第2話 桜蘭高校
国公立桜蘭高等学校。
それが俺がこれから通う高校の名前だ。
東京都の桜蘭区にある国公立の高校だ。
ソフィは白薔薇女学院高等学校という俺とはまた別の高校に通う事になっている。ちなみに白薔薇女学院の朝礼の時間は9時かららしくもう少し家でゆっくりしていても間に合うというわけだ。
ソフィはしっかりしているから絶対に遅刻はしないだろうな。
そんな事はさておき俺は今日から通う事になる桜蘭高校の正門前に立つ。
正面から三つ並んで建っている校舎を視界に入れるが、おそらくそこら辺の高校と比べると大きいのだろう。
学校紹介のパンフレットには1学年約400人ほどで全校生徒だと約1200人ほどいると書いてあった記憶がある。
この高校自体の偏差値は52で高すぎるわけでも低すぎるわけでもない。
俺は校舎を眺めながら一つの決意をする。
絶対に目立つ事なく平穏な学生生活を送ってみせる、と。
一番手前の校舎に入り、下駄箱で上履きに履き替えると先日学校から送られてきた学生証を頼りに自分のクラスを探す。どうやらこの学校は2階に一年生、3階に二年生、4階に三年生となっているようだ。
実験室や音楽室などの特別な教室は正門から見て右手側の校舎に、体育館と講堂が正門から見て左側の校舎にあるらしい。
俺はとりあえず学生証に書かれている「1-4」のクラスを探す。
見つけるのにそう時間は掛からなかった。階段を使って2階に上がりすぐ左側に1-4と書かれたクラス札を見つけた。どうやら俺が使った階段は真ん中の階段だったらしく1-4と1-5の間にあった。他にも1組の隣と10組の隣にも階段があるらしく、全部で三箇所設置されているようだった。
俺は少し緊張しながらドアを開ける。
一瞬だけ視線を感じだが、生徒たちはすぐに興味を失ったかのように雑談に戻ったり、スマホをいじったりしている。
まだまともに授業も始まっていないというのに近くの人と雑談しているのはおそらくコミュ強の陽キャなんだろうな。
そんな事を考えながら自分の名前が書かれた窓側の席の一番後ろに座る。席は出席番号順らしく、廊下側の席の先頭の人が一番出席番号早い人なんだろう。俺の苗字は「り」から始まるため、小学校中学校でも出席番号は一番最後だった。
俺は自分の席に座り、カバンに入ってた教科書などを引き出しに移す作業をしていると前に座っていた金髪の男子生徒が振り向いてきた。
「よぉ、俺様は山神玲音だ。てめぇ、名前は?」
なんていうか一人称から特徴的な男だ。少し目つきも怖いし、これが不良というヤツなんだろうか?
「・・・・・・龍崎一樹だ」
俺が渋々と言った感じで自分の名前を言うと、山神は少し驚いた表情をしていた。
「何に驚いてるんだ?」
「いや、俺様が話しかけると大抵のやつはビビるからよ。お前みたいに初対面で普通に会話成立させてくるやつは初めてだ。俺様の事は玲音って呼んでくれ」
大抵の人がこいつにビビる気持ちが分からなくもない。目つきが悪くて俺様とかいう一人称を使っていればそりゃ大抵の人はビビるだろ。
だがよく考えればここは偏差値が50を超えている高校だ。勉強ができないような不良が入れる学校ではないのだ。
「そんでよ、どいつがタイプだ?」
「・・・・・・は?タイプ?何言ってんだ?」
「だからどの女がタイプかって聞いてんだよ」
初対面でする会話じゃないだろ、それ。
こいつはやはり頭のネジがどこか外れているのかもしれない。
俺が呆れた視線を送っているのにも気づかずにこいつは喋り続ける。
「この学校ってめっちゃ可愛い子多くね?ダチになったお前とは狙う子被りたくねえからな。だからタイプの子がどの子か先に教えてくれよ」
俺が知らない間に俺と玲音は友達になっていたようだ。
おそらくこいつの友達というのは一言でも会話すれば友達なんだろう。
だが今まで友達が少なかった俺からしても友達扱いしてくれるのは嬉しく思う。
高校初めての友人の為に回答を用意してみるか。
俺は教室内の女子を一人一人観察する。
すると一際目立っている可愛い子を発見した。
教室の真ん中で近くの女子と談笑している金髪でポニーテールの女子生徒だ。
「あの子、可愛いな」
俺が金髪ポニテの美少女を指差すと玲音はニヤリと気持ち悪い笑みを浮かべてきた。
「そかそか、お前は礼奈ちゃんがタイプなんだな」
「名前、知ってるのか?」
「あ?逆にお前礼奈ちゃんの事知らねえのか?」
「あぁ、初めて見た。有名なのか?」
「有名なんてもんじゃねえよ。この前なんか世界の美少女TOP50にランクインしてたし、彼女が着た服装がその時の流行になったりするほどの超有名モデルだ。本当に知らないのか?」
俺もソフィもモデルや芸能人などには全くと言っていいほど興味がない。
家でテレビをつけてる時も基本はニュースばかりだ。
雑誌なんかは買わないしスマホも連絡用以外で使った試しがない。
つまり俺が言いたいのは有名人を知る機会がないのだ。
「まぁとにかくよ、あの子だけはやめときな。競争率もくそほど高いだろうしな」
「俺も他の男子と競い合うつもりはないし肝に銘じておく」
俺は普通に平穏な学生生活が送れればそれで満足だ。
「それがいいだろうな。にしてもこう見るとやっぱ可愛い子多いよな。俺様はあっちの子狙ってみっかな」
玲音の視線の先を見るとそこには俺がさっき指差した金髪の美少女の近くで談笑している青髪の長髪を靡かせた美少女がいた。
「結構可愛い子だな」
「だろ?あ、お前はあの子のこと狙うんじゃねえぞ。俺様が先に目をつけたんだからな」
「安心しろ、他人の恋路を邪魔する気はないし恋愛にそこまで興味もない」
「恋愛に興味ないってマジかよ?それでもお前男か?」
恋愛に興味ないと言っただけで男かどうか怪しまれてしまった。
別に男全員が恋愛に興味津々なわけないと思うが。
それに昔から一緒に過ごしてきたソフィが超絶美少女な事もあって、美少女に慣れてしまっているというのもあるかもしれない。
それからは玲音と一緒に高校のパンフレットを見ながらこれからの高校生活について話しながら時間を過ごした。
そして数分が経つと、始業を告げるチャイムが鳴り響いた。
それとほぼ同時に、一人の女性が教室内に入ってくる。おそらくこのクラスの担任だろう。
談笑している生徒たちが各々の席に戻り着席する。
玲音もいつのまにか前に向き直っていた。
見た目からの印象はほんわかとしている先生だ。歳は20代後半くらいに見える。髪の毛は茶髪をセミロングにしていて、目元は穏やかだ。
「まずはみんな、入学おめでとう。これから3年間よろしくね」
この学校はどうやらクラス替えがないようだが、今時珍しくもない。異能を使った軍隊訓練をする為に三年間同じメンバーで過ごすのだ。
いつ魔物襲来が襲ってきても学生たちが戦力になれるよう訓練されるのだ。
学生は一人一人はまだ未熟だが、集団となればそれなりの戦力になる為このような事を実施している学校は少なくない。
「えーと、学校の説明の前にみんなお互いの事知る為に自己紹介しよっか。まずは私が自己紹介するね。私の名前は、早乙女瑠璃、年齢はナイショかな。担当科目は現代文、異能は"空間拡張"、なんでも空間を拡張する事ができる能力だよ。分類的には一応超常系の能力なんだけど、戦闘にはあまり向いてないからどっちかというと非戦闘系に近いかもしれないね」
空間拡張という事はカバンの中の空間を広げたりする事ができるのか。
確かに戦闘に向かない能力かもしれないが、日常で使う分には便利そうな異能である。
「好きなものはお酒、嫌いなものは見せつけてくるリア充、趣味は競馬やパチンコかな。早く結婚したいから、お兄ちゃんいる人ぜひ紹介してね」
なんていうダメ人間なんだろうか。
クラス内では笑い声が上がっているし、緊張をほぐすという意味ではあの先生の自己紹介はよかったのだろう。
だが、お酒とギャンブル好きを貰ってくれる旦那さんは果たして現れるのだろうか。
「じゃ、次はみんなの番だね。名前と異能は必須として、あとは適当に自己紹介してね。それじゃあ出席番号早い子からよろしく」
こうして授業前の自己紹介が始まったのだった。