『初クエスト』
(・・・勢いでギルドに加入してしまった)
「じゃあ、これ行きましょ!」
「いいわね~! でもでも~、今日は新入りがいるから~!」
「えー! 皆がいるなら大丈夫でしょ!?」
「そうかもね~。 う~ん。 じゃあ、行っちゃいましょうか!」
ここは、『バスラ王国』『冒険者ギルド』。
ギルド加入の手続きを済ませた『ダストボックス』の面々は、今日の分のクエストを選んでいた。
と、言ってもパンツァーとクチーナは端でイチャイチャ、フォルは掲示板が見えなかったのが悲しかったのか、肩を落として食事席でジュースをチビチビ。 フォカラーはフォルの前で、加入してよかったのか自問自答中。
選んでいるのはメンテとアタランテの2人だけだ。
クエスト受注の手続きを済ませたメンテとアタランテは、フォルとフォカラーのもとに来る。
その様子に気づいたパンツァーとクチーナも戻ってくる。
「決まったわよ!」
アタランテがギルドメンバーにクエストが書かれた紙を見せつける。
フォカラーが紙を見る。
「・・・Bランクダンジョン。 甘岩の採集。 楽なクエストだな」
「そうよ! あんたがいるからね!」
アタランテは、もっと難しいのでも行けわよ!と胸を張っている。
「俺は、もっと難しいのでも行けるぞ」
「ふん! 口ではなんとでも言えるのよ!」
「な!」
「は~いはい! フォカラーくん! それならそれを証明してくださいね~!」
にっこり笑顔でフォカラーをいさめるメンテ。
「・・・わかった」
その笑顔に素直に従うフォカラー。
不思議と逆らう気が失せるのだ。
「じゃあ、行きましょ~!」
えいえいおー!
と、手をあげるメンテ。
一緒に手を上げるアタランテ。
『ダストボックス』は、ぞろぞろとダンジョンへ向かった。
◻
『バスラ王国』『近郊』。
『Bランクダンジョン』『第3迷宮』。
通称、『甘岩迷宮』。
岩で囲まれた洞窟のような迷宮。
地下5階まであるその迷宮の入り口。
「さぁ! 今日も収穫行きますよ~!」
白く塗られた、美しい鉄の杖を持って右拳をあげる、白い修道女の服を着た聖女『メンテ』。
やる気満々である。
「おー!」
素直な笑顔で、メンテの真似をして右拳を上げる美少女『アタランテ』。
軽装、重要箇所にのみつけられた防具。 後ろ腰には、2本のダガー。
首と頭など、極端に防具が装備が少ないのは、機動力が削がれないためである。
「頑張るぞ!」
ガッツポーズをして、気合いをいれているのは、黒装束の男の娘『フォルトゥーナ』。
後ろ腰には短剣。 こちらも軽装。
パッと見、忍者に見える。
「甘岩か・・・クチーナ。 ちょっと拝借してケーキでも作ってくれないか?」
背中に大きな盾。 重装備。 鉄に赤い装飾のなされたその鎧に身を包むイケオジ『パンツァー』。
左腰には、鉈のような直剣。
「いいわよぉ! 心を込めて作っちゃうわぁ!」
パンツァーの腕に右手で抱きつき、くねくねしてる黒いローブ姿の茶髪三つ編み美女『クチーナ』。
木の枝を左手でくるくる回している。
「はっはっは! 楽しみだなぁ!」
(・・・緊張感が無さすぎる。 ダンジョンだぞ。 Bランクでも油断したら死ぬんだぞ。 大丈夫か?)
呑気な『ダストボックス』の様子に、眉を潜めるフォカラー。
いつも通り、黒っぽい軽装と動きやすさ重視の最低限の防具。
腰には、黒い直剣。
「それじゃあ、いつも通り潜っていきましょうか!」
メンテの声に全員が立ち位置につき始めた。
前から、パンツァー、アタランテ、クチーナ、フォル、メンテの順。
「俺は・・・」
「何してんのよ! なんでも出来るんでしょ!? 好きなところに入りなさいよ!」
「いや、でも!」
フォカラーの頭に浮かぶのは、自身を追放した男の言葉。
『中途半端』。
確かにどこでもやれる。
確かになんでもやれる。
だが、迷惑をかけてしまうかもしれない。
「・・・はぁ。 メンテ! あの人面倒だわ! 置いていきましょ!」
「ふえ~!? そ、それはダメです~! フォカラーくん! 一番得意な事はなんですか?」
聞かれて困る。
一番得意な事。
剣を振るのも、盾を構えるのも、魔法を放つのも、敵を弱らせるのも、味方を強くするのも。
均等に、そこそこやれる自身はある。
が、やはり中途半端なのだろう。
それを考えると、やはり、うまくやれる自信が持てない。
「う~ん。 それじゃあ、一番慣れていることはなんですか?」
「・・・慣れていること。 それなら」
追放されたパーティ。
そこでの役割。
「・・・『バッファー』」
「それなら、中衛ね! わたしの後ろに来なさい!」
「待て! だが!」
「めんどくさい! 黙ってつきなさい!」
問答無用である。
「は~い! 中衛入りま~す!」
メンテも笑顔で促す。
フォカラーはため息をついてアタランテの後ろについた。
「・・・なんでも出来るだったな?」
歩きだしてすぐ、先頭のパンツァーがフォカラーに質問した。
「あぁ」
「じゃあ、やっぱり中衛だな。 基本はバフで構わない。 だが、状況に応じて動け。 それから、周りを見てくれると助かる。 俺が基本的に見てるが、目が多いのに越したことはない。 もし長く続けてくれるなら、今後はそれもお前の役割になるだろうしな」
「・・・わかった」
頷くフォカラー。
正直、今はなにも考えたくないから、誘われたこのギルドに流されるままに加入しただけだ。
本加入しているつもりではないが、いつまでいるかは考えていない。
このまま居続けても良いだろうが、合わなかったらすぐにやめる気だった。
「それじゃ、頼む」
「・・・あぁ」
パンツァーへの返事は、少しぎこちないものだった。