第10話 中山礼奈
あたしは自分で言うのもなんだけど、普通の子より可愛い方だと自覚している。
実際、小学校でも中学校でも男子に告白された経験がある。
小学生はまだ恋愛に興味ない人間の方が多いから告白された回数は数えるほどしかなかったけど、中学生になってからはほぼ毎週のように告白されていた。
中にはイケメンな先輩や運動部のエースの子もいた。
幼馴染の美香や桃は、試しに付き合ってみればみたいな事を言っていたけどあたしは自分が相手を好きになっていないのに付き合おうとは思えない。
ていうかあたしはまだ初恋も経験していない。
中学の同級生の子が、好きな人を見ると胸がドキドキしたりつい好きな人を目で追ってしまう的な事を言っていたけどあたしはそんな経験を知らない。
恋愛に興味が出る年頃の中学生であたしは恋人も作らずに日々を過ごしていたら恋愛を知る前にいつのまにか中学も卒業していた。
結局恋愛経験のないまま桜蘭高校に進学した。
この学校を選んだ理由は家から近いというのと幼馴染の2人がここに進学すると聞いていたからだ。
小学生の頃から付き合いがある2人がいた方が高校でもやりやすいと思ったのだ。
入学式の日に校舎を歩いていると思った通り周りからの全身に突き刺すような視線が多かった。
近くであたしに聞こえないとでも思っているのか小声で「あれ中山礼奈じゃね」や「お前話しかけてみろよ」みたいな声には吐き気がする。
あたしはこれでも知名度のあるモデルだから心で思った事を決して声に出したりはせず、にっこりと笑顔を見せて通り過ぎる。
隣を歩く美香と桃は昔からの付き合いであたしがそういう視線が嫌いなのを分かっているからか常に両隣であたしを守るように歩いてくれる。
美香に至ってはあたしの方を見ていた男子達をギロリと睨みつけてくれるから頼もしいまである。
あたしはいつもこの2人にお世話になりっぱなしだ。
授業初日の朝礼で自己紹介が終わり、早速授業が始まった。
あたしはどっちかと言うと勉強は苦手だ。
この学校に入学する為に受験勉強は頑張ったけど、中学時代は常に赤点ギリギリで成績も悪かった。
幼馴染の美香は勉強が出来るけど、桃もあたしと同じくらい勉強ができないから受験生の時は毎日のように3人で勉強していた。
高校最初の授業な事もあって受験勉強した所などもあったからまだ授業内容もついていけそうだ。
気がついたら四限目も終わり昼食の時間になっていた。
あたしたち3人は中学の頃から食堂ではなくお弁当派だ。
授業終わると同時に席を立ち3人で雑談しながらお弁当片手に校舎内を歩き回る。
中学時代の癖で自然と3人ともの足が屋上に向かっていく。
中学では屋上が開放されてたからいつも屋上でご飯を食べていた。
この高校は開放されているか分からなかったが屋上に続く階段を登り扉を開けると特に力を込める必要もなく開けることができた。
外に出ると風が気持ちよかった。
あたし達は屋上に4つあるベンチのうちの1つに3人並んで座り、お弁当を開ける。
あたしと桃は毎朝自分で弁当を作っており、美香はお兄ちゃんに作ってもらっているようだ。
今日の授業の様子だったり、最近のファッションだったりを話しながら弁当を食べているうちにすぐに時間が過ぎてしまって、午後の訓練の時間が迫っていた。
あたしたちは急いでお弁当を片付けてから更衣室に行き、着替えてからグラウンドに出る。
早乙女先生と知らない男の先生が立っているそばにクラスで見かけた何人かは既にいたけどまだほとんどの人が来ていないようであたしは先生達の近くまで寄ってから美香と桃と雑談をしながら時間を過ごす。
しばらくしてからチャイムが鳴り団体訓練の授業が始まった。
どうやら3組と合同でやるようで最初に行った3組との模擬戦であたしたち4組は負けてしまった。
ちなみにあたしも美香も桃も戦う術を知らないので後ろで皆んなが戦う姿を見てる事しかできなかった。
まぁあたしたちはすぐに遠くからの魔法攻撃で退場させられてしまったけど。
その後は非戦闘系能力者のあたし達は先生から武器を持つように言われ、とりあえず剣を手に取ってから素振りばっかしていた。
剣術がそう簡単に習得できるはずもなく最後に行った模擬戦でも上手く武器を扱う事ができずまたすぐに退場してしまった。
美香や桃は既に退場していたようであたしの方を見ながら小さく手を振ってきた。
ただただ憂鬱だった団体訓練の時間も終わり更衣室で着替えてからあたし達は下校した。
中学時代は下校時に喫茶店で駄弁ったり、カラオケに行ったりしたけど流石に今日はそんな事をする気も起きず大人しく家に帰る事にした。
翌朝、目が覚めてからリビングに向かうと大学生の姉である中山真奈がテレビの前のソファに座ってコーヒーを飲みながらニュースを見ていた。
「お姉ちゃんおはよ。なんかニュースやってる?」
「礼奈おはよ。特に興味惹かれるものはないかな」
テレビを見ると確かに政治関連だったり有名人のスキャンダルがやっていてあたし達一般人には関係無さそうな事ばかりだ。
『次のニュースです。最近巷で話題の異能を使った犯罪者集団"黒狼"が一般市民に襲いかかり窃盗、誘拐、殺人などの犯罪を犯しております。異能警察も調査をしていますが足がかりを掴むことができておりません。もしリーダー格と思われるこの男、井出圭介を見かけたら異能警察へと早急にご連絡下さい。特徴は・・・・・・」
唐突に耳に入ってきたそのニュースを見て胸騒ぎがした。直感というものなのかもしれない。
あたしはテレビの左端にある顔に傷がある強面の男の顔を脳裏に刻んでから学校へ行く支度を始めた。
それから二週間近くが経過した。
みんなが学校に慣れてきた頃合いだ。
あたしも例外ではなく学校に慣れてきて少し怠けてしまったから現在漢字の小テストの追試を受けている。
ちなみに小テストに合格した美香と桃は既に帰宅している。
追試の問題を全て解き終わり前に座っているルリちゃんに丸つけをしてもらう。
ルリちゃんと言うのは早乙女先生の愛称で女子の間ではそう呼ばれている。
「中山さん18点でギリギリ合格!次からはちゃんと勉強してから受けるんだよ?」
「はーい。じゃあね!ルリちゃん」
「雨降ってるし気をつけて帰ってね」
あたしはルリちゃんに適当に返事してから急いで鞄に荷物を詰め込んでから教室を出た。
不気味なくらいに暗い廊下を歩いていると外から雷の轟音が聞こえてくる。
こんだけ土砂降りの雨の中を歩いて帰ることを思うと思わずため息が出る。
傘立てに朝置いた傘を手に取り、校舎を出ると歩くのを躊躇してしまうくらいの量の雨が降っていた。
ため息をつくと幸せが逃げると言うけど、この雨の中を帰るとなるとため息もつきたくなるというものだ。
あたしは靴や肩が少し濡れながら帰路に着いていると突然周りに現れた男達に取り囲まれた。
「えっと、あんた達は誰?もしかしてあたしのファン?」
少し怖い思いをしながら強気に聞いてみる。
もしファンであればサインでもしてあげれば終わる話だからだ。
しかしあたしの願いは届かず、男達は唐突に傘を投げ捨てるとあたしの腕を掴んできた。
腕を掴まれた事によりあたしの手から傘が離れてしまう。
全身が雨でずぶ濡れになってしまう。
「え、何!?」
「俺たちのボスがてめぇの事を気に入ってるんだ。さっさと来い」
「い、嫌!絶対に行かないから!」
「おら、さっさと来いっつってんだろ!」
「嫌って言ってんじゃん!腕離して!」
あたしがどんだけ腕を振り払おうとしても女であるあたしが大柄な男の腕を振り払うことはできない。
「さっさとこいつ連れてこうぜ。こいつ連れてけばボスも喜ぶだろ」
「あぁ、確かにな。確かこいつってボスのお気に入りなんだろ?」
「兄貴、そいつを無理やり連れて行ってアジトに戻りましょうよ」
「まぁそれもそうだな。アジトに戻ってボスにこいつを渡さなきゃならんしな」
兄貴と呼ばれた男はあたしの腕を無理やり引っ張ってロープでぐるぐる巻きにしてから口にガムテープを貼ると車のトランクを開けてそこに放り込む。
それから少しして車が発進した。
一体何分経ったのだろうか。
短いようで長い時間が経ちあたしはトランクから降ろされてさっき兄貴と呼ばれた男に担ぎ上げられる。
おそらくここがこいつらのアジトなのだろう。
もうここまで来たら抵抗する気力さえない。
あたしはこれからされるであろう事を想像すると目尻に涙が浮かんできた。
「ボス、連れてきました」
あたしを誘拐した4人が膝をついてボスと呼ばれる人の前にあたしを無造作に放る。
ボスと呼ばれる男があたしの目の前に来る。
震えが止まらない。
ボスと呼ばれる男があたしの顔を覗き込んでくる。
その顔には見覚えがあった。
つい先日指名手配をされていた犯罪者集団"黒狼"のリーダー、井出圭介だった。
あのニュースを見た時に感じた胸騒ぎは間違っていなかったのだ。
井出は舌なめずりをしながらあたしのロープを解いてから制服を引きちぎる。
「い、嫌・・・・・・やめて・・・・・・」
あたしの拘束は解かれたが恐怖から抵抗する事もできない。
「やめねえよ、俺はなぁ気に入った女は犯すと決めてんだよ。てめぇの事を雑誌で見た時から犯したいと思ってたんだ」
「ボス、もし終わったら・・・・・・」
「あぁ、分かってるよ。俺が使い終わった後ならてめぇらの好きにしろ」
「ありがとうございます!」
あたしは制服が破られてどんどん素肌が露わになっていく。
あたしの初めてがこんな人に奪われるくらいならもっと恋愛に積極的になるべきだったと思うけどもう遅い。
次にブラジャーを取り外すされそうになり、あたしは目を瞑った。
そしたら次の瞬間天井から轟音が鳴り、そこには大穴が空いていた。
そこからあたしと同い年くらいの男の人がずぶ濡れの状態で飛び込んできて、周りを見回してから言った。
「よってたかって女の子いじめてんじゃねえぞ、クソ野郎どもが」
この場所が暗いこともあって顔はよく見えなかったが、それでも初めて恋に落ちるには十分だった。
あたしは助けに来てくれたその人のことを見つめながら顔が赤面していくのを感じた。