第31話 避難
「大丈夫だったか?中山」
「あ、うん。ありがとね龍崎」
「別に気にする必要は無い。力持つ者が人助けする事は当然だろ?」
「それでもありがと。あたし達家族全員助けられたわけだしさ」
中山が可愛らしい笑顔を向けてくる。
不覚にも俺はその表情に見惚れてしまった。
俺は少しだけ照れ臭くなって話題を逸らす目的で中山の家族の人たちに声をかける。
「それよりお姉さんたちもお怪我はございませんか?」
すると俺が声をかけたその人は少し目を開いてから笑いかけてきた。
「ふふふ、お姉さんだなんて嬉しい事言ってくれるわね。改めまして私は中山美鈴。礼奈の母です。あなたが最近礼奈が話題に出す龍崎一樹君で合ってるわね?」
「ちょ、ちょっと!ママ!」
何が恥ずかしかったのか俺には分からないが中山が少し慌てたように自分の母の口を塞ごうとする。
にしても姉ではなく母だったとは意外だ。
見た目は20代前半でも通じるくらいの美人さんだ。
ふんわりとしたセミロングの茶髪に優しそうな垂れ目、そして穏やかそうな表情。一安心したのかさっきまでの緊迫してた時の表情から抜け出して今では落ち着いた表情をしている。
一言で言うなら子供を持つ母親とは思えないくらい顔が整っており、若々しく感じる。
「やぁ、僕も君に会えて嬉しいよ?龍崎くん」
そう言って声をかけてきたのはこれまた若々しいイケメンだ。
「僕の名前は中山彰人。礼奈の父だよ。勿論君の事は娘から聞いてるよ」
やっぱりそうか。中山のお母さん──美鈴さんと同じ通り、この人も父だったか。
短く切っている黒い髪の毛、それに綺麗な眼、そして清潔感のある服装。はっきり言ってイケメンすぎる。
ただ俺を物色するような、観察するような視線を感じるのは気のせいだろうか?表情は笑っているが、目が笑っていないから怖い。
「もうパパ!そんな目してたら龍崎君が怖がっちゃうでしょ!」
そう言って中山のお父さん──彰人さんを嗜めたのは今度こそ中山のお姉さんに見える人だ。
いや、これまでの展開からしたら実姉じゃない可能性も考えられる。
「あたしは中山麗華麗華。礼奈のお姉ちゃんだよ。気軽に麗華ちゃんって呼んでくれていいからね〜」
どうやら今度こそ本物の姉のようだった。
あと絶対に麗華ちゃんなんて呼ぶ気はない。
「も、もう!お姉ちゃん!」
中山が実姉の口を塞ごうとする。どうやら妹として少し恥ずかしかったらしい。
両親はそんな2人の様子を微笑ましく見守っている。
中山のお姉さんはというと中山をもっと美人系にしたような見た目をしている。
金髪をポニーテールにしているところは同じだが、中山よりも少し吊り上がった目元、それに中山よりも成長した胸元──。
「……龍崎?」
中山の視線が怖いので俺は中山のお姉さん──麗華さんに目を向けるのをやめた。中山の背後に少し鬼が見えるのは気のせいではないだろう。
俺は麗華さんから視線を逸らして中山に向き直る。
「中山、それにご家族の方々も。ここは危険だから避難場所へと行ったほうがいいな」
俺はそう言葉を発したがよく考えれば今の状況で移動するほうが危険だ。
だからと言って俺が付きっきりで護衛をしたら俺自身無駄に時間を潰してしまう事になる。
どうしたもんかな、と頭を悩ましているとどうやら運というものは俺に味方していたようで見知った人影が2つ近づいてきた。
「よう!一樹!」
「偶然だね、一樹」
瞬と玲音だ。
少し体が傷ついてるところを見るに2人とも今回の戦闘に参加していたようだ。
俺は少しだけ申し訳なさそうな顔を作り2人に中山たちの事をお願いしてみる事にした。
「急で笑いが、中山家の人たちを桜蘭高校なら連れてってやってくれないか?俺はまだやる事があるしな」
そう言うと2人はこちらに笑顔を向けて色良い返事をくれる。
「全然いいぜ!悔しいけどよ、今回は俺様でも手に負えそうにないからな。流石にプロの足引っ張るくらいなら避難場所に向かうぜ。誰かに迷惑かける事だけはごめんだからな」
見た目の割に案外色々考えているところが玲音の好感持てるポイントだ。コイツは戦闘狂で頭のネジ外れてる事があるが、ちゃんと自分の実力を理解しているところは素直に褒めるべき長所だと思う。
俺は玲音の回答に1人で満足しながら瞬の方を見る。
「僕はそもそも玲音と違って戦おうとすら思わないけどね。あんな怪物たち相手にやり合うだけ無駄さ。負けて死ぬくらいなら逃げて生き延びてやる。それが僕の素直な感想だよ」
声は明るく振る舞ってるが目の奥が笑っていない。瞬は普段優男みたいな雰囲気を醸し出しているが、生き延びる為なら逃げる選択を迷わず選ぶところが俺的にはポイント高い。
玲音とは違って生きる為なら何でもやりそうなところが瞬の怖いところだ。
瞬が俺に笑みを向けてくるがそれすらもう恐怖に感じる。瞬の本心は誰にも見破れないだろうな。
「2人ともありがとな。中山、家族を連れてこの2人と一緒に桜蘭高校に向かえ。あそこは避難場所だから何人かは異警や冒険者がいるはずだ」
俺はそう中山に伝えるが、中山の表情は晴れない。
「……うん分かった。けど龍崎は一緒に来ないの?」
「悪いな。俺はまだやる事が残ってるんだ」
「やる事って?」
「……忘れ物を取りに行かなきゃならない」
俺はそう濁しながら答える。
すると案の定中山は納得いかない表情をしていたがそれ以上追求はしてこなかった。
「……そっか。龍崎も気をつけてね」
「……ああ」
そして中山家の人たちと玲音、瞬が俺に背中を向けて走っていった。
俺はその背中に目を向けながら中山の最後の言葉を思い出す。
気をつけてね、か。
俺は自分の体をそこまで案じた事はなかった。
それは俺が自分の絶対的な強さへの自信を持っているからだと思う。
しかし中山に言われて俺は側から見ると少し心配になるのかもしれないと気づく。
やはり俺はこんなところで死ぬわけにはいかない。
父と妹の仇の為というのも勿論だが、まだ短い付き合いとはいえ高校入って出会った友人たちと送るこれからの高校生活を守りきるためにも何としてでも生き残ってやる。
俺はそう決意するともう一度家の屋根に登ると龍王目掛けて駆けて行くのだった。




