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07.穏やかなランチタイム

 

 それから二人は揃って教室に戻り、無事朝礼と一限目の授業を終えた。

 そして、友人関係になってから初めて迎える休み時間。


「オーウェン、さっきの授業の風魔法の範囲についてなんだけど……」

「ああ、それね。少し分かりにくかったから、昼休みにでも教えようか? ジェシカはどう?」

「助かるよ〜! ありがとう!」


 互いに名前で呼び合い、親しげに、そして楽しそうに話す二人の姿に、クラスメイトたちは目を見開いた。

 二人は悪い意味で目立つ存在ゆえ、「あの二人、何で急に仲良くなったの?」とクラスメイトたちはたちまち疑問の声を上げた。


 更に、これまでのジェシカはあらぬ罪を着せられていたことで孤立し、いつも暗い表情をしており、オーウェンも基本的には挨拶程度で、ほとんど会話をしていなかった。

 そんな二人の姿を知っているからこそ、クラスメイトたちはすぐにこの状況を受け入れられなかったのだ。


「ねぇ、皆、私たちの方見て噂してるね」


 ジェシカはオーウェンに少し近付き、ひそひそ話す。

 オーウェンはコクリと頷き、小さい声で返答した。


「驚いてるんだろうね。でも、この感じならわざわざ話しかけてきたり、喧嘩をふっかけられることはないんじゃないかな。一応俺、隣国からの留学生だし。相当な馬鹿じゃないなら面倒事は起こしたくないはずだよ」

「確かに」


 とはいえ、ラプツェや攻略対象たちはオーウェンがいようと言いがかりをつけてくるんだろうなぁ、とジェシカは感じていた。

 いかんせん、彼らは相当な権力と地位を持ってしまっているから、多少のことなら捻り潰せそうだ。


(そうなると、やっぱりオーウェンとラプツェたちを近付けるのは危険だなぁ。オーウェンまで酷い言葉を言われるかもしれない。できるだけ、あの人たちと関わらないように本当に気をつけなきゃ)


 ジェシカが険しい顔をしていると、オーウェンは彼女の顔の前で両手をパチン、と合わせた。

 ハッとしたジェシカは、驚いた様子でオーウェンを見つめた。


「な、何!?」

「何を悩んでるのか知らないけどさ、友だちなんだから何でも相談してよ」

「オーウェン……! 貴方って人は、もう……!」


 優しい、優し過ぎる。こんなに良い子と今までろくに話していなかったなんて、なんだか損した気分だ。


 オーウェンの優しさに胸を打たれているジェシカを見て、男子の二人組がふっと馬鹿にしように鼻を鳴らした。


「おい? 聞いたか? 友だちだってさ」

「ある意味いいんじゃないか? あんなにか弱く美しいフリントン公爵令嬢を虐める悪女と、気味の悪い留学生の組み合わせ、くくっ」


 小声で話しているつもりのようだが、その声はしっかりとジェシカの耳に届いた。


「オーウェン、あんなの気にしなくて良いからね」


 ジェシカはそう告げると、男子生徒たちに般若のようなおっかない表情を見せる。

 男子生徒たちが肩をビクリと揺らしたところで、再びオーウェンに付き合った。


(私のことはまだしも、オーウェンのことを悪く言う人は許さないんだから!)


 この時、ジェシカは知らなかった。

 男子生徒たちのあの反応はジェシカに凄まれたからではなく、オーウェンの前髪の隙間からほんのわずかに見えた冷たい瞳に恐れを抱いたからなのだと。



 ◇◇◇



 昼休みになり、ジェシカとオーウェンは学園の北側の敷地内にあるガゼボに来ていた。

 あまり陽も当たらず、庭園の花々も観ることができない人気のない場所だが、学園全体を敵に回しているジェシカからすると、この場所は穴場スポットだった。


「オーウェン、お昼ご飯を食べよう!」

「うん。ジェシカは何を頼んだの?」

「今日はね〜テイクアウトのAランチ!」


 王立学園の学食は貴族たちからの寄付のおかげもあり、身分に問わず全員が無料で食べられる。


 しかし、食堂は一斉に多くの学生が集うため、ジェシカは毎回ランチをテイクアウトして、ここで食べていた。わざわざ生徒たちのサンドバッグになりたくないからだ。


 それに、ラプツェや攻略対象たちと鉢合わせたらそれこそ面倒だ。

 生徒会のメンバーである彼らは、特別に食堂の一番奥にある個室で食事をする権利を持っているが、そこに行くには一般の生徒たちがいる食堂を通らなければならないため、リスクを回避することが重要なのである。


(大雨と強風のダブルパンチの時は、さすがにここでは食べられないけど、外で食べるご飯って美味しいのよね)


 周りのことも忘れられるし、気分転換になる。

 何より今日はオーウェンがいるため、ジェシカは終始頬が緩んでいた。


「それにしても、良かったの? オーウェンまでテイクアウトランチにして。いつもは食堂で食べてたんでしょう?」

「食堂にこだわりがあるわけじゃないから大丈夫。ここの方が静かだし、それにジェシカと一緒の方が美味しいと思うから」

「オーウェンが癒やし過ぎる……! マイナスイオン〜!」

「何言ってるの?」


 オーウェンのツッコミが入ったところで、二人はそれからランチボックスを開けて、バゲットに野菜やハムが挟まれたサンドイッチを食べ始めた。


(オーウェンって端から順番に食べるんだぁ。好き嫌いはないのかな? というか、何でこんなに姿勢が悪いのに食べ方はめちゃくちゃ綺麗なんだろう。やっぱり貴族だから?)


 このガゼボを見つけるまでは、ジェシカは食堂で昼食をとっていたことがある。

 そのため、他の学生たちの食事風景も知っているのだが、皆ここまで美しかっただろうか。


「なんというか、気品みたいなものを感じるというか……。え? オーウェンって優しい上に気品まであるの? 凄くない?」

「……盛大な独り言だね。あと、何が凄いかは知らないけど、食べ終わったら、授業で分からなかったところを教えるから、早く食べなね」


 オーウェンに指摘され、ジェシカはへらっと笑みを零した。


「あはは、ごめんね。オーウェンばっかり見てて全然食べてなかった」

「……ジェシカってさぁ」

「んー?」

「いや、何でもないよ」


 オーウェンはそう言うと、すぐに食事を再開させた。


(……? 何だろ?)


 オーウェンが何を言おうとしたのか気になったものの、勉強の時間を確保しなければならないかと、ジェシカは尋ねることはしなかった。

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