第一話 ダンジョン百鬼夜行 序
『泉都』とは───
『ダンジョンショック』による全国的な都市機能の低下を受け、日本再建のテストモデルとして作られた計画都市。
大貴たちの生まれ故郷でもある。
「これがゲートスタチュー」
百メートル程ぐらいあるだろうか、巨大な女性の白い像を大貴は指さした。
「ゲート?」
「国際空港ができた時、二体の像に手を繋がせてブリッジにする予定だったんだが、予算不足で片方だけ作られたっていう話」
『ニューヨークホテル』の前を通り、大通りを歩く。信号を渡ると、左手には家電量販店、右手には大きな商業施設があった。
更に信号を渡り、商業施設の中へ入っていく。
「あぁ〜海鮮、海鮮食いてーな」
「サーモンの親子丼…今日はこれだ」
商業施設の入口にある海鮮屋に入り、正気に戻る二人。
「ナマモノは一番最後に買おう」
そこを出て二人が向かったのは文房具屋だった。自動ドアを越えてすぐ左に曲がり、二人は必要なノートやペンを買い揃えた。
次に向かいのスーパーに寄り、カップ麺や日用雑貨を買う。隣の百円均一に寄り道してから今日食べる海鮮丼を買って二人は施設を出た。
「ちなみにここ、温泉とゲーセンあるぞ。ラーメン屋もある」
「映画は?」
「あの橋を越えたところに、もうひとつデカいウィオンがあって、そこにある」
「便利なこった」
二人が寮に戻ると、まだ三時。幸太郎は暇を潰すいい方法を思いついた。
「そういえばこの高校、部活とかどうなってんの?」
「さあ?俺はそういうのあんまり知らん」
「ふーん…じゃあ見に行くか、昼飯食ってから」
大貴はしょうゆ、幸太郎は塩味のカップ麺に湯を入れた。待つこと三分、二人は麺をすすった。
「手料理が恋しい…」
「食堂に行けば?」
「あんなチクチクした目線の中で飯が食えるか」
「学食の方は普通科もいるぞ」
「学食はマズイ」
大貴はスープにスーパーの惣菜コーナーで買った白ご飯を入れる。幸太郎は大貴に問いかけた。
「普通科と魔法科ってなんで仲悪いんだ?」
「…まあ、お互い様って所かな」
「色々あるのね」
二人は食べ終わると、ゴミを外の共用ゴミ箱に捨てて学校へ向かった。
大貴は廊下の窓の外を見る。運動場では陸上部やサッカー部が練習していて、実技の練習をしている魔法科もいた。
「ん?なんだあれ」
幸太郎が指を指す。その方向にはドアに『なんでも部』の張り紙がある教室があった。
「あん…?」
「オモシロそーじゃん、よっと」
幸太郎は無遠慮にドアをガラガラと開けた。中には本がギュウギュウに詰まった本棚と、本を持って驚く小柄な女子生徒が一人。
「なっ、なんですか」
「あ〜なんでも」
そのまま部室の中を見物する幸太郎。遅れて大貴もやってきて、その大柄な体と金髪に女子生徒は更に萎縮してしまった。
「何読んでるの?」
「あっ」
大貴は女子生徒から本を取り上げ、タイトルを見る。
「タイトル長…これ小説だよな?」
「えっと…あっ…」
(…これは、ヤレる)
最近溜まってるし、と幸太郎は女子生徒に近づいた。
「ライトノベルってやつだよ」
「小説となにか違うのか?」
ペラペラと初めのページから軽く斜め読みする大貴をよそ目に、幸太郎はグイッと女子生徒に顔を近づけた。
「地味だけどすっごいかわいいね、お名前は?」
「えっ、えっ!?あっ、井上っていいますっ」
「下の名前は?」
「えっ、あっ、百合…」
大貴は一瞬チラと女子生徒の方を見た。
「百合ちゃんか、ガチで可愛いね。あのさ、今からちょっとだけ時間「ウチの部員に何してんだ」
部室の入口から声。幸太郎はその方を向くと、相手を確認した。
「おお…」
「困ってるからさ、ほら」
近づいてきた声の主の男子生徒が、幸太郎を腕で百合から引き離した。それと同時に大貴から本を取り返して百合に渡す。
「ん」
「あ、ありがと、部長」
「ふーん…?嫌だった?ごめんごめん…」
幸太郎は軽く一息つく。
「帰るか、大貴」
「ああ…」
幸太郎と大貴は部屋から出ようとする。
「待て」
「んだよ、もういいだろ…?」
男子生徒は悪態をつく幸太郎ではなく大貴の後ろ姿を睨みつけた。
「ダメだ。お前…まさかとは思うが、国木田大貴、じゃないだろうな?」
「だったらどうする?」
大貴が振り返ると、男子生徒は酷く驚いた顔をする。
「明後日から魔法科に編入するからさ、まあ仲良くしてくれよ」
そういうと大貴は部室を出る。それに追随して幸太郎もその場を去った。
「アイツ、俺より魔力あったな」
部活動の観察も校内の案内も飽きて、また大通りを散歩している二人。今度は商業施設の近くの緑地公園を目指している。
「俺がここにいた時も有名人だった」
「ふーん…ん?あれ」
「ッ」
遥か前方に同じ学校の生徒の集団を認める。大貴はその瞬間、物陰に隠れた。
「何やってんだよ」
「…」
「まあいいや、面白そうだから着いていくか」
幸太郎は堂々とその集団の後を付けた。一方大貴は物陰から物陰に移りながら、絶対に姿を見せないようにしている。
「お前も着いてくんのかよ」
「…」
「なんなんだ、マジで」
幸太郎は困惑するが、同時にワクワクした。絶対何か事情があるのが見えきっているからだ。
よく見ると生徒の集団は完全に二つに分かれていて、距離がある。仲良しという雰囲気ではなさそうだ。
緑地公園のすぐ側、高い鉄格子とコンクリートの壁に囲まれた施設の門の前で集団は止まった。そして施設の中から兵士が出てくると、その生徒集団を中へ引き入れた。
「ん…?なんだ?」
「海底ダンジョン、ここら一帯は埋め立て地だからな」
「うわびっくりした、急に喋る」
「まだ未踏破なのか…?」
大貴はスマホを出して検索した。それによると、確かにまだ未踏破という情報がある。続けて泉都公立高等・中等学園の公式Xwitterを確認し、これからダンジョン踏破の配信をすることを知った。
「やっぱり…今から攻略するつもりか」
「ふーん、じゃあ帰って部屋で見るか」
「…」
「どういう関係なんだ?アイツらと」
幸太郎の質問に大貴は動揺する。しかし返事はハッキリとしたものだった。
「昔…俺もあのメンバーの一人だった」
「ふーん…」
なんか複雑そうだな、と幸太郎は感じた。
「…俺、公園で配信見とくわ…」
「え?なんで?」
「…心配だ」
「心配?別にここに居ても」
幸太郎はそう言おうとするが、大貴は真剣に公園で配信を見るつもりそうだと思い、ため息をついた。
「…ギガ大丈夫か?」
「使い放題だから大丈夫」
二人は公園のベンチに座り、配信の開始時刻を待つ。
「未踏破って、なんか理由あんのか?」
「下層に行けば行くほど魔力線が強くなるんだ。アーマーはもって十五分…これが中々シビアなんだよ」
「探査機で調査すればいい」
「道中のモンスターも強力で攻撃的なんだ。大枚はたいて作ったロボットも十五分経たない間に壊される」
「うーん、心配だな…」
一方夕姫は、施設の一室のモニターから生徒たちの様子を見ていた。
学校指定のボストンバッグの中のアタッシュケースを一瞥して、もう間もなく始まるレースに注意を向ける。
『ーーールールは単純、どちらが先に最下層のボスを倒すかーーー』
十人十色の装甲を身にまとった生徒たちが二つのグループに分かれ、ダンジョンの入口の前で待っている。
隔壁が開き、中の部屋へ入る。全員が入り込むと、隔壁は閉じられた。
『それではッ、泉都公立高等学校主催、ダンジョンレース…レディ、ファイッ!!!』
司会の合図と共に鉄の扉が開かれる。十人弱の生徒がダンジョンの中へ飛び込んだ。
「鳥谷!!!」
「郷田!!!」
先頭の二人が取っ組み合いをしながらダンジョンの奥へと消え、その様子を配信用カメラ付きドローンが追いかける。夕姫と大貴はそれを見て、一人の男子生徒を心配した。
「ナオくん…」
「直也…」
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