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18.3人の関係性

 

 メイの事情を知った一週間後の放課後。

 学園の北側にあるガゼボには、ジェシカとオーウェン、そしてメイの姿があった。


「え!? もう援助してくれる貴族が見つかったの!?」


 周りが閑散とした中で、ジェシカの大きな声がその場に響き渡る。


「昨日、隣の領地の伯爵家から援助についての契約書が送られてきた時には、嘘かと思いました……」


 向かいに座るオーウェンにジェシカが身を乗り出す一方で、メイも動揺を隠せずにそう零す。

「はいはい、落ち着きなよ」とオーウェンはジェシカを興奮を鎮めてから、淡々と話し出した。


「この前言ったでしょ? 期待して待ってて、って」

「いや、それはそうかもしれないけど! あれからまだ一週間だよ!? 貴族のあれやこれやはよく分からないけど、そんなに早いものなの!?」

「まあ、あるんじゃない? 現に上手くいったわけだし。……ああ、あと、フリントン公爵家からの援助も既に切ってあるから。快く手を引いてくれたから、そこも心配しないで。これまでの援助に対する返済の期日もゆっくりで構わないらしいし、良かったね」


 オーウェンはサラッと話しているが、これが普通ではないことくらいジェシカにだって分かる。

 新しい援助先を見つけることは、まあ、可能だろう。

 しかし、このスピード。更に、王族の次に身分の高いフリントン公爵家が自ら決めた援助を快く取り下げ、更に返済の期日についても急かしてこないなんてあり得るのだろうか。


(オーウェンが嘘をつくとは思えないから本当なんだろうけど……)


 オーウェンって、一体何者……?


 ジェシカの中に、そんな疑問が浮かぶ。帝国の貴族は、皆これほどに優秀なのだろうか。


(……まあ、それは一旦置いておいて)


 ジェシカはオーウェンからメイに視線を移すと、花が咲いたような笑みを浮かべた。


「アドフィニス様、本当に良かったですね! これでラプツェ様たちから離れることができます。アドフィニス様は、もう自由なんです」

「アーダン様……! お二人とも、改めて、本当にありがとうございました……! 何てお礼を言ったら良いのか……っ」


 隣に座るメイが立ち上がり、深々と頭を下げた。

 ジェシカは急いで立ち上がると、そんなメイを再び座らせ、申し訳なさげに口を開いた。


「オーウェンはまだしも、私は何もしていないので、そんなに頭を下げないでください」

「いえ、そんなことはありません……! もちろん、ダイナー様には感謝してもしきれません……。ですが、私はアーダン様に本当に感謝しているんです」

「え?」


 ジェシカが小首を傾げると、メイは両手で彼女の手をギュッと握り締めた。


「先日ダイナー様が仰っていたように、アーダン様が私のことを気にかけてくださらなければ、今回のことは有り得ませんでした」

「いや、そうかもしれませんが……」

「それに、何よりもアーダン様のお気持ちが嬉しかったのです……!」


 メイは目をキラキラさせて、ジェシカにこれでもかと顔を近付ける。

 吸い込まれそうなほどのメイの大きな目と圧に、ジェシカはたじろいだ。


(な、なんだかメイの様子が変なような……?)


「私を気にかけて何度も話しかけてくださったことや、私を馬鹿にするあの方たちに怒ってくれたこと、私が辛い思いをすることが悲しいと仰ってくださったことも、これまで見て見ぬふりをしてきた私を許してくださる慈悲深さや、手を差し出してくださった優しさも……! 貴女様の人となりに心惹かれてしまいました……! アーダン様は、私にとって女神様のような存在なのです……!」


 更に、息つく間もないほどに浴びせられる賞賛と、若干荒い鼻息。

『マホロク』においてメイは穏やかで控えめな性格だと記憶していたジェシカは、心底困惑した。


(こ、この子、こんな性格だったっけ!?)


 今のメイの姿には、穏やかも控えめも似合わない。むしろ強い。いろんな意味で強い。


「少し落ち着いて──……」

「これが落ち着いていられますでしょうか……! 人生で初めてですわ……! こんなにも誰かのお側にいたいと思ったのは……!」

「え、えっと、アドフィニス様、少し近過ぎでは──……」

「まあ! そんな他人行儀な呼び方はおやめください! 是非、メイ、と! 呼び捨てにしてくださいませ! 私もジェシカ様とお呼びしてもよろしいですか!?」

「え、は、はい! もちろん好きなように呼んでくださって構いませんが──……」

「嫌ですわ! 話し方も楽になさってください! ジェシカ様! きゃー! ジェシカ様と呼んでしまいましたーーーー!!」


 もはやこれは誰だろう。『マホロク』の時とあまりに違うメイにそんなことを思わなくもないジェシカだったが、とある答えにたどり着いた。


(もしかして、ラプツェたちと一緒にいたことで我慢に我慢を重ねた結果、性格が変わってしまったのかな?)


 もしくは、これが本来のメイの姿……とも考えられるが、それを知る術はない。

 とはいえ、それは大きな問題ではないだろう。

 今のメイの姿が、この世界での彼女なのだから。


(なんだかそう思うと、今のメイに違和感がなくなってきたかも。というか、『マホロク』の時の彼女よりも話しやすそうだし、楽しそうだし、何より、ここまで好かれて嫌な気持ちにはならないというか)


 前世では、直ぐ側に嫌な先輩や上司がゴロゴロいた。

 それなのに今は、こんなにもキラキラした目で好意を伝えてくれる子が目の前にいる。

 ──え? これってめちゃくちゃ幸せじゃない?


「メイ、私は女神なんて柄じゃないけど、少しでもメイの役に立てたなら良かった! 良かったら、これから友だちとして一緒にいてくれる?」 

「!? よ、よろしいのですか!?」


 ぱぁぁっと笑顔を浮かべるメイの手を、ジェシカは握り返した。


「私と一緒にいたら、メイも悪く言われることがあるかもしれないけど……せっかくこうして話せるようになったから、もっとお互いのこと知って、仲良くなりたいなって」

「も、もちろんです……! ううっ、今日は私の命日かもしれません……! ああ、ありがたやありがたや……! ジェシカ様とお友達になれたこと、後生に語り継ぎます……!」

「それはやりすぎじゃないかな?」


 相変わらずハイテンションに少し驚くものの、メイはこういう子なんだなぁと思うと自然と慣れてくる。

 しかし、それと同時にオーウェンを放置してしまったていることに気付いたジェシカはハッとし、彼の方に視線を移した。


「えっ」


 その時、見えたオーウェンの顔。とはいっても、もちろん前髪のせいで目は全く見えず、鼻と口元くらいしか見えていない、のだけれど……。


(何でそんなに、優しく笑って……)


 何となく、それが分かってしまった。

 ジェシカが目を見開けば、それに気付いたオーウェンが口を開いた。


「ジェシカ、良かったね」

「う、うん。色々……ありがとう」

「……当然。ジェシカのためだから」

「……!?」 


 優しく、どこか甘ささえ感じるオーウェンの声色。

 ジェシカは一瞬、胸がギュッと掴まれたような感覚を覚えたのだけれど、それはメイの発言によりすぐさま忘れることとなった。


「ダイナー様、此度の件はたいっへん、もうこれ以上ないほどに感謝しておりますが、私がジェシカ様の友人になった以上、ダイナー様はジェシカ様の友人序列第二位になっていただきますからね! 当然一位は私です」 

「ちょ、メイ?」


 この子は一体何を言っているのだろう。というより、友人序列とはいかに? 

 しかし、相手はあのオーウェンだ。基本的に彼は落ち着いていて穏やかだし、メイの発言もサラッと受け流すだろうとジェシカは考えていたというのに。


「は? 何それ。どう考えても俺が一位だと思うんだけど。ジェシカと一番早く友だちになったのは俺だし、ジェシカのことを一番良く分かってるのも俺だ」

「オーウェン!?」


 まさかオーウェンが言い返すとは思わず、ジェシカは思わず大声で彼の名を呼んだ。


「友だちになったタイミングなど小事ですわ! 私は女ですから、これからジェシカ様とあんな話やこんな話もできますし、お泊りをしたり、くっついて眠ったり、あーん! なんてスキンシップも取れますもの!」

「メイ!? もうやめよう!? あとあんな話やこんな話って何!?」


 負けじと劣らず言い返すメイに、ジェシカはもはや突っ込むことしかできない。


「……別に、あーんくらいなら俺にもできる。ジェシカ、明日のお昼にするから、よろしく」

「よろしくじゃなくない?!? オーウェンも落ち着こう!? ね!?」


 それから、二人はしばらくの間、何故か睨み合っていた。

 オーウェンに関しては目が見えないけれど、絶対そうだと確信を持てるくらいには、雰囲気が睨んでいる……。


(あ、あれ? これから三人でほのぼの楽しい学園生活が送れると思ったんだけど、無理かも……? ……まあでも、メイは元気になったし、オーウェンの意外な一面が見られたから、まあいっか!)


 ジェシカはそんなことを思いながら、二人の睨み合いの仲裁に入る。

目の前の二人に必死で、遠くからこちらを見つめる冷たい視線に気付くことはなかった。

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