第8話 アルバイト
これから俺が働く事になるバイト先は『喫茶メテオラ』と言い、今は俺の従姉にあたる人が経営している店だ。
高校入学前に母方の祖父がバイト先として紹介してくれたのだ。
元々は母さんの弟である叔父さん夫婦が経営していたようなのだが、2年ほど前に俺の従姉である朝比奈詩織姉さんが引き継いだようだ。
叔父さん夫婦はというと別の県でまた新たに喫茶店を開いて過ごしているようだ。
俺は喫茶店の扉を開けて中に入るとそこには客の注文を聞いてる詩織姉さんの姿があった。
喫茶店の中はそこまで広くはなく客数も少ない。詩織姉さんが1人で全てやっていると聞いた時は驚いたが、俺が知っている限り昔から何でもできた詩織姉さんならこの程度の喫茶店を経営する事など造作もないのだろう。
詩織姉さんは俺が入ってきた事に気づき、注文を聞き終えてから小走りで駆け寄ってくる。
年齢は確か今年で25歳、見た目は長い茶色に染まった髪の毛に優しそうな目元、モデルと言われてもおかしくないレベルのスタイルなど一般的には美人と言われるであろうビジュアルをしている。
「カズくん、やっと来た〜!カズくんに会いたくてずっと待ってたんだよ〜!」
詩織姉さんは昔から俺の事をすごく可愛がってくれている。まぁ少し過剰なところもあり会うなり抱きつかれるのはいつものことだ。
しかし男として胸に顔が埋もれる感覚が嫌いなわけじゃないので詩織姉さんの好きなようにしている。
一通り俺を堪能できたのか体を離してから詩織姉さんは口を開いた。
「んじゃ、早速だけど接客を覚えてもらおうかな。スタッフルームにスタッフ用の制服も用意してあるからサイズが合うやつ着てきてくれる?」
「はい、分かりました」
俺は敬語で返事だけするとカウンターの横にある扉を開き、スタッフルームへと入る。
中は特に散らかっておらず、一つだけある長机の上に三つのサイズの制服が置いてあった。
SにMにLとサイズはあったが、俺は迷わずにLサイズの制服を手に取り素早く着替え、自分の鞄や貴重品などはロッカーにしまってからスタッフルームを出る。
「あ、着替え終わったんだね。よく似合ってるよその制服」
「ありがとうございます」
「サイズはどうだった?」
「ぴったりの大きさで、着心地もいい感じです」
「そう?ならよかった」
俺は詩織姉さんと軽く言葉を交わしてからバイトの説明を受ける。
「カズくんにやってもらいたいのは主に接客かな。いつもは私1人で調理も接客もやってるんだけど、カズくんいる時は私は基本調理に専念するつもりだよ。1人で任せる事ってできる?」
「はい、任せてください」
その後は詩織姉さんから注文の受け取り方、配膳の仕方、レジ打ちの仕方、食器の片付けなどの説明を受けた。
「じゃあまずは・・・・・・」
今はそこまで客が多いわけでなく詩織姉さんも俺に何を頼もうか悩んでいるようだ。
だがちょうどいい事に客席から「すみませーん」って声が聞こえてくる。
「カズくんに任せていい?私はカウンターの中にいるから困った事があったらなんでも聞いてね」
「分かりました」
俺は詩織姉さんにそれだけ言うとペンと伝票を持って客席に向かう。
「ご注文お伺いします」
「ナポリタンとホットコーヒーを頼むよ」
俺は伝票にすらすらと注文内容を書き込む。
「以上でよろしかったでしょうか?それではご注文を繰り返します。ナポリタンが一つとホットコーヒーが一つ。お間違い無かったでしょうか?」
「はい」
「ホットコーヒーはいつ頃お持ちしましょう?」
「料理と同時でお願いね」
「はい、かしこまりました。料理をお持ちするまで少々お待ちください」
「にしても兄ちゃん、新しいバイトさんかい?」
「えっと、はい」
俺は詩織姉さんに伝票を渡しに行こうとすると今注文してきたおじいさんに呼び止められてしまった。
「わしはここによく来るんだけど、いつも詩織ちゃん1人で大変そうだったからねぇ。いっぱい働いて詩織ちゃんを楽させてあげるんだよ?」
いいおじいさんだ。
やはりこのような小さい喫茶店だと常連客も増えるのだろうか?
「はい、分かりました」
俺は笑顔でおじいさんに答えてからカウンター内の詩織姉さんのところに戻る。
「詩織姉さん、注文受け取ってきました」
伝票を詩織姉さんに渡すと少し驚いた表情をした詩織姉さんが俺の顔を見てきた。
「今見てたけど初めてにしては凄いよ!言うことないどころか完璧すぎるよ!」
詩織姉さんに褒められて少し嬉しく思う。
「この調子だと接客は任せて大丈夫そうだね」
俺はこの後も閉店の21時までずっと接客をし続けた。
初めてだからなのかバイトが終わった後に疲れがどっと来て家に帰るなり風呂に入ってからすぐにベットに入った。