第26話 過去②
一樹達が外に出ていくことを見届けてから、カイルが口を開く。
「あの二人が災害の兄妹ですか・・・・・・。全然そうは見えなかったよね、アリア?」
「えぇ、災害の兄妹って聞いてたから少し身構えてたけど普通に純粋そうな子供達だったわ」
「はは、そう言ってもらえて父の僕としては嬉しいよ。と言っても一樹も葉月も小学校に入る前までは異能が半年に一回くらい暴走して大変だったんだけどね」
そう言って賢一は小学校に入る前、つまり二人が幼稚園に通っていた頃を思い出す。
一樹の異能は“破壊”、葉月の異能は“天変地異”だった。
元々人数が世界でも少ない災害系能力者が兄妹として生まれてくること自体異常だった。
しかし二人の両親はそれでも自らの子供として普通に接することにした。
勿論世間にバレれば一樹も葉月も普通の生活を送ることは困難であることは簡単に予測できたため、賢一たちは二人の事を世間にバラす事はしなかった。
一樹と葉月が幼稚園に通っていた頃、二人とも自分の異能を制御できずに一樹は周辺にある物を無差別に破壊しまくり、葉月は自分の意志とは関係なく隕石を降らせたり、地震を起こしたりなどの自然災害を発生させていた。
当時、二人が起こした出来事は自然災害として片づけられた。それも災害系能力者のほとんどは世界中で有名な事もあり、原因不明な災害を人間が起こしたとは考えられなかったのだ。
賢一は当時の事を思い出し、少し懐かしむ。
昔は自分の力に振り回されていた二人だったが、最近は異能の暴走もなくなり息子たちの成長を間近で感じれることに少し感動しているのだ。
賢一は妻である明菜が入れてくれたお茶に口を付けてから真剣な表情に変えて口を開く。
「僕がね、今日二人を呼んだのはちょっと頼みたいことがあるからなんだよね」
その言葉を聞き、カイルは怪訝そうな顔をする。
「賢一様が私たちに、ですか?」
「うん、これは僕たちが一番信用している君たちにしか頼めない事なんだ」
「えっと、それは一体・・・・・・」
「もうすぐ魔物襲来がやってくる」
「それがどうかしたのですか?魔物襲来なんてよくあることではないですか?」
「それはそうだね、小規模のものなら毎日何処かで起きてるくらいには日常的に起きているものだ」
「それじゃあどういう・・・・・・」
「察しが悪いね、カイル。もうすぐやってくるのは普通の魔物襲来ではなく、S級魔物襲来なんだよ」
「「なっ!?」」
その言葉を聞き、カイルと今まで二人の話に耳を傾けていただけのアリアも目を見開いた。
既に事情を知っている明菜だけは落ち着いた様子でお茶を飲んでいる。
S級魔物襲来。
それは二百年前にアメリカで一度だけ起きた大災害だ。
その時の被害規模は尋常ではなく戦力が相当多かったアメリカでさえも死傷者数は百万人を超えたと言われている。
勿論二百年を生きれる人間など存在しないので資料でしか残っていないわけだがそれだけでも当時の壮絶さは伝わってくるほどだ。
そんな大災害が再び二百年ぶりに日本で起きようとしているのだ。
「僕たちは日本総合異能研究所の研究員だからね。そういう情報も入ってくるんだ」
日本総合異能研究所とは異能、ダンジョン、魔物などについて研究している日本にある研究所の中の最高機関だ。
賢一と明菜はそこでそれなりの立場におり、色々な機密情報も耳に入ってくるのだ。
機密情報故基本は他言無用だが、賢一は信用できるカイル達には話しておこうと思ったのだ。
「それで二人にはS級魔物襲来が終わった後に、一樹達を助けてあげてほしいんだ」
「・・・・・・何故、ですか?」
「それは僕たちがこのS級魔物襲来で死ぬからだね」
賢一は笑顔を浮かべてからそう言葉を吐き出す。
カイルはその言葉に思わず息をのんで声を荒げてしまう。
「な、何を言っているんですか!死ぬだなんて・・・・・・・冗談でも言わないでください!」
「これは冗談じゃないよ。君たちも知っているだろう?予言者メリッサ・アシュリーの事を」
予言者メリッサ。
彼女は日本総合異能研究所に所属する予言者だ。
彼女の予言は絶対であり、今までにその予言が外れた事はない。
カイルもその事を知っているため賢一に恐る恐る聞く。
「・・・・・・彼女が言ったのですか?」
「うん、そうだね。僕と明菜はこのS級魔物襲来で死ぬと彼女に予言されちゃったよ」
賢一は少しも死に怯える様子を見せずにあはは、と笑う。
カイルはその様子を見てさらに声を荒げる。
「なんでそんな笑っていられるんですか!?落ち着いていられるんですか!?」
「それは慌てたところでどうにもならないからだね。予言者メリッサの予言は絶対だ。それに僕だって人間だ。死ぬときは死ぬんだよ」
「っ!明菜様は何も思わないんですか!?」
カイルは賢一では話にならないと思い、お茶を飲んでいる最中の明菜へと向き直る。
「私は最初彼女から予言を聞いた時には少し驚いたわ。でも彼女に予言された時点でその未来は変えようがない。どう動いたところでも意味がないのだから私は大人しく死を受け入れることにしたのよ」
明菜はニコッと微笑んでカイルに応える。
「明菜様ぁぁぁ~~~~~~~!!!」
堪えきれなくなったのかアリアが明菜の胸に泣きながら飛び込む。
「よしよし。アリアは相変わらず泣き虫ね」
明菜は自身の胸に飛び込んで来たアリアの頭を撫でながら優しい声でなだめる。
「私たちが死んだあとは一樹と葉月を頼んだわよ」
「うぅ・・・・・・はい」
その一部始終を眺めていたカイルは唇を噛みしめ、賢一は優しい表情でアリアが落ち着くのを待っていた。
明菜はアリアの事をなだめてから自身の夫へと向き直る。
「あなた、S級魔物襲来はいつ来るのだったかしら?」
「確か一ヵ月以内だったような気がするね。それまでに一樹と葉月のために出来ることはしないと」
「一ヵ月!?もうあなた方と関われる期間はそれだけしかないのですか・・・・・・」
カイルはあまりの期間の短さに一瞬驚いて目を見開いたが今度はすぐに落ち着きを取り戻し覚悟を決めたような顔をした。
「・・・・・・分かりました。あなた方が覚悟を決めているというのに私たちが取り乱すわけにはいきません。賢一様、明菜様、私たちもそれまでに対策できることはしておきます。それとS級魔物襲来が来た際にはお二方は私たちと共に行動していただきます。確かに予言者の予言は絶対です。しかしそれは今までの話。今回に限っては私が未来を変えてみせます。だから一樹様と葉月様の事を任せるなんて言わないでください」
賢一と明菜は自分たちの配下の言葉に少し目尻に涙を溜める。
「・・・・・・ありがとう、カイル」
「ありがとね、カイル」
「・・・・・・ですが、万が一、億が一にでもお二人に何かあった場合は私とアリアが責任を持って子供たちの面倒を見るのでそこは安心してください」
カイルの言葉に賢一は少し安心すると平穏を感じる窓の外に視線を向ける。
今はこんなに平穏な日々を人々は送っているが、この平穏はおそらく数週間後には地獄へと化すことだろう。
賢一はもう雑談へと話が移り変わった三人の様子を眺めながら一人思う。
(カイルはああ言ってくれたけど予言者の予言は絶対だ。歴代表で活躍した予言者たちの予言が外れたことはただの一度もない。少なくとも文献などで見かけたことはない。だからカイルが一樹と葉月の面倒を見てくれると約束してくれてよかった。これで安心してあの世に逝ける。だけど僕だってただであの世に逝くわけにはいかない。最悪今回の魔物襲来のボスを道連れくらいしてみせるさ)
笑顔で会話を続けている三人は賢一が脳内でそんな事を考えているなんて知る由もなかった。




