第15話 美少女三人組
俺はギリギリチャイムが鳴る前に教室に滑り込む事ができた。
自分の席に鞄を下ろし鞄の中の教科書などを取り出していると先に教室に着いていた玲音と瞬に声をかけられる。
「お前、中山たちと何話してたんだ?」
「ただ貸してたブレザーを返して貰っただけだ」
「ふーん、貸してたブレザー、ね。まずどういう状況になればブレザーを貸す事になるか疑問なのだけど」
流石瞬だ。玲音と違い俺の痛いところを突いてくる。
できれば俺は目立たずにこの学校で生活したいからここは適当にはぐらかしとくか。
「昨日雨降ってただろ?それでずぶ濡れの中山を下校中に見かけたからブレザーだけ貸してあげてたんだ」
「昨日の中山さんって言えば"黒狼"に誘拐されて大変みたいだったけど?」
あ、墓穴を掘ったかもしれない。
確かに昨日は"黒狼"に誘拐されてたな。
なんで"黒狼"と戦った俺がその事を完全に忘れてたんだ。流石に頭の中がパニックになりすぎたか。
俺がなんて言い訳しようか考えていると瞬は一息吐いてから優しい笑みを浮かべてきた。
「まぁ、いいや。一樹が言いたくないなら深追いはしない事にするよ」
瞬は理解が早くて助かる。
ちなみに前の席に座っている玲音は頭上に?を浮かべて全く状況理解ができていないようだ。
「まぁよく分かんねえけどよ、そろそろ朝礼始まるから瞬は自分の席に戻った方がいいと思うぞ」
玲音のその言葉で前の黒板の上にある時計を確認するとちょうど秒針がてっぺんまで行き8時30分になったところだった。
校内にチャイムが鳴り響き立って雑談していた生徒達が一斉に自分の席へと戻る。
いつの間にか瞬も自分の席に座っていた。
チャイムが鳴り終わる前に美少女三人組は教室に滑り込みどうやら遅刻は免れたようだ。
チャイムが鳴り終わると同時に早乙女先生が教室に入ってきていつも通りの朝礼が始まった。
一つだけいつもと違う点があるとするならそれは周りの生徒からの目線が多いという事だろう。
どうやら朝の出来事が噂になっているようで男子からは嫉妬、女子からは好奇の目で見られているようだ。
⋯⋯やっぱり現役美少女モデルというのは凄い存在なんだな。
まぁもう関わる機会は少ないと思うし生徒達もすぐに朝の出来事の事は忘れるだろう。
⋯⋯と、思ってた時期もありました。
午前中の授業が終わり、昼食の時間になり俺はいつも通り玲音と瞬と食堂に向かおうとしてたんだが、何故か中山に声をかけられていた。
「あのさ、今日一緒にご飯食べてもいい?」
間宮と桜井も俺たちと一緒に昼食を食べるつもりなのか弁当片手に食堂行く準備をしている。
俺はこれ以上目立つのを避ける為に断ろうと思ったが、俺が断る前に玲音がノリノリで許可してしまった。
玲音というやつは⋯⋯。
まぁ過ぎた事を気にしていてもしょうがない。
俺は憂鬱な気分になりながらノリノリの玲音と苦笑いしている瞬と中山たちの計6人で食堂に向かう事となった。
食堂に着くと中山たちは先に席を確保しておいてくれるようで食券機の前で一度別れた。
それから数分で食券を購入し、カウンターで昼食を受け取ってから中山たちを探す。
勿論今日もラーメンだ。
俺は味噌ラーメンにしたが、カウンターで同じ列に並んでいた瞬は豚骨ラーメンにしたようだ。
玲音は食券機で親子丼の券を購入していたのでまた違う列に並んでいる。
玲音より一足先に昼食を受け取った俺たちはひとまず中山たちを探す事にした。
と言ってもすぐに見つける事ができた。
探さなくても周りがめっちゃジロジロ見てるから探すのが簡単過ぎた。
俺と瞬は中山たちに近づいていく。
すると中山たちは不自然な席の座り方をしていた。
桜井と中山が1席空けた状態で座り、その空席の向かいに間宮が座るという形だ。
間宮の右隣の空席がちょうど角になっておりそこでテーブルは途切れている。
俺は女子に挟まれるのは嫌なので中山と桜井の隣の席は玲音に譲るとして自分は間宮の隣であり桜井の向かいの角の席に座るとしよう。
俺はそう決めるとその場所にお盆を置いて席に着こうとするが桜井にお盆を持たれ中山と桜井の間の空席へと置かれてしまった。
珍しく俺の頭の中がハテナ状態だ。
「えっと⋯⋯」
「君はこっちね」
よく分からないがとりあえずお盆を置かれた場所に座る。
桜井と中山に挟まれるというシチュエーションは他の男子にとっては舞い上がるほど嬉しいものだろう。しかし俺にとっては少し周りの視線が気になってそれどころではない。
中山たちも先に弁当を食べていたようなので俺と瞬も手を合わせてから昼食を食べ始める。
やっぱりこの学校の味噌ラーメンはめちゃくちゃ美味しいな。
それから少し経ってから大盛りの親子丼をお盆に乗せた玲音がやってきた。
「わりぃ、遅くなったわ」
どうやら丼の列は混んでいたようだ。
玲音がさっき俺が座ろうとしていた席に座り手を合わせて昼食を開始するのを見てから桜井が声を上げた。
「じゃ、早速自己紹介からしてこー!最初に一応自己紹介の時間あったけど桃はレオレオ以外の名前覚えてないし!」
まぁ分かってはいたけど眼中になかったという事を改めて聞くと少し傷つく。
レオレオというのは玲音の渾名だろう。
玲音は午後の訓練で毎回目立ってたから認知されていたのかもしれない。
俺はともかく瞬は美男子な為知られてもおかしくはないと思うが、中山たちの周りにはイケメンが多そうだから顔だけじゃ興味湧かれないのかもしれない。
「賛成、ってことでまずあんたから自己紹介してよ。あたしは結構あんたに興味あるんだけど」
正面に座る間宮に指差されたので俺は仕方なく自己紹介をする。
「俺は龍崎一樹だ。特技や取り柄といったものは特にない」
「へぇ、珍しいねあんた。自分から特技も取り柄もないって言うなんて。女の前だと格好つけたい男もいそうなもんなのに」
「そんなもんか?」
「そんなもんよ、あたしの知ってる男達は常に自分をアピールしてる奴らばっかりだから。で、桃こいつの渾名は決まった?」
「渾名?」
「桃は友達には渾名つけるからさ。少なくともあたしと礼奈と桃はあんた達と友達になりたいと思ってるんだよ」
なんでかは聞かない。おそらく中山と友人のこいつらは昨日の事件の事で俺に興味を持ったんだろう。
「あ、渾名決まったよ。君の渾名はかずきゅんね」
かずきゅん⋯⋯。
ずいぶん可愛らしい渾名を貰ってしまったな。
「じゃあ次は礼奈ね」
「ん、オッケー。あたしは中山礼奈。一応現役モデルだよ。よろしくね。あ、ちなみに彼氏はいないから。できた事もないから。ギャルっぽい格好してるから勘違いされがちだけどめっちゃピュアだからあたし」
そうか彼氏いないのか。
何故かめっちゃ俺の方を向きながら彼氏いない事をアピールされたがなんだったのだろうか。
それにしても今まで彼氏出来た事ないのも意外だ。
その後は玲音、桜井、間宮、瞬の順番で自己紹介をして交流を深めた。
ちなみに瞬の渾名はそのまま瞬くんに決定したようだ。
どうやら瞬の顔が整いすぎてるせいか変な渾名はつけられないと桜井は言っていた。
俺は人生で初めての女友達とこんな風に雑談をして過ごすことが出来て嬉しく思う。
雑談をして過ごしているとあっという間に時間は過ぎてしまい午後の訓練の集合時間が迫っていた。
俺たち6人は急いで食堂を出て更衣室に向かうのだった。