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03.状況を整理しましょう

 

 学園寮に帰ったジェシカは、急いで自室へと戻った。

『マホロク』をプレイしていた時に何度も見た、素朴で可愛らしいジェシカの部屋に感動を覚える。


「凄い〜! 本物だ! って、そうじゃなくて……」


 ついつい昂ってしまう気持ちを抑え、ジェシカはベッドに体を抛つと、天井を見上げる。


「分かってたことだけど、私、本当にジェシカになったんだなぁ……」


 これまでのジェシカの記憶が馴染んだためか、学生寮で割り当てられた自分の部屋までの道を迷うことはなかった。

 言語や魔法の知識、これまでどのように感じていたのかという感情の部分も、はっきりと覚えている。


「記憶については良いとして、問題なのはこれからについてよね。悪役令嬢のラプツェの嘘のせいで攻略対象だけじゃなくて学園中の生徒たちに嫌われてしまっている状態だし、恋愛は疎か青春も楽しめそうにないや……」


 元から攻略対象たちのことは遠目から眺められれば……くらいにしか思っていなかったけれど、裏も取らずラプツェの言うことだけを鵜呑みにし、ジェシカを苦しめる彼らには、もうさらさら興味もない。


 でも、本当は友だちは欲しかった。前世では貧乏だったことと、アルバイトや勉強に明け暮れていたことから、友だちと呼べるような存在がほぼいなかったからだ。

 ただ、この状態では友だちを作るのも大変そうだし、キラキラとした学園生活は送れないだろう。


 だとすれば、これからは何を目的に学園生活を送るのか。


「やっぱり、魔法を極めるしかないかな」


 その理由はいくつかある。

 まず一つは、これまでジェシカが魔法の勉強や修行を頑張ってきたからだ。前世の記憶を思い出したからと言って、過去の努力を無駄にしたくはなかった。


 二つ目は、ジェシカの両親に関係している。


 そもそも、この世界で魔力を持つのは貴族だけだと言われていた。そんな中、約一年前に平民のジェシカが突然魔力を発現したことは、国内でも話題に上がった。

 更に、ジェシカは国内でも随一の膨大な魔力を有していたことで、国の役人はジェシカに王立魔法学園への入学を勧めた。

 いくら膨大な魔力があっても、扱い方が分からなければ宝の持ち腐れだからだ。国としてはジェシカに魔法について学ばせ、その力を国のために尽くしてほしいと考えていたのだ。


 もちろん、国からの推薦ということで学費や学生寮費など、ありとあらゆることを国が保証してくれるらしい。正直、かなりの高待遇だ。


「けれど、ジェシカのお父さんとお母さんは、無理をしなくてもいいと言ってくれた。貴族ばかりが在籍する学園に入ることを、心の底から心配してくれた……」


 あの時、とても嬉しく思ったこと、両親の愛情を強く感じたことは、今でもはっきりと胸に刻まれている。


 そして、ジェシカは王立魔法学園に通うことを決めた。

 魔法関連の職場は給与を含めて高待遇のところが多かったため、自分が魔法を極めれば家族に恩返しができるとジェシカは考えたのだ。大切にしてくれる両親を、自分も大切にしたかったのだろう。


「……うん。両親のためにも、今まで以上に魔法の修行を頑張らなきゃ。それに……」


 ジェシカはラプツェと攻略対象たちの顔を頭に浮かべ、眉間に皺を寄せた。


「ラプツェや攻略対象たちが上に働きかけて、私が良い職場にお世話になれる可能性を潰してくる可能性があるしね」


 先程、魔法関連の職場は高待遇のものが多いと言ったが、それは貴族の話だ。

 ジェシカは平民なので、出生のことだけで待遇において足元を見られる可能性がある。その上、将来この国を担っていくのだろう攻略対象たちが圧力をかけたら、どうなるか。想像は容易かった。


「膨大な魔力を持ち、魔法学園に入学したのに、こんなことのせいで辞めるのは悔しい。……でも、このままいったら、やっっすいお給料の上、ぜっったい一番過酷な魔法関連の部署に回されて、休みなし手当なし残業と最悪の職場環境だけが待ってるんだ〜!」


 そんなの嫌だ。嫌すぎる。ブラック企業で社畜をしていた経験があるからこそ、それだけは是が非でも避けたい。


 つまり、これまでのジェシカのため、両親のため、そして自分のために、魔法の上達は欠かせない。

 誰にも代えがたいような魔法の技術を身に付けさえすれば、攻略対象たちが何をしても、ジェシカの待遇はある程度保証される可能性が高いからだ。


「よーし! 方針が固まった! 一にも二にも、魔法を頑張る! これでいこう!」


 ジェシカは勢いよく上半身を起こすと、拳を真上へ突き上げた。


 この学園は一年制で、現在入学して九ヶ月が過ぎた頃。つまり、魔法検定試験は今から三ヶ月後に行われる。いわゆる卒業前の最終テストだ。

 これは就職先の判定に最も重視され、秀でた成績を残すと、より待遇の良い職場に就職することができる。


「確かゲームでは、魔法の実技試験と学科試験があったっけ。その内容はあまり細かく描かれていなかったけれど、何にせよ勉強に修行に頑張らないと!」


 そう意気込んだジェシカは、現時点で自分がどれだけの魔法を使えるのかを確認するために、様々な魔法を試し始めた。

 明日からまた戦いの日々が始まるけれど、覚悟を決めた彼女は晴れやかな笑顔を浮かべていた。

読了ありがとうございました♡

次回、本格的に物語が動き始めます!

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