『イロアス』
「ふざけるなよ・・・」
『冒険者ギルド』を出た『勇者パーティ』『リーダー』だった『イロアス』。
彼は路地裏で壁を殴っていた。
実は彼は待っていたのだ。
かつて自分が追放した親友。
『フォカラー』を。
『親友』を追放した翌日、小銭稼ぎのつもりで受けたAランクダンジョンでのクエスト。 それを失敗した。
いつもなら余裕で勝てる『ダンジョンマスター』。
だが、今回は違った。
愛している2人を連れて行った先で、一層も踏破できずに戻ってきたのだ。 3人で戻った『バスラ王国』。
そこで、イロアスは捨てられた。
誰に? それは、パーティメンバーの女2人である。 それも同時に捨てられた。
『こんなに頼りにならないなんてありえないな』
『他の人にも手を出すし、もう、やってられないわ』
『まったくもってその通りだ! 私は、このパーティを抜けて、貴様を捨てる!』
『私も! さようならイロアス!』
なぜか仲良さそうに手を組んで出ていったのを覚えている。
『イロアス』は、実質的に『勇者パーティ』を解散させた事になったのだ。
彼は全てに苛立った。
だが、彼とて『勇者パーティ』と呼ばれた、一端の『パーティ』の『リーダー』だった男。
自己分析し、反省し、次の行動をどうするか考えるだけの頭はあった。
何が間違いだったのか、順に思い出し、至ったのは『親友』の存在だった。
昔から、その『親友』は、注意してくれていたのだ。
『イロアス』の女癖の悪さを。
間違いを間違いと言ってくれる存在だったのだ。
もちろん、『親友』がかけてくれていたバフの力は偉大だった。
だが、『イロアス』が本当に後悔したのは、それを自ら追放した事ではない。
散々迷惑をかけても、酷い事をしても。
酷い態度をとっても。
ずっと隣で、間違いを間違いと言ってくれて、楽しい時間を共有してくれた。
そんな、大切な『親友』を自ら『ゴミ』と馬鹿にし、捨てた事だった。
「・・・謝ろう」
謝ったところでどうこうなるものではない。
だが、彼なら許してくれる。
今までだってそうだったじゃないか。
どれだけ自分が馬鹿やっても、またかと笑って許してくれた。
今回は、少し言いすぎたかもしれない。
でも、それでも。
彼なら許してくれる。
日銭を稼ぐために『冒険者』の仕事をしに来るだろうと、『冒険者ギルド』で待つことにした『イロアス』。
きっと、悲しそうに肩を落として入ってくるに違いない。
そしたら、謝ろう。
そしたら、嬉しそうな顔で許してくれる。
互いに辛い思いをしたのだ。
おあいこだろう。
笑い話に酒を飲もう。
そんな、甘ったれた考えは安易に砕け散る。
やがて、日が暮れ、遅い時間に『冒険者ギルド』にとある、一団が入ってきた。
その仲に『親友』がいた。
既に新しい仲間をつくっていた。
昨日の今日で彼は新しい居場所を見つけていたのだ。
追放された事なんて、何とも思ってませんみたいな顔をして笑っていたのだ。
『親友』は、それはそれは、楽しそうな顔をしていた。
その姿を見た途端、『イロアス』の頭に血が上った。
俺はこんなに反省したのに。
俺はあんなに嫌な思いをしたのに。
俺が謝ろうとしていたのに。
あいつは。
どうしてあいつだけは。
あんなに楽しそうなんだ!!
それからの事はあまり覚えていない。
気づいたら赤っ恥をかかされていた。
謝ろうと思った気持ちは反転した。
「許さない。 絶対に許さない!」
ガンっと再度壁を叩く、暗い路地裏で1人になった『イロアス』。
彼の頭にはかつての『親友』を貶める手筈が描かれはじめていた。
「ぶっ殺してやる」