第29話 龍災の始まり
俺は朝起きてからソファに横になり読書していた。
今日はGWの開始ともいえる四月二十九日の金曜日だ。
世間はGWに入ったこともあり賑わっているのだろう。
しかし今日の俺は空が暗い事もあり気分は優れない。
ちなみにソフィは朝早くから用事があると言って外出している為今家の中にいるのは俺一人だけだ。
九時から一時間近く読書をしていたがずっと本を読んでいたら疲れたのでいったん本を閉じてテレビをつけることにした。
テレビではよく分からない芸人がよく分からない漫才をして会場が笑いに包まれる。
何が面白いのか俺には理解できずただ画面を眺めているだけの時間が流れた。
「食材だけ買いに行くか」
テレビをつけてから数十分経った頃に俺はソファから立ち上がりテレビを消して外に出かけることにした。
そしてスマホと財布と鍵の最低限だけ持って外へと出る。
空は暗いし天気だけでも確認するか。帰りに雨降ると嫌だしな。
俺はそう考え、スマホを付けて天気予報のアプリを開く。
するとある事に気づく。
天気予報アプリでは今の時間は晴天と表示されていた。
空を見るとどこからどう見ても曇天のはずなのに天気予報では晴天と表示されている。
朝に感じていた嫌な予感というものがここに来て確信に変わっていた。
ただ今考えていても仕方ない為俺はとりあえず傘を持たずにデパートに向かうことにした。
デパートで必要なものを購入した俺は袋をぶら下げたまま家への帰り道を歩く。
その時だった。
突然桜蘭区の静寂を破るような緊急放送が響き渡ったのは。
『魔物襲来発生!魔物襲来発生!至急、住民の皆さんは避難してください!繰り返します──』
これだけなら普段もたまにあるくらいの災害だ。
しかし続く言葉に俺たちは耳を疑った。
『──今回の魔物襲来の指定ランクはS級!住民の皆さんは冷静に安全に避難してください!』
・・・・・・S級?
前に起こったS級災害は八年前のあの大災害の時だ。
その前は二百年前にもなる。
この桜蘭区に住んでいる人間にとって八年前の出来事は忘れられないことだろう。
せっかく復興した町をまた壊されるわけにはいかない。
俺は空を見上げる。
そこには大きな空間が開き、そこから次々に飛び立つドラゴン達が確認される。
八年前と同じドラゴン達の襲来。
今回も龍王達は来ているかもしれない。
ついに父と妹の仇を討つ時が来た。
俺はそう考えると久々に心の底からの笑みを浮かべるのだった。
☆☆☆☆☆
俺は逃げ惑う人々を見下ろしながら家々の屋根の上を走る。
スマホで連絡のつかないソフィの事は心配だがあいつは強いから大丈夫だろう。
既に周りではドラゴンと異警、冒険者たちで戦闘が起きている。
普通のドラゴンの推奨ランクはA級、一般の冒険者や異警たちでは厳しいだろう。
人間は数十人で一体相手にするのがやっとのドラゴンが数百体もいるのだ。
普通なら逃げるのが賢明なはずだ。
しかし今逃げたところで日本が滅亡に向かうのも時間の問題になってくる。
だからこそ戦える人間は命を賭して戦っているのだ。
俺は次々に命を散らしていく人間を横目に見ながら足を止めず龍王を探す。
辺りを見回しているが中々龍王の姿を見つけることが出来ない。
そんな時俺の視界に中山の姿が映った。
どうやら三体の龍に囲まれているようだ。
中山の近くには整った顔立ちをした男女が三人いた。
一瞬両親と姉かとも思ったがそれにしては見た目が若すぎるのでおそらく全員兄と姉だろう。
中山の長兄と長女らしき人は中山ともう一人の美少女の肩を抱き寄せ目を瞑っている。
あれはもう助からないと絶望して死を待っている人の顔だ。
俺は過去に父を失っている。
家族を失う気持ちは痛いほど分かっているつもりだ。
そしてそんな気持ちを中山に味わってほしくはない。
俺は体を反転させ中山たちの方へ全力疾走する。
今まさに一頭のドラゴンの口が四人に近づいているところだった。
俺はドラゴンと四人の間に無理やり割り込みドラゴンの顎に向かって全力を込めた拳をお見舞いしてやる。
ドラゴンは突然の攻撃に体をよろめかせながら少し後退し、その鋭い視線が俺を射抜く。
「待たせたな、中山」
俺は後ろを振り向かず前方にいる三頭のドラゴンから目を離さずに彼女にとって安心する言葉をかけるのだった。




