『ダストボックス』
リビング、テーブルを囲む7人。
「「「「「「いっただっきまーす!」」」」」」
食事を始めた面子に気後れする黒髪の青年『フォカラー』。
小さく挨拶をした後、手をつける。
「・・・うまい」
思わず笑顔になる。
「あら、嬉しいわ!」
フォカラーの前で微笑むフードの茶髪三つ編み美女。
「あらためて自己紹介しましょ! じ~こしょ~かいっ!」
お誕生席で、手を合わせて提案する金髪碧眼の純白聖女。
「なんで!? どうしてこんな知らないやつのためにわたしの名前を言わなきゃならないのよ!」
メンテの右前、フォカラーから見て席1つ開けた隣、そこで怒っているのは、腰上までの長い赤色のハーフツインアップの美少女。
「良いですか? 知らないから知り合うんです! その為の自己紹介なんですよ~? と、言うことでまず私です!」
ピッと右手を上げて話を進めていく巨乳聖女。
「いや、でも!」
「私は『メンテ』と言います~! 21歳、職業は『聖女』で、担当は『最後衛』! ちょっとした回復が出来ます! あとこのギルドのリーダーです!」
「話聞きなさいよ!」
アタランテの話しに耳を貸さずに、マイペースに微笑みながら話を進める聖女『メンテ』。
「リーダー・・・?」
ピンと来ない単語に首をかしげるフォカラー。
「なによ? 文句あんの?」
そんな、フォカラーの反応に気づいたスレンダーな赤髪美少女が、ムスッとした顔で睨んだ。
「それじゃあ、次は~・・・。 お話したいみたいだからアタランテちゃん! 次よろしくね!」
「なんでそうなるのよ!?」
「いいからいいから! ほらほら~!」
「くぅ~! もう! メンテさんが言うから仕方なくなんだからね!」
腕を組んで話し始める美少女。
「『アタランテ』よ! 歳は16。 職業は『剣士』、武器は『双剣』。 どっちも『ダガー』よ。 担当は『前衛』。 とにかく斬るわ! 後、ギルドの洗濯担当ね・・・ってこれは関係ないか」
「じゃあ次僕!」
アタランテの前の席でぴょんと手を上げたフォル。
「僕は『フォルトゥーナ』! 8歳です! フォルって呼んでね! こんな見た目だけど男です! 職業は一応『盗賊』になるのかな? 担当は『中衛』です! ちょっと運が良いです! ギルドでは掃除担当です!」
「はっはっは! ちょっと運がいいか! はっはっは! 面白いことを言うな!」
黒い短髪と整った顎髭が似合う、そんなイケオジが大笑いして右隣のフォルの背中をたたく。
「ふふっ! どうせ信じてくれないでしょ」
「な~に、俺らは知ってるぞ!」
「へへっ。 ありがとう」
「さて、俺だな」
ゴホンと咳払いをした後、イケオジは続ける。
「俺の名は『パンツァー』。 もう36になるか? え、36・・・?」
言って自分で驚くパンツァー。
「36になっても素敵よぉ。 なんなら、色気が増してどんどん目が離せなくなるわ」
「『クチーナ』・・・」
左隣の黒いローブ姿の美女を見て嬉しそうにするイケオジ。
突然見つめあう2人。
甘い雰囲気。
「ちょっと! 止めなさいよね! お客さんの前なのよ!?」
アタランテが立ち上がって空気をぶち壊す。
「おっと、これは失礼。 さて、気を取り直して。 俺の職業は『重戦士』。 『大盾』と『鉈』で『タンク』をやってる。 だから担当は『最前衛』になる」
ゴホンと咳払い。
キリッとカッコつけた顔。
「俺がいる限り、パーティメンバーに怪我はさせねぇ」
きゃー! と黄色い声援を送る茶髪美女。
他のメンツは呆れた顔。
反応に困るフォカラー。
「あ、あとギルドではフォルと一緒に掃除を担当している。 よろしくな」
最後は気さくな笑顔で挨拶を終えた。
「あらぁ、気づいたら最後になっちゃったわぁ」
頬に手を当てて微笑む茶髪の美人。
穏やかな雰囲気を纏っている。
「私は『クチーナ』。 昨日29になったわぁ。 職業は『黒魔道士』。 担当は『中衛』。 本当は『攻撃魔法』を使いたいのだけれど、私、『デバフ』しか出来ないのよぉ。 だから、こんな私を拾ってくれた『パンツァー』を愛してるのよぉ。 もちろん、このギルドも」
ギルドの面々が見るからに照れ臭そうにしている。
「あ、ギルドと言えば、私は料理担当ねぇ。 あ! そうだわぁ! もしお腹痛くなったら教えてねぇ?」
思い出したかのように、申し訳なさそうにしながら言うクチーナ。
「え・・・」
「私、力を制御出来ないの」
「・・・は?」
衝撃の告白に動きを止めるフォカラー。
まさか、この料理にも『状態異常』になるようなデバフがかけられているのか・・・?
「大丈夫だ! 俺がいる!」
親指を立てて歯を見せて笑うイケオジ。
何が大丈夫だと言うのか!
「もう! パンツァー最高! 愛してるわ!」
ぎゅっと抱きつくクチーナ。
「はっはっは! 俺も愛してるぜ!」
「きゃ~!」
「他所でやって! ここには子どももいるのよ!?」
「アタランテちゃんもね~!」
「め、メンテさん!?」
「さてさて~? フォカラーくん! 教えてよ! あなたのこと!」
「え、あ、わかった」
情報過多でパンクしそうになるフォカラー。
もともと、人付き合いは苦手なのだ。
「よし」
気合いをいれて立ち上がる。
「俺の名は『フォカラー』。 歳は18。 職業はなんでも、担当はどこでも。 基本的には『直剣』を使う『剣士』で、『バフ』をかけて支援していた。 まぁ、なんでも出来るんだが、中途半端だったらしい。 それが理由でパーティを追放された」
フォカラーの自己紹介を聞いて、全員が動きを止めた。
「追・・・」
「・・・放?」
全員の声が揃った。
「え?」
重たい雰囲気に戸惑うフォカラー。
いや、言って失敗したかなとは思ったのだ。
せっかく助けてもらったのに、いきなり『追放』されたと言うのは失敗したかなと後悔したのだ。
だが。
少々、雰囲気が重すぎる気がする。
「つ、つつつ、追放されたの?」
震えながら確認するのはアタランテ。
「パ、パパパ、パンツァー!」
「あ、あぁ。 わかってる」
抱き合って涙目のクチーナとちょっと怒った顔のイケオジ。
「つい・・・ほう」
悲しそうな目をするフォル。
「な、なんだ?」
「フォカラーくん!」
バンッとテーブルを叩いて立ち上がった聖女メンテ。
コップに入っていたオレンジジュースが揺れる。
「な、なんだよ!?」
驚いて身構えるフォカラー。
ずんずんと歩いてくるメンテに焦る。
なんだ? なんなんだ!?
ぎゅっ。
突然抱き締められるフォカラー。
「辛いですよね・・・。 悲しいですよね・・・。
わかります。 わかりますよ」
優しい柔らかさとお日様の匂いがフォカラーを包む。
内心ドキドキである。
「な、何を・・・」
「わかるんです!」
放そうとしたフォカラーの手が、メンテの勢いに止まる。
「なにが・・・?」
フォカラーは問う。
こんな、楽しそうなやつらが俺の何をわかると言うのか。
「ここにいる皆は、追放された人なんです!」
返ってきたのは、思いもよらない言葉だった。
「え?」
「私は、愛していた人に」
メンテが言った。
「わたしは、幼馴染みに」
アタランテが言った。
「ぼ、僕はお兄ちゃんに」
フォルが言った。
「俺は、国に」
パンツァーが言った。
「私は、両親に」
クチーナが言った。
「ここには、追放された人たちが集まっています。 皆、心に傷を持ってる。 似た者同士が集まったギルド。 『ダストボックス』です」
青年を抱き締める力が強まった。
「あなたは誰に追放されたんですか?」
「俺は・・・親友に」
「そうでしたか。 大丈夫です。 ここは、あなたを受け入れます。 どうですか? このギルドに来ませんか?」
離れる。
微笑む。
聖母のような笑みに、フォカラーの力が抜ける。
考えるよりも先に手を握っていた。
「お願いします。 俺を仲間に入れて下さい」
「はい! 喜んで!」
こうして、フォカラーは『ダストボックス』に仲間入りした。