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第13話 井出圭介

 井出は自己紹介をしてから俺の事をギロリと睨みつけてきた。


「俺が名乗ったんだ。てめぇも名乗りやがれ」


「龍崎一樹だ。これでいいか?」


 俺は冷めた声と表情で井出に向かって名乗ると奴は何がおかしいのか笑い声をあげている。


 一定の間笑い声を上げ続けたと思ったらピタリと笑い声を止めて俺に向き直る。


「俺相手にそんな冷めた対応する奴は初めてだぜ。さっさと死合おうぜ!俺はてめぇのその表情が恐怖で歪むところが早く見てえんだよ!」


 井出はそう言い終わると同時に俺に飛びかかってきた。


 狙いは心臓で、伸びた爪で引っ掻くつもりのようだ。


 あんな爪で心臓を抉られたら堪ったものではない。


 俺は後方に飛んで距離を取ろうとするが井出はそれを許さず一瞬で距離を詰めてくる。


 スピードもさっき戦った石山より速い。


 俺は後方に飛び続けているとついには壁まで追い込められてしまった。


 井出は笑顔を保ったまま爪で攻撃しようとしてくる。


 だが背後が壁の為俺は間一髪で地面を蹴り横に飛んで避ける。


 凄いスピードで突撃してきていた井出はブレーキが効かずに壁に激突する。


 井出が激突した壁付近は煙が立っている為どのような状態かはわからない。


 あのスピードで壁にぶつかれば普通の人なら再起不能の大怪我を負うことだろう。


 俺は井出がこれで倒れてくれる事を願うがその願いはすぐに打ち砕かれた。


 井出が煙の中から身体中に血を流しながら歩いてきたのだ。


「にしても(いて)ぇなぁ。痛ぇ痛ぇ、すげぇ痛ぇじゃねえかよ。殺す。てめぇだけばぜってぇに殺す!」


 さっきまでとは雰囲気がガラリと変わり殺気を剥き出しにしたまま俺に近づいてくる。


 井出の身体も徐々に大きくなっているように感じる。


 おそらくあいつはここから本気で戦うつもりなのだろう。


 井出は腰を低く落として地面を蹴った。


 さっきまでも速かったが段違いと言っていいほどに速くなっている。


 俺は避けるだけで精一杯だ。と言っても避けきれない攻撃もあり身体中に擦り傷が増えていく。


 元Aランク冒険者なだけはある。


 俺は意識を集中させ井出の攻撃を目で追い続け勝機を見出すまで待つ。


 ・・・・・・今だ。 


 俺はその時が来ると右足を前に踏み込み、腰を低くして右の拳を前に突き出す。


「ぐはっ」


 俺の拳がちょうど目の前に現れた井出の腹部を捕えると井出が後方に吹き飛ぶ。


 俺は続け様に井出を追い追撃を行う。


 だが流石は元Aランク冒険者と言ったところだろう。


 井出は体勢を立て直すのが早く俺の追撃の拳は避けられてしまった。


 大きいダメージを二度負った井出と擦り傷程度だが大量に受けている俺。


 もはやここからは正面からの戦闘だ。


 おそらく井出も大きいダメージを二度受けた事により先ほどまでのスピードを出すことは不可能だろう。


 ここからは単純な格闘戦だ。


 井出も伸びている爪は近距離戦では不利だと感じたのか爪をしまい拳を構える。


 俺たちはどちらからともなく動き出し、拳を交える。


 姿を黒狼に変化させている井出の方が身体能力が高く有利だ。


 だが俺はこれまでほぼ毎日異能を使わなくて済むように己の身体を鍛えてきた。


 技術面ではこいつに負けてないはずだ。


 どれくらいの時が経過しただろうか。


 先に倒れたのは井出だった。


 俺は顔中に血を流していてもはや痛いという感覚すら無い。


 俺は片膝をついた状態で頭を動かす。


 今回の戦いで色々な事を気付かされた。


 俺は自分が強いと思っていたが、身体能力が向上する系の異能力者相手には単純な身体能力だけでは限界がある。


 今回はなんとかなったがそれでもこれから石山や井出よりも強い敵と戦う機会があればその時は負けてしまうかもしれない。


 そうならないためにも俺は早い段階で自分の異能へのトラウマを克服するべきだろう。


 俺は立ち上がり、フラフラになりながら女の子の元へと向かう。


「もう大丈夫だ。女の子がそんなに肌を露出させるもんじゃない。これでも羽織っとけ」


 女の子は一瞬ビクッとしていたが俺は気にせずにブレザーを羽織らせてあげる。


 俺がブレザーを羽織らせてあげる時に女の子の顔が同じクラスの中山礼奈という事に気づいて少し目を開いてしまう。


「えっと、ありがと・・・・・・な、名前とか電話番号とか聞いてもいい?良かったら今度お礼したいし・・・・・・」


 俺は学校で影薄い自信はあったが流石に初対面みたいな反応をされては内心傷つく。


 その時外から異警のサイレンの音が聞こえてくる。


 流石に異警と鉢合わせて面倒臭い事になるのはごめんだ。


「気にすんな、異警も来たようだしな。じゃあな」


 俺はそれだけ言い残してから最後の気力を振り絞って入ってきた天井に向かって跳躍する。


 そこには傘を差した状態のソフィが待っていた。


 傘を持っているとこを見るに一度家に帰ったのだろう。


 俺と家を出る時は二人とも傘なんか持ってなかったしな。


「ソフィ、異警呼ぶの遅すぎないか?」


「申し訳ございません。一樹様と"黒狼(ブラックウルフ)"のボスの戦闘が始まったくらいで呼びましたので」


「そうか」


「はい、一樹様も実戦経験は多い方が良いかと思いまして」


「礼を言う。俺も今回の事で色々学ぶ事も多かったしな」


 俺はそういうと前に身体が倒れる。


 ソフィはそんな俺を受け止めながら優しい笑顔で微笑む。


「そろそろ限界だ。家まで運ぶの任せていいか?」


「お任せください。一樹様は私の命よりも大事なお方なので」


 意識を手放す直前ソフィの声がうっすらと聞こえた気がした。


「一樹様、ゆっくりとお休みください。貴方様にこっそり手を出そうとする輩が現れればその時は私が始末いたしますので」


 ソフィがこんな物騒な事言うはずないよな。気のせいか。


 俺は戦闘の疲れが思った以上にあったのか朝まで起きることはなかった。

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