正体がバレてからの学園生活②
(オーウェンが告白されているのを聞いちゃうなんて……!)
ここ一週間のオーウェンのモテっぷりからして、告白の一つや二つは受けていることは分かっていた。
オーウェンはわざわざ報告してこなかったが、それは疚しいことがあるわけではなく、ジェシカを気遣っての彼の優しさのだということも容易に想像ができた。
それなのに、自ら告白現場の側に訪れ、熱烈な告白を耳にしてしまうなんて……。
(なんだろう。この複雑な気持ち……)
オーウェンが誰かに靡いてしまうと疑ってはいないし、告白さえもされないように女子生徒から距離をとって! とも思っていない。
むしろ、この年頃の女子にとって恋はとても偉大なもので、告白をするなんて相当勇気が必要なはず。
彼女たちが傷付かないように、オーウェンには誠実な対応をしてもらいたい、とさえ思っているのだけれど、同時にこうも思ってしまうのだ。
(今、オーウェンの頭の中が目の前の彼女のことでいっぱいになっているのが……嫌だ)
「うわぁ、自分が面倒くさい……」
ジェシカは誰にも聞こえないような声で呟くと、両手で顔を押さえる。
すると、曲がり角の奥からオーウェンの声が聞こえてきた。
「君がどれほど俺に好意を持ってくれていても、俺の答えは変わらない。申し訳ないが諦めてほしい」
淡々とした声色のはっきりとした拒絶と謝罪。
恋愛初心者のジェシカからすると、オーウェンの返答は相手にあらぬ期待をもたせたり、過度に傷付けたりしない最善のもののように思える。
(さすがオーウェン……。というか、さっさとこの場から離れなきゃ)
一世一代の告白を盗み聞きするなんて悪趣味にも程がある。
そろそろメイも帰ってくるだろうからガゼボに戻ろうと思っていると、聞こえてくる金切り声にジェシカは足を止めた。
「……っ、だから、どうして私ではだめなんですよ!? こんなに美しい私が恥を忍んで想いを告げているというのに、そんな返答では納得できませんわ!!」
自らを美しさを誇示し、オーウェンに詰め寄るあたり、相手の令嬢は若干……いや、かなり面倒なタイプのようだ。
(オーウェンが心配だ)
一時はこの場から撤退しようとしたジェシカだったが、恋人の身を案じてこの場に留まることを決めた。
相手の女子生徒のことはよく知らないが、オーウェンの返答によっては振られた腹いせに騒ぎを起こす可能性だってある。
(オーウェンは優しいからなぁ。もし何かあったら、私が助けなきゃ!)
ジェシカはそう決意し、二人の会話に耳をそばたてた。
「どうして君じゃだめなのか、はっきりと言わないと分からないの?」
聞こえてきたのは、オーウェンの低くて冷たい声。
ジェシカは一度だって、こんな声を向けられたことはない。
「あ、あの……」
角からちらりと顔を出し、女子生徒の様子を窺えば、普段の穏やかなオーウェンとのギャップに、困惑の表情を浮かべているようだった。
そんな彼女に構わず、オーウェンは淡々と話し始める。
「君は以前、ジェシカに対して嫌がらせをしたよね」
「そ、それは……」
「俺はね、友人を──自分が大切にしているものを傷付けるような人をどうやったって好きになれない」
「……っ」
オーウェンの発言に、ジェシカは胸がぎゅうっと締め付けられた。
(オーウェン……)
恋人だと公言してほしくないと伝えたから、友人だと、自分が大切にしているものだと言い方を変えてくれたのだと分かる。
──オーウェンに大切にされている、愛されている。
嫌というほどそれを実感してしまい、ジェシカの頬は火照りを持った。
「それと、俺が身分や素顔を明かした途端に態度を変えられても信用できないし、こういう場面で自分の見た目を誇示するところも好きになれない。ここまで言えば、理解できるかい? さっきも言ったけど、悪いがきっぱり諦めてくれ」
「〜〜っ、もう結構ですわ!」
その言葉を最後に、女子生徒が去っていくのが足音から分かった。
ジェシカが手で頬を仰いで熱を冷ましていると、自分の足元にぬっと影が伸びたことに気が付いた。
「ジェシカ、もう出てきて良いよ」
顔を上げた先にいた恋人に、ジェシカは目を見開いた。
「……!? オーウェン、気付いてたの!?」




