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21.パーティー当日

 

 ジェシカは姿見の前に立ち、小さなため息をついた。


「ハァ……。オーウェンとメイが、ぜんっぜん仲良くしてくれない!」


 三人で仲良くなれるように、オーウェンとメイの仲を取り持つと決意してから早一週間。ジェシカは色々と策を講じたものの、どれも大した結果は生まなかった。


 ふたりは、本気でいがみ合っているわけではないだろう。

 とはいえ、オーウェンが感じているだろう疎外感を少なくするためにも、二人にはできるだけ仲良くしてほしいのだが……。


「ま、悩んでても仕方ないか。そろそろ時間だし、着替えなきゃ」


 学園パーティーは、今日の夕方から執り行われる。


 そろそろ支度を……と姿見の前に立ったジェシカは近くから淡いピンク色のシンプルなドレスを手に取り、自分の体に合わせた。


「うわぁ〜〜ほんとにドレスだ……。シンプルだけどとっても可愛い。前世でも今世でも、こんなの着たことない」


 色がピンクということもあって、かなり可愛らしいドレスだ。正直、着る人を選ぶと思う。

 とはいえ、さすがヒロインであるジェシカだ。自画自賛になるが、亜麻色の髪や翡翠色の瞳によく似合っている。

 前世の姿ならば、ドレスが浮いてしまったに違いない。


「ほんと、オーウェンにはお世話になりっぱなしだなぁ。今度何かお礼しなきゃ」


 このドレスは、オーウェンが手配してくれたものだ。

 平民のジェシカに手持ちのドレスがないことをいち早く気付いた彼が、一昨日サラッとこのドレスを届けてくれたのである。

 髪留めや化粧道具一式、靴も言わずもがな。


 メイの件を解決した時もそうだが、やはりオーウェンは貴族なのだと思い知らされる。


(ふふ、そういえばメイもドレスを手配しようとしてくれてたな。我が家が貧乏すぎて力になれない……! って泣かれた時は、どうしようかと思ったけど)


 そうやって、力になろうとしてくれたことが心から嬉しい。もちろん、実際にドレスを手配してくれたオーウェンにも、感謝してもし尽くせない。


「アーダン様、いらっしゃいますか?」


 嫌われヒロインに転生したけれど、友に本当に恵まれて本当に幸せだなぁ。

 そんなふうにしみじみ感じていると、ノックと共に部屋の外から声を掛けられた。


(誰だろう……?)


 部屋に遊びに来るのなんてメイくらいだが、彼女とオーウェンとは支度が終わり次第、学園内のホール──パーティー会場の前で待ち合わせをする手筈になっている。

 そもそも、さっきの声はメイのものではなかった。


(この学園で、オーウェンとメイ以外に私に好意的な人なんていない……)


 嫌な予感がして居留守を使いたくなったジェシカだったが、さすが良心が痛んだのでしぶしぶ扉を開いた。


「はい、どなたで──」

「アーダン様、突然申し訳ありません。あの……」



 ◇◇◇



「準備間に合うかな」


 ジェシカは現在、学園内にある職員室から、自室へと戻っていた。

 パーティーの支度が全くできていないため、廊下を走ってしまうのは勘弁してほしい。


「それにしても、さっきの嫌がらせは初めてだったなぁ」


 少し前、自室に訪れた同じクラスの女子生徒のことを思い出す。


『アーダン様、突然申し訳ありません。あの……担任の先生が今すぐ職員室に来てほしいようです。緊急のようなので、急いでくださいませ!』


 この学園の教師ならば、今日学園パーティーが開催されることを知らないわけがない。生徒たちが身支度を整えていることも、もちろん知っているだろう。

 それでも職員室に呼び出すということは、相当な案件に違いない。


(彼女の言うことが本当なら、だけど)


 再三だが、ジェシカは学園中に嫌われている。

 前世の記憶を思い出した次の日、クラスメイトに教科書を噴水に捨てられた際に彼女もクスクスと嘲笑を浮かべていたことから、例外ではない。


 それなら、もしも教師に言伝を預かっても、わざわざジェシカに伝えないのではないか、と思うのだ。


(……でも、彼女が嘘を言っている確証はない。それに、もしも彼女が言っていることが本当ならば、わざわざ先生からの評判を落とすようなことはしたくない。こんなことで少しでも就職先選びに悪影響が出てほしくないし……)


 そんな思いから、ジェシカは嘘でも致し方なしと判断し、急いで職員室に向かったのだけれど──……。



「ほーんと、よくこんな嫌がらせ思いつくよね。こんなこと考えるくらいなら勉強したら良いのに」  


 結果は、女子生徒の虚言だった。

 彼女一人の思惑か、それともラプツェやその取り巻きたちの指示があったのかは知らないが、おそらく、学園パーティーに参加するジェシカの邪魔をしたかったのだろう。


「ちょっと腹が立つけど……まあ、良いや。今から準備すればまだ間に合うしね」


 そうこうしているうちに、自室のすぐそこまで来ていた。

 ジェシカは気持ちを切り替え、ドアノブに手を伸ばす。


「あれ? 私、鍵って……あ」


 いつもならば絶対に鍵を閉めている。

しかし、先程は来訪者にかなり急かされてしまったことで、施錠を忘れてしまっていたことを今思い出した。


(なんか、嫌な予感がする)


 しかし、ドアノブを掴んで立ち止まっているのも時間の無駄だ。

 ジェシカは警戒心を持ちながら自室に入ると、テーブルの上に置かれたそれを見て、目を見開いた。


「何これ……。何でドレスが破れて──」

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