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16.掛け替えのない友人へ

 

 心配げな面持ちのジェシカが問いかければ、メイは予想に反して笑顔を見せた。


「あの方たちからあのように思われていることは、全て知っていました。ですから、今更傷付きません」

「メイ様……」   


 けれど、それは幸せを表すものではない。諦めのようなものが、メイの表情から感じ取れた。


「それに、私の家が貧乏で、フリントン公爵家の援助がなければ領地の経営が危ういのも本当です。こんな私が、ラプツェ様率いる上位貴族のご令嬢の皆様と行動を共にさせていただくのですから、多少のことは致し方ありません」

「……事情は分かりました。けれど、あんなふうに言われてまで、何故アドフィニス様はラプツェ様のお側を離れないのですか?」


 ジェシカは前世でも今世でも平民だ。

 貴族たちには貴族たちの考えやルールのようなものがあるのだろうが、細いことは分からない。


 ずっと胸に抱いていた疑問を問いかければ、メイは目を伏せた。


「入学する少し前──公爵家から我が家に援助の話が出た際、ラプツェ様から直々に言われたのです。我が家を援助する条件に、私の側にいるように、と」

「……!」

「理由は分かりませんが、そんなことくらいで援助していただけるならと受け入れました。そして、入学してから少しして、私のことが気に食わないラプツェ様のご友人たちから厳しい仕打ちを受けることになったんです」


 ラプツェたちと一緒にいるメイの表情から、メイが望んでラプツェたちといるのではないのだろうと思っていた。


(けれどまさか、ラプツェが一緒にいることを条件にしたなんて……)


 ジェシカの見立てでは、おそらくラプツェは異世界転生者だ。

 悪役令嬢に転生した彼女が、隠しキャラ抜きの逆ハールートに進んでいるのはほぼ間違いない。現にうまくいっているはず。


(それなのに、どうしてメイを側に置こうとしたんだろう? ゲームでジェシカがメイと友人関係だったことに憧れを抱き、ラプツェもメイと友だちになりたかったのかな……?)


 ありえない話ではないが、そうだとしたらやり方が無茶苦茶だ。強制的に側に置いて、しかも大切にしないで、本当の友だちになんてなれるはずがない。

 五人の攻略対象たちを振り向かせたラプツェが、そんな簡単なことを分からないはずはない……。


(気になる……けど、今は一旦置いておこう。ラプツェのことよりも、目の前のメイのことのほうが大切だもの)


 再びメイへと意識を向ければ、彼女は眉尻を下げておずおずと口を開いた。


「申し訳ありません。つい喋りすぎてしまいました。……とにかく、私は家や領民のために、ラプツェ様のもとを離れるわけには参りません」

「……っ、大切なものを守りたいという気持ちは、私にも分かります。けれど、本当にこのままで良いのですか?」

「え?」

「アドフィニス様は、今の自分がどのようなお顔をされているのか分かっておられますか……?」

「どのような……って……」


 メイはそう言って、ふと手で自分の頬に触れる。

 その時にようやく、メイは自分が泣いていることに気付き、その様子にジェシカは胸を痛めた。


「……こんなふうに泣いてるアドフィニス様を、放っておけません」

「何を言って……っ、私とアーダン様は他人ではありませんか……! それに、人のことを心配している場合ですか……!? ラプツェ様に嫌がらせをしていると、嘘の噂を流されて、学園中から嫌われているというのに……!」

「「……!」」


 メイの発言に、目を見開いたのはジェシカだけではなかった。


「アドフィニス嬢、ジェシカの悪評が嘘だって、知っていたの?」


 オーウェンが問いかければ、メイは涙を拭い、首を小さく縦に振った。


「これでもラプツェ様のお側にいますもの。アーダン様がラプツェ様に何もしていないことくらい、知っていました」


 学園の中には、自分と同じように気付いている人もいると思うとメイは話す。とはいえ、ラプツェやアーサーたちを敵に回すような真似をする人はほとんどいないだろう、ということも。


「──だから、私が話しかけたら避けたんですね」

「え?」


 ジェシカの呟くような声に、メイは上擦った声を漏らした。


「おかしいと思っていたんです。私が何度アドフィニス様に話しかけても、敵意を向けられたり、罵倒されることなく、避けられるのはどうしてなんだろうって」

「…………」

「アドフィニス様はラプツェ様のお側にいて、彼女の味方にならなければいけない立場にありながらも、私の悪評が嘘だと知っていたから……私に罵倒の言葉を浴びせる事ができなくて、何も言わずに避けてくれていたんですね」

「ち、違っ……」


 メイは自分の腹の前で、両手の指をもじもじと絡ませている。

『マホロク』で見たことがある──メイが嘘をついている時の仕草だ。


「優しいですね、アドフィニス様」 

「……っ、だから違っ──」

「……そんなに優しい人だからこそ、やっぱり私は貴女が苦しんでいることが悲しいし、我慢なりません。……私にできることなんて少しかもしれませんが、アドフィニス様を助けたい」

「……っ」


 息を呑むメイに対して、ジェシカはスッと手を伸ばした。


「どうか、この手をとってもらえませんか?」

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