『俺の辞書』
『甘岩豚』を討伐した『ダストボックス』。
ダンジョンの出入り口に向かって歩を進めていた。
「「た~いりょう!た~いりょう!」」
一番前をノリノリで歩くのはアタランテとメンテ。
疲れ知らずなのか?
なんて思っているフォカラーも、普段に比べるとあまり疲れていない。
周りが強すぎたからか、だとしてもなれない環境なのだ。 もう少し疲れていてもおかしくないが。 まぁ、思っていたより『ダストボックス』の面々が接しやすかったと言うことだろう。
と、自分を納得させていたフォカラーに声がかかった。
「良いバフだった。 あれは、相当使い込んでいるだろ」
両脇に意識を失った初心者パーティの男を抱えるパンツァーだった。
「・・・まぁ」
「・・・言いたくなければ良いが、かなり名のあるパーティだったんじゃないか?」
「・・・ごめん」
「はっはっは! 気にするな! 昨日の今日だろ? それが普通だ! 踏み込んで悪かったな!」
「失礼よぉ?」
隣のクチーナが女の初心者冒険者を背負いながら口を挟んだ。
パンツァーがほかの女を触るのが嫌だったのは秘密である。
「はっはっは! すまん! だが、フォカラー。 お前は中途半端と言うには勿体ないな! 胸を張れ! 俺の辞書では、お前のようなやつは『オールラウンダー』『器用』『万能』『多芸』と言う! 他のも同じレベルでこなせるのだろう? それは立派な事だ!」
「ふふっ、そうねぇ。 もしこのまま本格的に家に来てくれるなら頼もしいわ! 貴方を捨てるなんて、勿体ないことしたのね、元居た場所の人たちは」
はっはっは!と大笑いで先に言ってしまうパンツァーと、くすくすと笑いながら彼を追いかけるクチーナ。
フォカラーの足が止まった。
なぜか、涙が出ていた。
「優しいよね。 みんな。 僕が運の補正値に極振りしたのは、きっもみんなに会うためだったと思ってるんだ」
脇を通り抜けて行ったフォルがにこにこと笑っていた。
涙を拭う。
ここは、良いところかもしれない。
ここは、俺の居場所になってくれるかもしれない。
パンツァーとクチーナを追いかける。
「パンツァー、クチーナ。 ありがとう。 いつか話すよ」
「おう!」
「楽しみにしてるわねぇ」
「出口よ!」
アタランテの元気な声が響いた。
「で~ぐっち!」
良くわからないイントネーションで出口から出ていくメンテ。
隣をアタランテが歩いていた。
先ほど助けた冒険者たちだが、メンテの回復魔術できれいに回復していた。
なぜか、3人とも眠ってしまったが。
そして、その回復魔術だが。
並だった。
良くある技術。
可もなく不可もなく。
普通に『聖女』だった。
一流パーティにはなれないが、普通のパーティには十分。
そんなレベルだった。
こんなくせ者揃いの『ダストボックス』で、並。
並なのに『リーダー』。
(・・・彼女にも何かあるのだろうか?)
なんて、あらぬ想像を膨らませてしまうのだった。