第1話 異能
異能。
それは数百年前に突如として人類全員に発現したと言われる超常的な力だ。
異能が発現すると同時に世界各地に魔物が跋扈するダンジョンというものも出現した。
人類の研究者たちは、異能はダンジョンにいる魔物を討伐する為に神によって与えられた力だと結論づけた。故にダンジョンの魔物を狩る為の組織である冒険者ギルドというものが世界各地に設立された。
冒険者ギルド自体には最初に金さえ払えば登録できる上に稼ぎも良く、冒険者に登録してる人間は多い。だが、その後のダンジョン探索で命を落としたとしてもギルド側が何かしてくれる事はない。
つまり全て自己責任というわけだ。
他にもダンジョンとは別に定期的に魔物襲来というものがやってくる。
これはダンジョンの魔物がダンジョンの外にも大量発生するという一種の災害である。ダンジョン探索を仕事にしている冒険者ならまだしも、普通に生活を送っている一般市民は魔物に抵抗できず殺されてしまう事が多い。
だから冒険者ギルド近くに魔物襲来対策として異能警察、通称異警と呼ばれる組織も存在している。異警は魔物襲来以外にも、異能を用いた犯罪者等を逮捕する役目も担っていたりする。
そもそも異能とはなんなのか?
まず異能は六つの種類に分かれている。火や水などの四大元素に加え、雷、光、闇に関わる力を操る自然系能力者、容姿を変化させ新たな力を得る変化系能力者、言葉で説明する事が難しい非科学的な現象を起こす事ができる超常系能力者、自らの身体能力を強化することが出来る強化系能力者、そしてこれらの力を授かる事が出来なかった非戦闘系能力者とこのどれにも当てはまらないが一人で圧倒的な力を有すとされる災害系能力者が存在する。
人類は皆、このどれかには当てはまっており、異能を持たない人間は存在しない。
さて、そろそろ起きないといけない時間だ。実は数分前から目は覚めていたが布団から離れたくなくてずっとゴロゴロしていたのだ。早く起きないとアイツが作ってくれてるであろう朝食が冷めてしまう。
俺はそう思うと名残惜しくも布団を手放し、起き上がるのだった。
一階に降りると、キッチンからメイド服に体を包んだ銀髪の美少女が微笑んでくる。
「おはようございます、一樹様」
「あぁ、おはようソフィ」
俺は挨拶だけ交わすとテーブルには向かわず先に洗面所へと足を運ぶ。顔を洗いながら今日から始まる新たな生活に心を躍らせる。実は今日から俺は高校生としての生活が始まるのだ。入学式自体は既に終わっているが、授業となると今日が初めてである。
俺はこれから起きるであろう新しい出会いなどに想いを馳せながらダイニングのテーブルに着く。俺が着席したのを確認したソフィがお盆で朝食を運んでくる。慣れた手つきである。
朝食をお盆からおろすとソフィは俺の正面に着席する。
俺とソフィは同時に手を合わせる。
「「いただきます」」
俺たちの朝のメニューはいつも変わらない。ソフィが入れてくれたコーヒーに、パン、目玉焼き、ソーセージ、ベーコン、玉子焼き、サラダである。
ぱっと見はどこの家庭でも出てきそうな朝食の感じだが、ソフィの料理は別格だと俺は思う。目玉焼きは俺が好きな半熟にしてくれるし、ソーセージやベーコンの焼き加減もちょうどいい。玉子焼きは形が綺麗でどの店で食べた玉子焼きよりも美味しく感じる。サラダも色んな野菜を使っているのかカラフルで輝いて見える。
俺は朝食を食べ終えてから食後のコーヒーを飲む。やはり彼女のコーヒーは美味い。
正面を見るとソフィもちょうど食べ終えたところのようだ。俺は改めてソフィの事を見てみるがどっから見ても美少女である。ちなみにソフィというのは俺が呼んでいるあだ名であり、本名はソフィア・ブラッディローズ、15歳だ。美しく長い銀髪に赤い瞳、程よく成長した身体等どこを取っても超絶美少女である。
俺はというと少し身体能力が高いだけの凡人である。名前は龍崎一樹、ソフィと同じ15歳だ。ちょっと黒髪が目にかかっていて中肉中背といったどっちかというと隠キャよりの人間である。なんでこんな俺とソフィが一緒に暮らしているかは数年前まで遡る事になるが今は置いておこう。
「そろそろお時間ですよ、一樹様」
「ん?あぁ、本当だ」
食後のコーヒーでゆっくりしていたら、もう登校の時間になっていたようだ。と言っても今の時刻はまだ8時だ。ここから学校まで15分くらいであり、学校で朝礼が始まるのが8時30分からという事を考えればまだ少し余裕はある。
しかし、俺はまだ制服に着替えてない事を考えると案外ギリギリの時間なのかもしれない。
俺は急いで洗面所に行き歯を磨いてから、脱衣所でパジャマを脱ぎ、近くのタンスにしまってある制服を取り出すとさっさと着替える。
ぱっとリビングにある時計を見ると時計の針は8時10分を指していた。どうやらネクタイで手こずっていたのが少し時間をロスしていたらしい。
俺は昨日準備して玄関付近に置いていたカバンを手に持って玄関から出ようとするが肩を掴まれる。
後ろを振り向くとソフィがにっこりと微笑みながら俺のネクタイを整えてくれる。
「これでいつも通りかっこいいですよ」
こいつが俺を褒めるのはいつもの事だ。
どこを見たら俺がかっこよく見えるのだろうか。
「ネクタイ、ありがとな。じゃあ行ってくる」
「はい、行ってらっしゃいませ」
俺は礼を言い、外出する時の挨拶を交わすとこれからの高校生活に胸を躍らせながら玄関を飛び出したのだった。