永遠の冬
子供のころ、夏のキャンプで夜の星空が美しかったことの感動を思い出しながら、書きました!
えっ、夏!? 内容はちゃんと冬です!
永遠の冬
1
学生である僕は、この冬休みに、Z県のN町を訪れた。
Z県は、いわゆる海なし県で山が多いが、N町は比較的平地が多く、農業が盛んだ。
ところが、町はずれは完全な山岳地帯になっている。僕の目的はこのN町の山岳地域を訪れることだった。
もともと、N町はA村、B村、C村が何十年も前に合併してできた町で、A村とB村は農地が多く、C村が山地だ。
そして、このC村は二つの意味で有名だった。
一つは、僕が訪れた目的である、天体観望のひそかな人気スポットであること。
もう一つは、僕はあまり興味がないのだが、旧C村は「呪われた村」と、一部のオカルト好きの対象とされていること。
N町は人口8000人を越えるが、旧C村地域は山地とあって、150人ほどしか住んでなく、然も空き家も多い。
近年、この空き家が民泊できるように、整備されたらしく、旧C村の責任者に頼めば、宿泊が可能なのだ。
また、広い平地もあり、ここはキャンプ場として整備されている。
今のような冬場は当然寒いが、Z県全体が大雪に見舞われることはほとんどない。
2
N町の駅を降り、旧C村へのバスを待つ。
近くには交番があったが、掲示板があり、そこには行方不明者の情報提供を求めるポスターが貼ってあった。
僕はその行方不明者の顔写真を眺めた。
「見かけたらご連絡を。2020年8月3日の夜にC地域に出かけて以降消息不明です。△△健則、当時38歳」
△△とは随分珍しい姓だと思った。あとで知ったのだが、N町に多い姓だ。ポスターを読むと、健則さんは旧A村に在住の方で、旧C村へ当日の夜に実家から赴いて、消息不明になったそうだ。
これが「呪われた村」伝説の一環なのだが、確実なのは警察に届けられただけでも、旧C村で消息不明になった人たちは、健則さんを含め4人もいるらしい。
「化け物が現れて喰われるそうだ」
「神隠しで有名な村だよな」
「実はあのC村って口減らしをやってた村らしく、今でもその奇習が残ってるんだってよ」
「何百年も前から、人々が消えているんだって」
スマホでちょっと調べたが、くだらない。
事故なら捜索で遺体で見つかるだろうし、見つからないのなら、何か個人的な事情があって失踪しただけだ。
バスが来た。
僕の心は天体観望でいっぱいになった。
3
旧C村の責任者の家に赴き、宿泊する空き家の鍵を貰いに行く。
○○さんは80前後のおじいさんだ。○○も珍しい姓だ。N町では4つの稀姓を持つ人たちが殆どなのだ。
おじいさんの家の居間に通され、改めてこのC地域に来た目的を僕は告げた。
「学生さんは天体観望をしたいと」
そう言ったおじいさんは、壁に掛かった大きな写真枠に目をやった。
僕もつられてそれを見る。中学生くらいの2人が笑顔で肩を組んだ写真だった。最近の感じではない。古そうなので息子さんとその友達か?
1人のほうは何か見覚えがある気がする。
「予約時の電話でも注意したが、天体観望はキャンプ場ですること。間違っても山を登らないように」
「熊とか出るんですか?」
「いや、熊は出ないが、夜中だと迷ってしまうかも知れん」
そう言われたが、泊まる家は比較的山の中にあり、キャンプ場の広場は、旧C村では低い位置にある平地だ。
鍵を貰い、目的の空家へ着く。やはり少し行けば山を登れそうだが、見た限りそれほど危険な傾斜でもないし、確かに熊などが出てくる様子もない。
気になったのは、上の方でも森林のない、ちょっとした平地がある。
さて、夜になるまで一休みするか。
4
夜。僕はキャップ地へと完全な防寒で降りていく、星々が輝いている。
ちょっと残念なのは、今日は曇りがちなことだ。明日は朝から一日中晴れるらしいから、本番は明日の夜としよう。
翌日の夜のキャンプ場。同じく完全な防寒だ。
「うわ~、すごいな~。冬の大三角があんなにはっきり。しかも後ろの天の川銀河まで見えるなんて」
僕は興奮した。そして帰り際に上へ登って行くと、更に空の星々は輝きを増してくる。
だが、森林が邪魔で全体的には見えない。
「そうだ。もっと上へあがってみるか。確かあまり森林がない場所があったよな」
僕は宿泊している家を通り過ぎ、山道へと入った。
昼に確認していたが、懐中電灯があれば滑落しそうな危ない場所はない。
ぐんぐん登って、僕は目的の平地へと到着した。キャンプ場と違って狭いけど。
「これは! こんなすごいところがあるなんて!」
ちょっと高い場所へ行っただけで、これだけ変わるとは!
キャンプ場も良かったけど、こっちは濃紺の布に数えきれないほどのダイヤモンドを散りばめたような星々が眩しいほどに輝いている!
「何だ、あれは?」
僕はこの平地の奥の低木群の中に何かを見つけた。
椅子がある。よく見るとかなり朽ち果てているが、何かの秘密基地みたいだ。
「へぇ~、ここに秘密基地を作って、遊んでた子がいたんだ。そうだよな、こんな素晴らしいところだからな」
僕は椅子に座ってみた。
「壊れないかな?」
少し山登りをして疲れていたので、僕は目を閉じて休むことにした。
5
「う、う~ん……」
僕は気が付いた。やっぱりあの椅子は壊れてしまい、その転倒で僕は頭でも打ったのか、気を失っていたらしい。
「あれ?」
ものすごい濃霧の中、しかも場所はかなり広い草地で、そしてうっすらと雪が積もっている。
一日中晴れで、濃霧や降雪の情報なんてなかったのに。
頭を打ったせいなのか、ひどい頭痛がするし、気分が悪く、何より体が重い。
周囲を確認しようと立ち上がると、途端にめまいがしてクラクラする。
「……うっ、オエッ!」
僕が再び目を覚ました時、山小屋のようなところで、簡易な木で作られたベッドで横たわっていた。
誰かが救助したのだろうか。でも病院のようなところじゃない。
「あぁ、目が覚めたようだね」
近くに男性がいる。彼は僕の顔を覗き込んだ。僕は仰天する。
「あ、あなたはあの行方不明者!」
それは、N町の駅の近くの交番にあった掲示板のポスターの人物だった。
6
「何でこんなところで隠れているんですか!? 交番のポスターを見なかったんですか? 確か△△健則さんですよね?」
「まぁ、そうだけど。おーい、みっひこ。今日の夜はどうだ? 説明できそうか?」
「多分晴れるよ、たけのん」
そう言って、健則さんと同じ齢くらいの人が現れた。
「俺は○○通彦。俺のポスターは流石にないか」
○○はあのおじいさんと同じ姓だ。どうなってるんだ、ここは……?
そして、この2人。おじいさんの部屋に飾ってあった中学生が40歳前後になった感じだ。
そうか。だから1人は見憶えが、つまり健則さんなのか。
80代半ばの老人も現れ、彼の姓も○○で、健則さんと道彦さんから、「周一」さんと呼ばれている。
道彦さんは中学三年生の時、周一さんは60年以上も前から、ここにいるそうだ。
彼らも当時C村からかの消息不明者として、警察の捜査対象だった、と健則さんから教えられた。
7
夜。僕はけだるい中、健則さんに担がれ、外へと出た。
この場所はちょっとした小さな村といった感じで、木造の家々、家畜小屋もあり中には猪、畑もあり、水も引いてある。
道彦さんが説明をする。
「君は天体観望が趣味だと言っていたね。空を見てごらん」
「……!」
満天の星空には、何ひとつ僕が知る星座がない。
天の川銀河らしきものはあるが、そこには冬の大三角はない。
南半球にでも来たというのか?
「ハハハ、南半球だったら、どんなに素晴らしいか」
道彦さんの説明を僕はけだるさの中で聞いた。
「ここの太陽は、地球のやつよりも一回りほど小さい。そして、この惑星の太陽に対する公転位置は、地球より少し外側を回っている。この惑星は大気成分を初め地球とよく似ているが、地球より一回り大きくその分重い。故に重力も1G以上だ。けだるさはそのためだ。まぁ、少ししたら慣れるだろう」
ここは一年中冬みたいなところのようだ。
「不思議としか言いようがないのは、C村に突然出てくるワームホールみたいなのが、ここの時間軸と地球の時間軸と奇妙に一致してるんだ。そもそもこんな不可思議な事象に、いちいち位相や空間と時間の理論を考察すること自体ナンセンスな気もするけどね……」
こっちから地球に戻れるワームホールはない。一方通行である。
これっていわゆる異世界に来ちゃったってこと?
僕は星空を眺めて、あのどれかが地球の太陽からの光なのだろうか、と思った。
もっとも、何十年、何百年も前の光だけど。
この小さな村は、何百年も前から、旧C村の人々や、猪を初め動物が定期的に転移させられた結果、形成されたものだ。
この惑星固有なのは、植物と微生物しか確認されていないらしい。
僕たちはこの地球から何十、何百光年離れた寒い惑星で、生きていかなければならない。
永遠の冬 了
そして、この物語は壮大なスペースオペラへ…、とはなりません。
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