくぐる。それと同時にハンドルにバッテリーを挿入して剣にして、腹をかっさばいた。そしてハンドルに戻し、運転を再開する。
「ブモオオオオオオッ!!!!!!」
腹から血を流しながらも、狭い通路で方向転換して、股をくぐり抜けていった大貴を追いかけた。
「はっ!」
モンスターの群れを飛び越える大貴。他のモンスターを蹴散らしながら巨体を突撃させてくるその魔獣に、方向転換をして正面を向き合う。
ヴヴンとエンジンを全開にし、正面からぶつかる大貴。ガン!と衝撃が走った。大貴はモンスターの角を掴んでいるが、バイクの馬力が負けている。
大貴はバイクから飛び上がり、角を中心に回転してモンスターの眉間に着地した。そして腰に付けていたダガーを取って眉間に突き刺し、柄にあるボタンを押す。
するとダガーの先端から圧縮されたCO2ガスが噴射され、脳を破壊されたその体躯は力なくその場に倒れた。
「魔窟隊か…!?なんだ、あの強さッ」
大貴は再びバイクに乗り、更に下層を目指す。
「『悪いね、君の管轄外なのに』」
「…」
大貴はバイクを巧みに走らせ、遂に十三層のボス部屋にまで到達する。
広いボス部屋の中央には、岩石が鎮座していた。
「あれが魔力線の元凶か」
二つの赤石がキラリと光り、そこから光線が発射される。大貴は身をかがめてそれを避け、後方からの爆風と光を感じた。
そしてスマホ大の金属板、『ブースター』を取り出して起動させながら、バイクのスピードそのままに大貴は高く跳びあがる。岩石は人型に素早く変形し、突っ込んできたバイクを叩いた。
壁に叩きつけられ、ほぼ粉微塵になるバイク。岩石は大貴の飛び蹴りをカウンターするつもりだ。
クルクルと回り、空中で右足を突き出す大貴。その右足が胸の赤石に直撃する直前に、岩石は強烈なフックパンチを繰り出す。
同時に大貴はジェットパックで角度を変え、そのフックを避けつつ岩石の目の前の地面にキックする形で着地した。
自身の選択の誤りと身の危険を感じた岩石は、自身の顔と胸の赤石のカバーを閉じた。
しかし、大貴の強烈な二段蹴りが赤石をカバーごと打ち抜き、蹴り上げられた岩石はθの紋章をかかえ空中で爆発四散した。
細かな黄色い石がたくさん舞う。それらは地面に落ちると、ひとりでに集まり、大きな一つの結晶となった。
大貴はそれに右腕を向けると、そこから黒いステイトインクが発射され、石に着弾する。
外の容器が割れ、中身が出ると、それは石を覆っていく。
「任務完了」
大貴は装甲を解かないまま外に出た。辺りには規制線が張られており、野次馬が様子を伺おうと群がっている。
その中には夕姫もいて、目が合うと、顔を一気に明るくしてこちらに手を振った。
「夕姫!」
大貴も手を振り返そうとした瞬間、後ろから直也が走ってくる。走ってきた直也を夕姫は受け止め、抱きしめ合う。
「…」
「ぁ…っ…」
大貴は踵を返してその場を去った。夕姫の声は届かない。大貴はただ、仮面をしていてよかったと切に思った。
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