プロローグ
「おまえ要らねーわ! 追放!」
ふざけているのかと思った。
こんなことが許されていいのかと思った。
『バスラ王国』。
とある路地裏。
土砂降りの中で、地に手をつける黒髪の青年が1人。
彼を見下ろすのは、金髪の美男子。
ローブ姿の美女。
勝ち気な女騎士。
彼らは、『勇者パーティ』と呼ばれるパーティの1つだった。
しかし、失敗した。
『魔物』が闊歩する、『Sランク』『ダンジョン』。
世間一般では、最高難関と呼ばれている、『四大迷宮』が1つ。
『東の小陽』。
普段の彼らであればなんの問題もなかった。
なにも、『ダンジョンマスター』を倒す必要は無かった。
『最下層』1個手前の層で採れる特別な植物を採るだけの『クエスト』だったのだ。
だが、失敗した。
理由は単純明快。
痴情のもつれである。
パーティリーダーの金髪が、同じパーティの女2人に手を出した。
それがバレ、一夫一妻を教えとする宗教を信じる女騎士がキレた。
黒髪の青年は、このまま挑むべきではないと何度も訴えた。
だが、金髪の美男子はかなり焦っており、美男子の訴えを聞く事はなかった。
無理に『ダンジョン』へ入ったのだ。
結果、失敗。
幸い、犠牲者や負傷者はでなかったが、しばらく『Sランク』『ダンジョン』に潜れないほど多くの道具と資金を無くした。
我を忘れた金髪の美男子は、その責任を黒髪の青年に押し付けた。
中途半端なお前が悪いと。
前衛も中衛も後衛も、剣術も魔術も回復も、タンクもバフもデバフも、全部が中途半端なお前が悪いと、全責任を押し付けた。
「消えろよ、ゴミ」
あまりの理不尽。
親友だと思っていた。
もう、10年近くの付き合いだ。
昔から女癖は悪いが、面倒見が良く、馬が合い、強く、尊敬もしていた。
決して、バカな真似はしないと思っていた。
それがどうした。
彼が今しているのは、バカな真似ではないか。
「・・・本気、なんだな?」
黒髪の青年は、ゆっくり立ち上がる。
「本気だよ」
「わかった。 今まで世話になった」
「あぁ、装備や道具はそのままでいいぞ? 親友からの餞別だ」
「・・・くっ」
踵を返す。
これからどうすればいいのかわからない。
わからなくても、進まなければならない。
後ろで痴話喧嘩を始めた3人を気にも止めず、フラフラとどこかへ向かっていく。
雨が止むまで歩き続けた。
日が落ちても歩き続けた。
変わらない町の中をぐるぐると、目的もなくただ、歩き続けた。
途中で見つけた出店の度数の高い酒は、今までで一番不味かった。
そして、とうとう日が昇る。
雨上がり。
朝日が差し込む。
かくしてたどり着いたのは、おんぼろギルドハウス。
昨日の雨で濡れたそのギルドは2階建て、木製の一軒家。
入り口の上に飾られた、傾いた看板を見て青年は呟く。
「『ダストボックス』・・・。 ゴミ箱? ははっ、ひどい名前のギルドだ」
まるで今の俺を呼んでいるみたいだと自嘲気味に笑う青年。
笑うと同時、ギルドの扉が開いた。
「ふえ~! ゴミ出し忘れてました~!」
飛び出てきたのは、金髪碧眼の美人。 真っ白な修道服の聖女だった。
美しい腰上までの金髪と宝石のような碧眼。 その体で聖女は無理があるだろと言わんばかりのプロポーション。
男であれば誰もが目で追ってしまうだろう、そんな美女が飛び出てきた。
それも、両手にゴミ袋を持ち。
慌てた様子で。
それはそれは、勢い良く。
「ほんと、しっかりしなさいよね! って、メンテさん! 前々!」
「ふえー!? きゃあ!!」
「なっ!?」
二日酔で働かない頭。
疲れきって重たい体。
避けれなかった。
「あぶっ!」
顔面が柔らかなものに包まれる。
お日様の良き香りに包まれる。
「うがっ!?」
そのまま後頭部を強打。
意識喪失。 幸せな感触は一瞬で消え去った。
「え!? ちょ!? やだぁ!」
馬乗りで『聖女』が焦りだす。
急いで駆け寄る、ハーフツインアップの腰下まで落ちる赤い長髪の少女。
「あちゃ~・・・」
その少女は頭を抱えた。
「凄い音が聞こえたけど大丈夫!?」
扉から顔を出したのは、色素の薄い短髪の幼い幼女。 に、見える少年。
「あらあらまぁまぁ、うふふっ。 メンテもお盛んねぇ?」
「いや、あれはそういんじゃないと思うぞ?」
青年が来たのと反対から仲良さそうに腕を組んで歩いてきた2人組は、髭を生やした黒い短髪で濃いめの顔をしたイケオジと、黒いローブを着た三つ編みの茶髪美人。
お似合いの2人である。
「ご、ごめんなさい~! しっかりしてください~!」
ゆっさゆっさと揺らしながら揺らす聖女。
これが、黒髪の青年『フォカラー』と、追放されたやつらが集まるギルド。
通称『ゴミ』が集まる『箱』
『ダストボックス』との出会いだった。
不定期更新です。
『努力畢生』優先で更新してますので、更新はゆっくりになると思います。
あっちが、重めなので、こっちはテンポ良く読める作品に出来ればいいなと思っています!
よろしくお願いします!