第一話 ダンジョン百鬼夜行 破
青い鎧の直也と、銀に光る郷田の鎧。二人の全身を覆う装甲が普段より少し厚いのは、魔力線から身を守る為の鉛を特別に仕込んでいるからだ。
「「うおおおおおおおっ!!!!!!」」
直也の剣を鉄の手套で受け止めながら走る郷田。郷田の蹴りが直也に炸裂する。
「ッ!」
郷田と直也は二手に分かれ、ダンジョンの奥へ奥へと突き進み、四層、五層、六層………と走り抜け、遂に十三層へたどり着いた。
郷田は壁を蹴って高速移動、そして急な方向転換を行い、いつの間にか合流した後方の直也に激突。直也は剣で飛んできた郷田をガードし、郷田は一旦後方に飛んで着地した。
「ここで終わらせるッ」
郷田の右手の甲の装甲が開き、そこに黒い液体が入ったカートリッジを挿入する。装甲が閉じると、黒い液体金属が郷田に取り付きながらジェットパックを成型した。
「正気か!?」
「ふんッ!」
ジェットパックの操縦桿を握り、飛翔する郷田。直也に直進し、体当たり。そして直也を抱えてダンジョンの中を高速移動した。
「だァッ」
「ッ」
直也は剣の柄から弾丸を発射し、それは郷田の顔に直撃する。二人が投げ出されて地面を転がると、そこはボス部屋の前だった。
「!」
直也はそれにいち早く気づいてその大きな扉に触れた。すると見た目の質量より圧倒的に無抵抗に開き、直也は中へ入った。
中は広く、天井は高い。部屋の中央には人間大の奇妙な岩石がある。
ピカッ!と上下二つに光源ができる。
「あれがボスか!」
後から入った郷田はジェットパックの最大推力でそれに向かって突撃した。
「あがッ」
岩石から腕が生え、飛んできた郷田を殴り飛ばした。郷田は火花を散らしながら壁に激突し、地面にうずくまった。
「ジェットパックがイカれた…一撃でッ」
立ち上がりながら壊れたジェットパックをパージする郷田。二人以外の面々も遅れてボス部屋に入ってきた。
「あれがこのダンジョンの…!」
「退け!」
「抜け駆けはさせない」
走り出した郷田派の生徒の背中を撃った男子生徒はそのまま光り終わったボスのコアらしき赤い石に弾丸を撃ち込んだ。
「てめえ!」
後から来た面々もそこで乱闘になる。赤い石は弾丸を弾き、岩は更に人間の体へ近づいていく。
四肢が生え揃うと、岩石は高く跳び上がり、乱闘の中心に飛び込む。そして生徒を一人一人殴り飛ば始めた。
「こいつッ」
一人の生徒がダガーで岩石に切りかかるが、遅れて反応した岩石のパンチがダガーの一閃より早く届く。
「うわああああああっ!!!」
郷田と同じく吹き飛ばされ、それを見た生徒たちは戦いを止めた。
生徒たちは本能的にその岩石を囲んで、同時に飛びかかる。しかしその全てをのらりくらりと交わしながら自らの拳を直撃させていく岩石。
「たァァッ」
「…」
背後からの直也の切りかかりにも反応し、それを屈んで避ける。直也はその勢いのまま前方で止まり、岩石に向かって剣身を飛ばした。
岩石は当然のようにそれを避けるが、ワイヤーで剣身と柄は繋がっており、それで岩石の体をグルグル巻きにする。
「今だ!」
直也の合図に、拳銃を持った男子生徒が反応する。黒い電池のような細長い円柱状のものをマガジンに挿入し、コッキングした。
「終わりだ」
男子生徒が引き金を引くと、銃口からビームが発射される。それは腹部の赤石に直撃し、さらに剣身を元に戻した直也も同様に柄に小さい電池のようなものを入れて剣にエネルギーを溜めた。
「はアッ!」
ビームが放たれ終わった瞬間に直也の一閃が更に同じ赤石を叩く。後方に吹き飛んで壁に激突した岩石は力なく手足を放り出して壁にもたれた。
「やった!」
「いいやまだだ!」
直也メンバーが喜んだ次の瞬間、動き出す岩石。そして自身の衝突により出来た穴の中へ入り、何かをしている。
「は…?」
直也たちは中の様子が少しだけ見ることが出来た。中では岩石が、腹に口を作って何か黄色い石を食っている。
「キュエエエエエエエエエエエエ!!!!!!」
岩石の口から衝撃のような音波が発せられた。腹部の赤石は再生し、更にダンジョン全体を揺らすような地響きが鳴り始める。
ドンドンドンドンドン…!そして次の瞬間、
ガゴォォォーン!!!壁が崩れ、そのダンジョンの各層のボスが現れた。
「なにっ」
「ヤバいぞ皆逃げろ!!!」
直也の呼びかけで走り出す生徒たち。装甲に鉛を仕込んでも気休めでしかなく、最上層では一時間、最下層では五分以上滞在すると危険だ。戦うにしろ逃げるにしろ、まずは最下層から上がらなければならない。
仲間の怪我人を担いで走る直也と郷田たち。ボスたちの足は速く、距離は全く離せない。
「キャッ」
「咲!!!」
第六層にて、一人の女子生徒がつまずいて転んでしまう。拳銃を持った男子生徒が少女の方へ走り、少女を起こす。
襲いかかってきた巨人、オークキングの棍棒を避け、そのまま集団とは別の方向へ走り出した。それに釣られてモンスターの一部もそれを追いかけ別方向へ走る。
「咲ッ」
「優太ぁ」
「はあっ、あそこだっ」
優太と呼ばれた男子生徒は通路を曲がったところに隠し部屋を見つけ、そこに隠れた。追いかけていたモンスターたちは二人を見失い、それぞれ散開する。
「ううっ…」
「大丈夫」
咲は優太の胸で震えた。小さく空いている穴から外を確認すると、人狼のようなモンスターが、鼻が良いのか前でウロウロしている。
「少し待つか…」
優太は咲の肩を抱いた。
「放送切れ!それから避難指示を」
「待て!こんなに面白い絵はそうそうない!避難指示?問題にしてどうする!大事になったら、魔力線のことだってあるんだぞ!」
「しかし!」
「いいから!それにどうせ、あの厚さ1メーターの隔壁を突破できるモンスターなどおらんよ」
騒がしい運営を傍目に、夕姫は不安になる。
(ナオくん…)
モニターを見ると、もう既に直也たちは一階へ上がっていた。ここで直也は立ち止まり、モンスターたちと向き合う。幸い岩石の怪物は追いかけてきていなかった。
直也は剣の樋についているレバーを引き、剣を振りながら引き金を引く。すると光の斬撃が飛び、モンスターに直撃した。
土埃が舞い、その中から飛び出してくるモンスターたち。
「うわっ」
その突進を避けると、モンスターたちはそれを気にもとめずそのまま走る。一部のモンスターは生徒を抜かした。
「あ…アイツら、地上に出ようと!?」
「本当にいいんですかね…?」
「ああ、アイツらはアホだ。こうなったのは俺たちの責任じゃないし、俺たちの手に負えない。更にしばらくすれば難波財団が処理しにくる」
郷田たちのグループは既にダンジョンの出入口に立っていた。郷田は無線で運営に呼びかける。
「おい!隔壁を開けろ!出る」
「了解、隔壁開く。三、二、一」
隔壁が開き、郷田たちは中へ入った。
「ブルルルルオオオオオオ!!!!!!」
そこに上半身は騎士、下半身は馬のナイトタウロスが突っ込んでくる。
「隔壁閉めろ」
「ブルルルオオオ!!!!!」
隔壁はナイトタウロスの目の前で閉じられた。タウロスは隔壁に向かっていななく。
「ここまで来たか、奴ら全滅したかもな。ハハッ」
「そ、そうですね…」
装甲を解こうとしたその時、隔壁を叩く音。
「流石馬鹿だな。無駄なことを」
「ヒヒン!!!ヒヒン!!!ブルルォッ!!!」
ナイトタウロスは何度も何度も隔壁を前足で蹴る。そのうち隔壁が凹み、郷田たちの方へは凸ってきた。
「所長!隔壁強度低下しています!破られます!」
「何だと!」
その場にいる人間が焦り出す。当然、郷田もだ。
「おい!ここから出せ!」
「絶対に開けるな!」
「了解。すまないがそっちの隔壁は開けられない」
「何!!」
遂に隔壁に穴が空く。巨大な斧を持ったナイトタウロスがこちらを覗き見た。
「ッ!」
「これはまずったなぁ…でもこれって、隔壁の強度に問題、つまりアンタらに落ち度があるんじゃないか?」
「はぁ!?ふざけたことを!」
「まあまあいいからいいから、早く避難避難」
プロデューサーらしき男がそそくさとその場から離れる。所長は行政に連絡し、避難指示を下すよう要請しようとした。
「こちら難波財団魔窟隊鳳凰ー肆、現着。周辺住民の避難は必要ない」
黒い装甲の兵士たちがいつの間にか現れ、所長が手を伸ばしかけた固定電話をリーダー格の男が拳で打ち壊す。
「は…」
「隔壁を開けろ」
「そ、それはッ、モンスターが…魔力線だッて」
バンバンと銃声。持っている小銃を天井に向かって撃つ兵士。
「我々に撃ち殺されるか、モンスターの餌になるか、好きな方を選べ」
「ヒッ…!」
「冗談だ。隔壁を開ければ、諸君らの身の安全は保証しよう」
「かっ…隔壁開けろ!」
地上に続く側と、ダンジョン側、両方の隔壁は同時に開けられる。郷田たちは走り、地上へのエレベーターに滑り込み、上昇させた。
「グルルルオオオオ!!!!!!」
遅れてやってきたナイトタウロスは、体の形状を変え、頭が牛、首より下が騎士の鎧姿のミノタウロス型に変身する。
そして拳でエレベーターのドアを叩き壊し、中に入ると、ロッククライミングの容量で上に上がり始めた。
「避難するぞ!君も!」
「あっ、はいっ」
夕姫はバッグを持ち、急いで施設を出る。背後から爆風が来て、転んでしまった。
「…っ」
ボストンバッグの中身のアタッシュケースだけを持って走る夕姫。背後では激しい戦闘が起こっているようで、銃声や爆発音が鳴り響く。
「きゃぁっ!」
突如誰かに飛びつかれる夕姫。抱えられて横に飛ぶと、さっきまで夕姫のいた位置にコンクリート片が飛んできた。
硬い筋肉質の体、染めた金髪、そして匂い。夕姫はありえないと思う。
「走れるか」
「だ、いき」
「行くぞ」
背後にはもう大量のモンスターがいた。大貴は泣く夕姫の手を引いて走る。
学園の近くまで走ると、大貴は夕姫を路地裏に連れ込んだ。
「高校なら安全だろう」
「大貴っ、あなた、大貴よねっ」
「そうだ。夕姫、それを俺にくれ」
アタッシュケースに手をかけようとする大貴。夕姫はそれをケースを抱えて拒む。
「やだっ」
「どうして」
「なんで渡さないといけないのっ」
「直也を助ける」
「ナオくんは自分でなんとかするっ」
「夕姫…」
大貴は困った表情をした。
「いかないで…」
ケースに水滴がポトポトと落ちる。大貴が夕姫の顔を見ると、夕姫は泣いていた。
「夕姫」
大貴は夕姫の顎を指で上げると、かがみ込んで口付けをする。口付けが終わった頃には、ケースは大貴の手元にあった。
「待って…いかないでっ」
「…」
夕姫の制止を聞かずに大通りへ出る大貴。モンスターたちが遠くに見えた。
アタッシュケースを地面に置き、開く。中には折りたたまれたフルフェイスのヘルメットとモバイルバッテリー大の何かのデバイス。
ヘルメットを被り、耳の辺りにデバイスを取り付け、こめかみのスイッチを押した。
「装填」
ヘルメットの後頭部から人工脊椎が出され、大貴の背中に密着する。そこから黒い液体、FIM(Fluid Infinitesimal Machine)が流れ出て全身を包み込んだ。
そして肋骨のように脊椎から伸びた装甲が更に上から覆う。そこから枝分かれするように全身をくまなく装甲が覆っていった。
そして腰についている金属のポーチから赤い液体が入ったカートリッジを取りだし、耳のデバイスに挿入する。そして再びこめかみのボタンを押した。
「再装填」
遠くのモンスターたちもそれに気づくほどの、眩い赤い光が辺りを照らす。
光が収まると、夕姫は路地裏から出た。外付けの細いパイプはまだ赤く光っている。
「大貴…」
真っ赤なマントが生成され、大貴はそれをたなびかせた。そしてモンスターの群れへと一歩。
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