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17.オーウェンが手を差し伸べる理由


 一寸の揺らぎのないジェシカの声色。

 メイはまた泣きそうになるのを堪えながら、必死に言葉を紡いだ。


「私だって本当は、あんなふうに馬鹿にされたり、見下されるのは嫌です……っ! この環境から、逃げだしたい……! でも……! 私がラプツェ様のお側から離れれば、家や領民が……っ」


 聞いているこちらが胸を打たれる程のメイの本音の叫びに、ジェシカが口を開こうとした時だった。


「──アドフィニス嬢がその約束を反故にしても、君が心配しているようなことにはならないと思うよ」


 オーウェンが冷静な声色で、そう言い放った。


「ど、どういうこと? オーウェン?」


 動揺からか、口をパクパクと開いたり閉じたりするだけのメイに代わって、ジェシカが問いかける。


「アドフィニス男爵領って、確か土地は小さいけど、土壌が豊かで農業が盛んだよね? しかも、昔から農業に携わってきた人たちのおかげで、出荷される作物は高品質で有名でしょ?」

「えっ、あ、はい……!」


 問いかけられたメイは、慌てて同意を示した。


「領内の店にはもちろん、いくつかの貴族とも契約し、屋敷に作物を卸してなかった?」

「その通りです……! ですが、ここ二年は豪雨等による天候不良で作物のほとんどが育ちませんでした。我が領はそれまで天候に恵まれていたので、このような事態に陥ることを考えておらず、蓄えがないものも多くて……。領民たちのほとんどは農業で生計を立てていたので、皆税を払う余裕はなく、領地全体の経営も赤字続きで……。ですから、フリントン公爵家の援助は必須で──」

「確かに一時的な援助は必要だと思う。……でも、それがフリントン公爵家である必要はないよね?」

「……!」


 オーウェンの言葉に、メイに続いてジェシカはハッとした。


「そっか! アドフィニス様の領地の作物を懇意にしてくれる貴族がいるなら、その貴族たちがもしかしたら援助してくれるかもしれない……!」

「そういうこと。俺が知る限りでは、それくらいアドフィニス領の作物には価値がある。だから、俺の方でその貴族たちを当たってみるよ。前々から懇意にしている貴族たちもいることだしね。期待して待ってて良いよ」


 自信に満ちたオーウェンの声を聞いたジェシカは、堪らず彼の両手を握り締めた。


「〜〜っ、オーウェン、凄すぎだよ! ハーベリー帝国の出身なのに、この国の貴族とか領地について詳しくすぎない!? しかも意外と顔が広いの!? ほんっとに凄すぎるよ〜〜! 格好いいよ〜〜!!」

「……っ、別に、大したことは言ってないし、まだ何もやってないからね。ジェシカ喜びすぎ」

「だってさ〜〜!」


 もしオーウェンが言っていることが上手くいけば、メイが今の環境から逃げ出せるかもかもしれないのだ。

 悪意に晒されたり、あんなに辛そうな顔をせずに済むかもしれないのだ。

 そう思ったらどうやったって興奮してしまい、ジェシカはオーウェンの両手を握り締めたまま、今だ唖然としているメイに満面の笑みを向けた。


「アドフィニス様、良かったですね! 私が言うのもなんですけど、オーウェンは本当に良い子で、頭も切れるんです! あ、あとマイナスイオンで、癒しで、旦那さんにしたら絶対幸せにしてくれそうなくらい頼りがいもあって……だから、任せておけばきっと大丈夫ですよ!」 

「……っ、ほんとジェシカってさ、褒め方がずれてるんだよ」


 若干照れている様子のオーウェンを見たジェシカは、むふふっとやや気持ちの悪い笑い声を漏らす。

 すると、メイはオーウェンを見ながら、「どうして……?」と呟くように問いかけた。


「何故、まともに話したことのないような私に、そのように手を差し伸べてくださるのですか……?」


 オーウェンは、ジェシカに掴まれた手をギュッと握り返し、それをメイに見せつけるようにして答えた。


「アドフィニス嬢のためじゃない。ジェシカのためだよ」

「え……?」


 ジェシカの上擦った声を無視し、オーウェンは言葉を続ける。


「ジェシカは優しいから、自分と同じように辛い思いをしているアドフィニス嬢を放っておけなかった。俺はそんな彼女の気持ちに賛同し、手伝うことにしただけ。……だから、俺に対して感謝しなくていい。するなら、このお節介なジェシカにしてやってよ」

「オーウェン……」


 ──きゅん。


(ん? 何、今の)


 感じたことのない胸の疼きを覚えた気がした。

 けれど、この時のジェシカはそれをさほど気にすることなく、今度は片方の手をメイに伸ばした。


「アドフィニス様。……私たちに、貴女を助けさせてください。手を、取ってくれませんか?」

「……っ、けれど、私はアーダン様が噂のような方とは違うと知りながらも、何もできませんでした。それなのに、こんなふうに助けていただくなんて、そんなの……っ」


 ジェシカは首を横に振って、柔らかな笑みを浮かべた。


「アドフィニス様には事情がありました。それなのに、こうして正直に打ち明けてくれた……。それだけで、十分です」

「……! ごめん、なさい……っ、ありがとう、ございます……!」


 メイはそう言って、縋るようにジェシカの手を握った。

 ジェシカはその手を力強く握り返した後、オーウェンと見つめ合い、微笑みあった。

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