第16話 訓練と指導
「今日は最後にいつも通りのクラス対抗の模擬戦をする事は変わらないが、これから職員会議がある為俺と早乙女先生は今日の訓練にほとんど参加する事が出来ない。だから今日は各自で訓練をしてもらう事にした。俺たちがいないと言っても授業中だと言う事を忘れず訓練するように」
真島先生は相変わらずの仏頂面でそれだけ言い終わると俺たち生徒に背中を向けてこの場を後にしていった。
早乙女先生は真島先生とは正反対に笑顔で軽く手を振ってから真島先生の後を追っかけて行く。
先生二人がいなくなったはいいが、自分から率先して訓練を始めようとする人間は現れない。
こういう場合は誰かがやり始めないと誰もやり始めないだろうな。
俺はチラリとクラスの人気者、天上院光輝の方を見る。
彼も他の人と同じようにしばらくの間沈黙を貫いていたが誰も動き出さない為痺れを切らしたのだろう。手を叩いて立ち上がり3組と4組の生徒の注目を一斉に集めながら前に行く。
「ここでじっとしてても無駄な時間過ごすだけだし早速訓練始めようか。3組が僕から見て右側、4組が左側を使って訓練するって事でいいかな?」
天上院はそう言ってからもう一度両手を大きく音が鳴るように合わせてから言う。
「それじゃあ各自訓練開始しよう」
その声によってようやく生徒達も動き出すのだった。
「んじゃ、いつも通り俺様らは三人で訓練するか」
俺と玲音と瞬の三人はいつも三人で訓練をしている。
周りを見てみると分かるが仲良い者同士で訓練している事が多いからな。
「それじゃあっちの方でやるか?」
俺は立ち上がりながら4組が使えるグラウンドの端の空いたスペースを指差すが背後からポンッと肩を叩かれる。
不思議に思い後ろを振り向くとそこには中山が笑顔で立っていた。
「ん?どうかしたか?」
「龍崎はあたしとあっちにいこ?」
そう言われるといきなり手を取られて歩いて行ってしまう。
玲音の方を振り向くと間宮と瞬に両腕を掴まれて連れ去られていくのが見えた。桜井はその後ろから三人に付いていっているようだ。
これは一体どういうことだ?
「ここら辺でいっか」
中山は立ち止まり俺の方に向く。
「んじゃ早速始めよ?」
「いやそれよりまず状況説明をしてくれないか?」
「状況説明?」
「あぁ、主になんで俺とお前が訓練する事になってるかについてだが」
「あたしと訓練、やなの?」
「嫌とかじゃなくてだな⋯⋯」
「じゃあ問題なくない?」
「⋯⋯そうだな」
上手くはぐらかされてしまった感じがする。
にしても中山は非戦闘系能力者だからか武器を構えている。
武器は長剣、非戦闘系の冒険者の中には使ってる者も多いが女子にとっては扱いにくい物だと思う。
長剣は振り回すのにある程度の筋力は必要だしな。だが武器を持った事ない人間が1番最初に選ぶ武器でもあるのは確かだ。
使っている人間が1番多い為扱いやすい武器だと勘違いしてしまうんだろうな。
中山の長剣の持ち方や構え方はお世辞にもなっているとは言えない。なんなら違う武器種を選んだ方がいいと思う。
「じゃあ早速始めるか」
「オッケー!」
玲音や瞬と訓練している時も大分手を抜いてやっているが中山とやる場合だとさらに手を抜かないといけないかもしれない。
中山が斬りかかってくるのを横に避けてから手元に手刀を叩き込む。
すぐに中山の手から剣が離れて地面へと落ちていく。
なんというか非戦闘系能力者の女子ということもあってか弱い。凄く弱い。
「うー、やっぱあたしって才能ないんかな」
「まぁ人には向き不向きがあるからな」
俺は剣を拾い上げると中山に手渡す。
「剣を構えてみろ」
「こう?」
中山がさっきと同じように剣を構える。
俺は背後に回り込み中山の腕に触れる感じで剣の構えを正す。
「もっと脇をしめて手首をこうした方がいいんじゃないか?」
俺はそう言いながら中山の顔を覗くと彼女は何故か顔を赤くさせていた。
「どうした?」
「な、なんでもない!そ、それとありがと!」
俺はよく分からないが中山がなんでもないと言うなら俺には関係ない事だ。
その後も俺がちょくちょくアドバイスをしながら訓練を続行した。
ちなみに最後のクラス対抗の模擬戦では中山も初めて1人倒す事ができたようだ。
俺も自分の事のように嬉しく思った。
午後の授業も終えて、俺と玲音と瞬の三人は男子更衣室で着替えてから出ると美少女三人組に待ち構えられていた。
「あんたらこれから予定ある?」
「俺様は今日は部活も休みだしなんもないぞ」
間宮の質問に真っ先に玲音が応える。
「俺は普段から放課後は何の予定もないな」
「僕もいつも自習室で勉強してるくらいかな」
「要するに三人とも暇って事ね?んじゃ今日はあたし達に付き合ってもらうわよ」
俺たち男三人は顔を見合わせてから首を傾ける。
「ミカミカが言葉足らずでごめんねー。桃達三人とこれから遊ばない?って事だよ。ね、れなちん」
「そそ。と言ってもカフェでお茶したりカラオケではしゃぐくらいだけど」
「まぁ遅くなりすぎさえしなければ俺は構わないな 。二人もいいよな?」
俺が女子組の意見に賛成の意を示してから二人に確認する。
玲音と瞬も頷くことによって返事を返してくれた。
「んじゃいこっか」
中山がそう言うと俺たち六人は放課後の町に向かい歩き出した。
にしても放課後学校帰りに遊ぶなんて初めての事かもしれない。
中学校はそれどころじゃなかったしな。
俺は初めての感覚に気持ちを昂らせながらみんなの後に着いていくのだった。