第19話 帰路
「かしこまりました。それでは少々お待ちください」
俺たちは近くのイタリア料理を扱っているファミレスに入店し、たった今注文を終えた所だ。
このファミレスの店内は広く6人で座れる席もあった為今回はバラバラに座る事なく全員が一緒のテーブルについている。
ソファ側には女子3人が座り椅子には俺たち男子が座っている。
「それにしても藤村と龍崎めっちゃ歌上手くてビビったんだけど。カラオケとかよく来るん?」
全員分の注文をまとめて注文してくれた間宮がメニューを閉じながらそう聞いてくる。
「僕は姉さんによく連れられてカラオケ行ってたからね。それで上手くなったのかも」
「へぇ、龍崎は?」
「カラオケに行ったのは今日が初めてだ。今まではあまり行く機会なかったからな」
「え、マジで?カラオケに行ったことない人とかいるんだ」
間宮は何が面白いのか声を堪える形で笑っている。
玲音も言っていたがカラオケに来るのが高校生が初というのはそんなに珍しい事なのだろうか。
「美香もそんなに笑う事なくない?それにこれからあたしらと遊びにいっぱい行けばいい話だし」
俺の正面に座っている中山は俺の味方をしてくれたようだが何故か間宮や桜井にはニヤニヤしながら見られている。
俺が中山に視線を合わせると中山は何か恥ずかしそうに目を伏せてしまった。
それから料理が出てくるまでは中山も恥ずかしそうにしていたが料理が来てからはまた元通りに戻っていた。
食事も終わり会計をしてから俺たちは外に出た。
「んじゃ、あたし達こっちだから」
そう言うと間宮は桜井と玲音と瞬を連れて俺らとは反対方向を歩いて行った。
俺はてっきり中山も一緒に帰るのかと思ったがどうやら中山は俺と一緒に帰るようだ。
間宮達が帰っていく姿を見届けてから俺達も歩き出す。
数分間どちらも無言だったがその時間が気まずかったのか中山から話しかけてきた。
「あのさ、龍崎はなんであたしの事助けてくれたの?」
「助ける?」
「ほら、"黒狼"にあたしが攫われた時」
「あぁ、それは攫われる瞬間を見たから見捨てると後味悪いと思ったんだろうな」
「でも"黒狼"相手に1人で挑むのは無謀じゃない?」
「無謀ではないな。"黒狼"と言えど、異能を使えるチンピラ集団みたいな物だ。俺がそこらのチンピラ集団に負ける事はありえないな」
俺は強くなる為に努力した。
同じ歳の子が遊び呆けている間に俺は鍛え続けた。ただそれだけの事だ。
「へぇ、凄い自信。やっぱりそれだけ異能が凄いから?」
「異能?俺の異能は"瞬足"だぞ?」
「それ嘘でしょ?」
俺は思わず驚いた表情で彼女を見てしまった。
それに気づいた中山も俺の顔を覗いてきて俺の驚いた顔を見てから微笑んだ。
「"瞬足"って言うより身体能力強化何倍って言われた方が全然しっくりくる」
俺は無言になる。
まさか彼女に俺がついた嘘を見破られるとは思わなかった。
それから俺も中山も口を閉じて歩いていると横断歩道に出る。
横断歩道を渡っている時は車もいなかったが渡り終わろうとした時に車が突っ込んできた。
暗い夜で車側も歩行者の存在を確認できなかったのだろう。
俺は横断歩道を急いで渡り終わりまだ横断歩道の上を歩いていた中山を自らの方へ抱き寄せる。
中山がさっきまで立っていた場所を車はスピード緩めずに通り去っていく。
やはりさっきのままでは中山は車に轢かれていた事だろう。
「大丈夫か?」
「え、うん。ありがと⋯⋯」
俺の腕の中から中山に見上げられてなんだか気恥ずかしい感じがする。
「あー、お前の家はどっちだ?」
「真っ直ぐだけど、もしかして送ってくれるの?」
「まぁ女の子1人で帰すのは危険だからな」
「ん、ありがと」
俺はその時の中山の嬉しそうな顔が思わず見惚れてしまうほどに印象的だった。
俺は気を取り直して中山を家まで送る事にした。
その後中山の家の前で彼女と別れてから俺は1人帰路に着き今日の事を振り返る。
人生で初めて放課後に友人と遊んだし、初めてのカラオケもした。
何より驚いているのが俺がそれらを普通に楽しんでいたという事実だ。
今の平穏な生活はなんとしてでも守りぬいてみせる。
誰にもこの生活を壊させる事はさせない。
そう俺は密かに決意するのだった。




