『再会』
『甘岩迷宮』から『バスラ王国』まではそんなに離れていない。
徒歩1時間程だ。
日が暮れる頃には『冒険者ギルド』に戻ることができた。 ドアを開けて中に入る。
「先行って報告してきますね~! リーダーなので!」
駆け去って行くメンテ。
もう見えない。
『ダストボックス』もそれに続く。
フォカラーも、追いかけようとして足を止めた。
それに気づいた『ダストボックス』の面々が振り返る。
「どうした「おやぁ? 中途半端なフォカラーくんじゃないですか~?」
アタランテが声をかけようとしたとき、ムッとした彼女の後ろから被せるように声が響いた。
「・・・イロアス」
フォカラーが呟き、睨み付けた先にその男はいた。
金髪。
女であれば2度見する程の美丈夫。
スラッとした体躯を包むのは、Sランクダンジョンのモンスターから作られる高級装備。 腰に下がる直剣は純白。 知る人が見れば、相当な名剣。 『剣匠』が作りしその剣は、竜をも切断する。
『イロアス』。
『勇者パーティ』の1つを束ねるリーダーである。
「お? もう新しいパーティですか? お前みたいな中途半端なやつを拾ってくれるところがあったなんてな? えぇ? おい!」
怒気を含んだ物言いに、周囲の『ダストボックス』の面々がむっとする。
「んだ? やんのか? こっちは『勇者パーティ』の『イロアス』だぞ? 『リーダー』なんだぞ!?」
ゴォッと覇気が飛ぶ。
間抜けな物言いだが、実力は確かである。
周囲の人々が怯え始めた。
フォカラーもあの圧には少し・・・。
「・・・あれ?」
怖くない?
やけに冷静な自分に、自分で驚くフォカラー。
「あぁ? 誰かと思えば『ダストボックス』の皆さま方ではないですか!」
『ダストボックス』の面々も表情を変えていない。
イロアスを睨み付けたまま、臆していない。
「な~るほど? ゴミが行く場所にはとっておきだったな! あははっ!」
『ダストボックス』全員が身構える。
仲間が侮辱されたのだ。 黙っていない。
パンツァーとクチーナは、ここまで運んできた、いまだに意識の戻らない初心者パーティを近くに降ろして寝かせる。
イロアスへの鋭い視線は変わらない。
「ん~? なに? 人助け? ははっ! 傑作だ~!」
腹を抱えて笑うイロアス。
「助けが必要なのはお前らだろ」
笑顔は消え、見下すような表情と声音になる。
一触即発。
『ダストボックス』と『イロアス』が自身の武器に手を伸ばす。
「・・・やめろ」
フォカラーの絞り出すような声がイロアスに届く。
「は? なに? きこえませーん!」
フォカラーが、一気に漆黒の剣を抜く。
「やめろって言ってんだ! 俺を罵倒するのは構わない! だが、『ダストボックス』のやつらを巻き込むんじゃねえ!」
「ははっ! もう仲間気取りですか!? めでてぇやつだ!」
イロアスが純白の剣を抜いて叫ぶ。
誰もが衝突を覚悟した。
「もう仲間ですよ~?」
唐突に響いた優しい声音。
その声音に、『冒険者ギルド』内が静まり返った。
戦いが始まると焦りだしていた、その場にいた冒険者たちが静まり返ったのだ。
全員があり得ないほどの落ち着きを取り戻す。
やがて、視線は1点に集まり出す。
騒ぎを止めようと出てきた受付嬢や、王国の騎士達。
そんな者達を後ろに立つ、純白の鉄杖を握る白い『聖女』。
『聖女』『メンテ』がそこにいた。
ゆっくりとイロアスに歩み寄る。
「・・・あ?」
目の前でメンテがにっこり笑う。
ポンッと、イロアスの左肩に右手を置く。
「あなたがウチのフォカラーくんを捨てた人ですね? 『勇者パーティ』『リーダー』『イロアス』」
張り付いたような笑みがイロアスの恐怖心を煽りだす。
Aランクダンジョンを何度も攻略してきたパーティリーダーのイロアスが。
ただの『聖女』に恐怖していた。
(なんだ・・・こいつ?)
先ほどまでの苛立ちはどこへやら。 自分でも理解できないほどに恐れているイロアス。
身体が勝手に震える。
明らかにおかしいのだ。
(なんで俺が・・・ただの『聖女』を恐れている?)
「イロアス・・・イロアス・・・。 覚えました」
ささやく言葉に震える。
名を呟かれるために身が縮こまる。
肩に乗る手がとても、重く感じる。
怖い。
「な、なんなんだよお前は!」
焦りながら手を払いのけ、2、3歩後退する。
「ふふっ! ただの『聖女』であり『ギルドマスター』。 『ダストボックス』の『リーダー』ですよ~?」
「くそ!」
イロアスは、悪態をついてズンズンとフォカラーの元に進む。
「てめぇ、覚えておけよ?」
「はっはっは! 家のリーダーを怖がってた事か?」
「ふふっ! 人が悪いわよ!」
近くのパンツァーが大笑いし、クチーナがくすくすと笑う。
「おじさん、ざっこ」
「みっともない」
フォルが嘲笑し、アタランテが吐き捨てた。
「くそ!」
『ダストボックス』の面々に小馬鹿にされ、『冒険者ギルド』に居る者達の前で恥をかかされたイロアスは、悪態をつきながら『冒険者ギルド』を出ていった。
「ぷっ」
メンテが吹き出す。
それが合図だった。
どっと『ダストボックス』の面々が笑い出したのだ。
「みっ、みたか!? あの野郎の最後の顔!」
「えぇ、もう! ちょっとかわいそうだったわぁ」
「僕、ちょっとスカッとしちゃったよ」
「さすがメンテさんだわ! あんな簡単に追い払っちゃうなんて!」
「え~? そんなこと無いですよ~! イロアスが根性無しなだけです~!」
「まだ煽ってるの!?」
大爆笑の面々。
ついていけてないのはフォカラー。
「あ、フォカラーくん! 大丈夫ですか?」
「あ、あぁ。 問題ない。 ありがとう。 庇ってくれて」
「当然ですよ~! フォカラーくんは、大切な仲間ですからね~!」
にこにこのメンテ。
「礼なら俺たちもだ」
パンツァーが口を挟む。
「フォカラー、お前、俺たちのために怒ってくれただろ?」
「あれ、嬉しかったわぁ」
パンツァーにクチーナが続く。
「そうですね~・・・。 でも、フォカラーくん?」
メンテの初めて見る、ムッとした顔。
腰に手を当てている。
「自分の事は良いなんて言っちゃダメですよ? 貴方はもう、私たちの大切な仲間なんです! 1人だって馬鹿にされて言い分けないですよ~! 正しくは、『ゴミがイキってんじゃねぇ!』 です!」
『聖女』とは思えない物言いに思わず笑ってしまうフォカラー。
「くくっ・・・。 ははっ! あははっ!」
「ふふっ! 良い顔です! あんなことは笑い飛ばしてしまいましょう!」
「あぁ! 最高だ! 『ダストボックス』!」
『ダストボックス』で世話になることを決めたフォカラーだった。