第17話 放課後ティータイム
「ミカミカ、それでまずどこのカフェ行く?」
「んー、この近くに結構人気の喫茶店があるらしいんだよね。そこ行ってみない?」
「ありよりのあり!新しい店行くのってわくわくするよね!」
先頭を歩いてる二人はどうやら行き先の相談をしているみたいだ。
こういうのは女子に任せとけば外れはない。
「珍しく静かだけどどうしたの?怜音」
「実はよ、高校入ったら無条件で彼女できると思ってたんだが彼女ができそうな気配すらなくてな」
「まぁまだ学校始まってちょっとしか経ってないしね。そう悲観しなくてもいいんじゃない?」
「いや、彼女どころか女友達と呼べる存在すらいねえんだぞ?天上院とかいつも女と喋ってるというのに。この世界は理不尽すぎないか?」
「⋯⋯まぁなんとかなるって、多分」
「おいその間はなんだ?それと多分ってなんだ?」
俺の目の前を歩いている二人は恋愛について話してるらしい。と言っても玲音が一方的に恋愛相談してるようにしか見えないが。
間宮と桜井は自分たちの会話に夢中で後ろの声が聞こえてないようだが、俺の隣にいる中山は苦笑いを浮かべながらそれを見ている。
「やっぱ男子ってさ、そういうのに興味あるの?」
「それは人によるんじゃないか?」
「ふーん、じゃあさ、龍崎は興味ある?」
「俺か?俺は特に興味はないな。一生独身でもいいと思っている」
これは事実だ。彼女を作る機会があるなら作ろうと思うが、別に積極的に恋人が欲しいとは思わない。
「えー、独身ってつまんなくない?あたしは絶対に結婚したいけどなぁ」
これに関しては人それぞれの価値観ごとに違うと思うので中山が結婚したいと思う気持ちを俺は否定するつもりもない。
「あ、ついたみたい」
そんなこんなで歩いているとどうやら目的地の喫茶店に到着したようだ。
ていうかここは⋯⋯。
俺は喫茶店の前でふと立ち止まってしまった。
「龍崎、早く入ろ?」
他の4人は既に店の中に入ったようで中山が扉を開けながら俺の名前を呼ぶ。
俺は覚悟を決めて店の中に足を踏み入れた。
するとそこには最近では見慣れた風景が広がっている。
「いらっしゃいませ、6名様でございますね。では席にご案内いたします」
美人な店員というか店長が俺たち6人を席に案内する。一瞬だけ俺に視線を向けられたが特に話しかけられる事もなく席に案内された。
この店に6人が座れる席はないので4人と2人で分かれて座る事に決まったようだ。
間宮と桜井がさっさと4人席に座り、その後に続くように玲音と瞬も座ったので必然的に俺は中山と2人で席に座る事になった。
何故間宮と桜井はこっちをニヤニヤしながら見てくるのだろうか。
「悪いな、中山。俺と2人は気まずいだろ?」
「別にそんな事ないけど?あたしは龍崎と2人で座れて嬉しいよ?」
流石は学年一、いや校内一の美少女と言ったところだ。この笑顔は反則である。
これは男子が勘違いしてしまっても仕方のない言動だろう。
あまり恋愛に興味ない俺でも見惚れてしまったぐらいだ。
それにしてもまさか俺のバイト先である『喫茶メテオラ』にクラスメイトと来ることになるとはな。
さっきは詩織姉さんが空気を読んでくれて助かった。
クラスメイトにバイト先を知られるのは恥ずかしいしな。
俺と中山はメニューを決めてから詩織姉さんを呼ぶ。
ちなみに間宮達4人はまだメニューを決めていないようだ。
比較的今は店内も空いており、詩織姉さんはすぐにオーダーを取りに来てくれた。
「いちごパフェ1つとチョコバナナパフェ1つ、ドリンクはホットコーヒーとアイスカフェオレを1つずつお願いします」
俺は中山の分も合わせて注文する。
ここがバイト先だということをバレたくないので微塵もそれを感じさせないように注文した。
その事を察してくれたのか詩織姉さんは何も言わずに手慣れた様子で伝票にスラスラと書いて注文確認を行ってからカウンターの中へと入っていった。
俺が詩織姉さんの事を少しの間だけ眺めていたら正面から声をかけられる。
「美人だよね、あの店員さん」
「ん?あぁ、そうだな」
俺は当たり障りもない返答をする。
客観的に見ても詩織姉さんは美人だしな。
「龍崎もああいう人がタイプなの?」
タイプ、か。
俺は自分の恋愛的な好みに関して意識した事はない。
だから詩織姉さんの事を少し考えてみる。
美人かそうじゃないか聞かれれば美人と答える。
好きか嫌いかで言えば好きだと断言できる。
じゃあタイプかと聞かれればそれは否だ。
俺はあの人のことを恋愛対象としては見ていない。
「いや、どちらかと言えば中山の方がタイプかもしれんな」
「え、え!?」
俺は同年代か年上だったら圧倒的に同年代の事を恋愛対象として見ている。
だから年上である詩織姉さんと同級生の中山だったら中山の方が俺のタイプに当てはまるはずだ。
それを正直に答えたはずなのに何故か中山がフリーズしてしまっている。
顔も結構赤面しているがもう何度も見たし彼女が赤面するのにも慣れてきた。
固まって動かなくなった彼女の事を俺は見つめる。
誰が見ても美少女な中山を見つめる時間というのは存外楽しいものだ。
そのまま数分が経過し、注文していたパフェと飲み物が届いた。
詩織姉さんは手際よくテーブルの上にパフェと飲み物を置いてから「それではごゆっくり」とだけ言ってカウンターの中に入っていった。
俺は早速目の前に置かれたチョコバナナパフェを一口食べてみる。
チョコが絡まった状態のバナナがすごく濃厚な甘さを出しており口の中で溶けるかのように消えて無くなる。
やはりパフェはチョコバナナに限る。
ちなみに俺は祭りでは絶対にチョコバナナを買うくらいにはチョコバナナ好きであり、どんだけ甘いものでも美味しく食べれるくらいの甘党である。
ここで俺は顔を上げて正面を見る。
正面に座っている中山はまだ自分の目の前に置かれたいちごパフェに手をつけていない。
「何してんだ?」
「これめっちゃ映えると思うんだよね。だから写真撮ってんの」
「⋯⋯へぇ」
俺は映えるとかがよく分からないためこんなつまらない返事しかできない。
「そう言えば龍崎は撮らないの?」
「俺はそういうのよく分からないしな」
「⋯⋯じゃあさ、あたしと一緒に撮らない?」
「ん?どうゆうことだ?」
「だからあたしと一緒にツーショしよってこと」
「なんで⋯⋯」
「まぁいいじゃん。細かい事は気にしない気にしない。ほらこっちおいで」
俺は仕方なく立ち上がり中山が座ってる席の隣にしゃがむ。
中山がスマホを横にして持ち俺たち2人が写るように写真を撮る。
俺はパフェと一緒に写真を撮るのかと思ったが本当にツーショットだけを撮ったようだ。
さて気を撮り直してパフェを食べるとするか。
俺がパフェを食べ始めるのを再開すると正面からカシャっていう音がした。
「今写真を撮る音が聞こえた気がしたんだが」
「え、気のせいじゃない?」
いや気のせいじゃないと思うんだがな。
まぁ撮られて困るものでもないしこれ以上の追及はしなくていいだろう。
その後先に食べ終わった俺は中山の美味しそうにいちごパフェを食べる姿を見ながらおやつ後のコーヒーを楽しんだ。
⋯⋯やっぱり美少女は目の保養になるな。