第14話 学校一の美少女
"黒狼"との激闘を繰り広げた翌朝、俺はソフィと朝食を食べながらテレビのニュースを見ていた。
『最近、桜蘭区を騒がせていた異能を使った犯罪者集団"黒狼"のリーダー格だと思われる井出圭介さん26歳と"黒狼"のメンバー58人が昨日4月20日の午後6時頃に異能警察によって逮捕されました。異能警察によると、現場に駆けつけた際には既に"黒狼"は何者かにより壊滅させられていたようです。現場で発見されたモデルの中山礼奈さん16歳も特に大きな怪我は見当たりませんでした』
やはり最近騒がせていた犯罪集団だったこともあってか、テレビも"黒狼"についてのニュースばかりだ。
中山も一応何があったのかの証言はしたようだが、中山自身何が起きたのかよく分かっていないというのと俺の事を初対面だと思っていたのがプラスに働き俺の情報は全く出回っていないようだ。
目立ちたくない俺としては口止めし忘れたのを後になって気づいたがこの調子なら俺の事が表に出る事はないだろう。
問題は俺のブレザーを中山に貸しっぱなしだという事だ。
できるだけ早く回収しなければ俺の学校生活に支障をきたしてしまう。なぜなら俺は制服を一着しか持っていないからだ。
俺はブレザーの事を思いながらため息を吐くとテーブルの正面に座っていたソフィが時間を報せてくれた。
「一樹様、もうそろそろ学校に行く時間ですよ」
「⋯⋯そうだな。じゃあ行ってくる」
俺は近くにあった学校用のカバンを手に持ちソフィに一言だけ告げてから学校に向かう事にした。
学校へと続く道を歩いてると突然後ろから首に手を回された。
「よ!一樹!何辛気臭い顔してんだよ!」
「玲音か。それに瞬も。お前らって一緒に登校してたのか?」
俺の右側から玲音が現れ、左側からは瞬が現れた。
「一樹、おはよ。玲音とはさっき偶然会って一緒に登校してたんだよね。にしても登校中にこの三人が揃うなんて初めてじゃない?」
「だな。俺はまず登校中にクラスメイトに会ったの自体初かもしれない」
「俺様もいつもはもっと早い時間に登校してるんだけどよ、今日はちょっと寝坊しちまって遅くなったんだわ」
俺のいつもの登校時間で遅いとはやはり見た目に似合わずに結構しっかりしてるタイプなのかもしれない。
「そうだ、二人ともニュース見た?"黒狼"が逮捕されたってやつ」
瞬が早速"黒狼"の話題を出してくる。
やっぱり日本で結構有名な犯罪者集団が捕まったからかそれなりに大きいニュースになるんだろうな。
「なんじゃそりゃ?"黒狼"自体は知ってるけどよ、捕まったのか?」
さすが玲音。まだ事件から一日しか経っていないから仕方ないのかもしれないが全くと言っていいほど情報に疎い。
「玲音はもっとニュースに興味持った方がいいよ。うちのクラスの中山さんも大変だったらしいし」
「中山?中山が関係してたのか?」
なんていうか瞬も表情から呆れ切ってるのが分かる。
玲音は脳筋タイプっぽいし仕方ないのかもしれない。
「それにしても"黒狼"が捕まってよかったね。アジトは近くにあったらしいし」
「ま、襲いかかってきても返り討ちにしてやるけどな!」
捕まった事によりホッと胸を撫で下ろしてる瞬と戦ってみたかったとちょっとだけ戦闘狂の面を見せる玲音。反応はそれぞれのようだ。
だがいつも見ている玲音の実力では井出どころか石山にすら敵わないだろうというのが俺の本音だ。
確かに玲音は既に高校一年生を逸脱した実力を有しているかもしれない。
しかし高校二年生になればギリ上位に入れるくらいであり、高校三年生にでもなれば玲音程度の実力者はゴロゴロいるだろう。
まだ玲音は井の中の蛙というわけだ。
高校三年生上位の実力者でようやく石山と互角にやり合えるぐらいだと思う。
どうやら二人と"黒狼"について話しているといつの間にか学校に着いたようだ。
「あれって、中山さん達じゃない?あんなところで何してるんだろ」
瞬の言葉で校門付近を見るといつも通り目立った集団がそこにいた。
中山礼奈だけでも十分目立っているのだが、間宮美香と桜井桃も一緒におり、登校中の生徒達からは怪訝そうな目を向けられている。
俺は中山にブレザーを返して貰わないといけないしいい機会だ。
校門付近に近づくと二人に中山に用があるから先に行くように言っておく。
「無事を祈ってるぜ、一樹」
「もうちょっとで朝礼始まるし急いで来なよ」
玲音は何か勘違いしているようなので置いておくとして瞬は特に何も気にした様子はなく時間の忠告だけして玲音を引っ張っていった。
あんまり親しくない女子に話しかけるのは緊張するが俺はブレザーを返してもらう為に美少女三人組に声をかける。
「ちょっといいか?」
「何?あたし達は今誰かに構ってる暇はないんだけど。告白なら後にして」
酷い言われようだ。声をかけただけなのに間宮にあっさりとあしらわれてしまった。
中山と桜井はこっちに見向きもしないし周りからは可哀想な目を向けられてしまう。
この三人は告白される事が多そうだから勘違いされても仕方ないのかもしれないが俺はただブレザーを返してもらいたいだけだ。
俺はもう一回めげずに声をかけてみる。
「すまん、すぐに終わるから話だけでも聞いてくれないか?」
「何?もうちょっとで朝礼も始まるんだしさっさとしてよね」
間宮に嫌々そうに対応されてしまい俺のメンタルがどんどん削られていく。
「⋯⋯ブレザーを返してほしいんですが」
「は?ブレザー?」
「あぁ、ブレザー」
間宮がフリーズしている。
ブレザーという単語が出てから中山と桜井もこちらを振り返って固まっている。
何かおかしなことでも言っただろうか。
数秒固まっていた間宮がようやく声を出した。
「あ、あぁ、ブレザーね。礼奈に貸したので合ってる?」
「あぁ、合ってる。昨日貸したんだが返して欲しくてな」
そう言うと中山が何故か顔を赤くさせながら袋を渡してくる。体調でも悪いのだろうか?
「え、えっと、これ!」
ブレザーの入った袋を渡されるから受け取るのだが何故か中山が袋から手を離してくれない。
「⋯⋯中山?」
「あ、あのさ、RAIN交換しない?」
今度は俺がフリーズしてしまう。
RAINとは言わずもがな連絡を取り合うアプリだ。
別に交換する事自体は構わないのだが中山にそれを言われるとは思っていなかった。
「⋯⋯別に構わないぞ」
「そ、そっか、えへへ。じゃ交換しよ!」
俺は朝礼までの時間が迫っている事もあって素早く中山とRAINを交換してから間宮と桜井にもスマホを突き出されたので二人ともRAINを交換する。
中山は嬉しそうにスマホを抱きしめている。
何故か登校中の男子生徒からの視線が痛い。
俺は中山に近づき耳元で囁く。
「昨日の事は二人だけの秘密にしてくれていいか?」
俺がそう囁くと中山は更に顔を赤面させコクコクと頷くロボットみたいになってしまった。
本当に体調は大丈夫なのだろうか?
俺は中山から離れ、校舎にある時計を確認するともう朝礼まで3分を切っている。
「じゃあまた教室でな」
俺は美少女三人組にそう声をかけてから校舎に向かって走り出した。
俺の足の速さだと余裕だが女子の足のスピードだと朝礼に間に合うかわからない。
俺は中山と間宮と桜井の三人が朝礼に間に合う事を密かに祈っておいた。