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第9話 高3・秋篇(その3)

その2続き。

詩奏の人生にとって、大きな出来事が発生するのであった。 


 9月のシルバーウィーク後半。

 金曜日の放課後。

 HK道旅行へ向かう為、詩奏はシンと合流し、HN田空港へ電車で向かう。


 「詩奏さんの制服姿、初めて見ました」

 信之は、かなり感動している。

 「シンって、ちょっとロリコン?」

 「違います。 制服姿があまりにも清楚な雰囲気なので......」

 「清楚? 言われたこと無いよ、今まで」

 「僕の受けた印象です」

 「まあ、いいけど......」

 「会社に戻らなくて、大丈夫?」

 「時間休取りました。 もう休暇中です」

 「それなら、問題無いね」


 「そんなに私の制服姿気に入ったのなら、今日ホテル着いたら、ずっと制服姿で居てあげようか?」

 「それは、ちょっと......」

 「ドキドキし過ぎて、ヤバい?」

 「はい......」

 「でも、制服って実はかなり汚いよね? クリーニング3ヶ月に1回くらいだし」

 「確かに、そうでしょうね」

 「そう考えると......やっぱり、止めておくね」


 「とにかく、楽しみなんだ。 今回の旅行。 シンも居るし」

 「ありがとうございます。 そう言って頂けると」

 「シンから見たら、私とのデートだよね。 泊まり掛けの」

 「えっ」

 「お父さん監視の下だけど」

 「......」

 「私から見たら、璃玖とシンと、2人とのデートなの」

 「なるほど」

 「そういうことね」

 その後、詩奏は勉強を始めたので、信之も仕事用のスマホを見ながら、残っている仕事のチェックを行うのであった。


 HN田空港駅に到着すると、第1ターミナルの北側で、先に着いていた璃玖と合流。

 「お父さん、荷物ありがとう。 重く無かった?」

 「大丈夫だよ。 詩奏、制服姿のまま荷物検査場通るのか?」

 「うん。 ラウンジで着替えるよ」

 「じゃあ、シンは普通の検査場通ってね。 私達は会員用の検査場使うから、中で再合流ね」

 「わかりました」


 その後3人は、航空会社系のラウンジに入り、出発時刻迄待つことにする。

 暫くすると着替えた詩奏が2人の前に現れた。

 普段は、家事に音楽、勉強と『妻代わり・ミュージシャン・高校生』の3人分のことをやっているので、お洒落をする時間があまり無い詩奏だが、流石に今日は余裕があり、かなり気合いの入ったお洒落をしてきた。

 カジュアルな格好でジーンズをはいているが、髪に軽くウエーブを掛けており、上着は長袖のスポーツ系シャツというスタイルであった。

 その姿を見て、固まってしまった信之。

 「どうしたの? 何かおかしい?」

 何処か衣服が捲り上がっているのかと、あっちこっち確認する詩奏。

 「あの〜。 そうじゃないです」

 「???」

 「似合い過ぎて、僕がヤバいんです」

 「前に会社に乗り込んで来た時も、大人っぽさ全開でかなりイケてましたが、今回はややスポーティーで、僕のイメージとピッタリ過ぎなんです」

 「詩奏、シン君のドンピシャだって、今の格好が」

 「お父さんも、そう思う?」

 「そうだなあ。 まあまあイケてるってやつだな」

 「2人に褒められて、上機嫌でございます」

 笑顔の詩奏。

 2人はビールを飲み始めており、詩奏もカフェラテを持って来て、のんびり過ごす。


 その後、出発時刻が近付いて来たので、機内へ。

 父娘と出張の若手サラリーマン風の3人組という少し変わった組み合わせであるが、終始笑顔の詩奏の存在が2人を和ませる。

 NewCS空港に到着後、ターミナル内で夕ご飯を食べてから、SP駅へ電車移動し、本日のホテルにチェックイン。

 この日の宿は、SP駅直ぐ近くの老舗ホテルであった。

 最上階に回るレストランが有り、3人なので部屋は広めのJrSwルームを璃玖が予約していた。


 部屋に入ると、

 「広いね〜、璃玖〜。 シン〜」

と言って、はしゃぐ詩奏。

 普段は、毅然としてテキパキとしていて、非常に大人びているが、こういう時は、女子高生らしい反応を見せる。

 その様な愛娘の様子を温かい目で見つめる父。

 そうした父娘の様子を微笑ましいと思いながら見つめ続ける信之。


 「シン君、早速一杯やろうか?」

 璃玖がチェックイン前に、1階のコンビニで買ってきた酎ハイとツマミをテーブルに並べて誘う。

 「お付き合いします」

と答えて、リラックスする為に、スーツを脱ぎ始めるシン。

 すっかり詩奏が居ることを忘れて、ズボンを脱いでしまった。

 すると、詩奏が

 「私が居るんだけど。 一応まだ18歳なんです」 

 「ごめんなさい。 つい出張でホテルにチェックインした雰囲気になっちゃってました」

 「でも、この間アレ見られちゃったし、短パン姿位なら、それ程問題無いでしょ?」

 珍しく、詩奏に反撃した信之。

 空港でスーツから着替えるつもりで短パンをはいていたのだが、HK道の気温が少し低いという情報を見て、そのまま着替えずに来ていたのだ。

 「詩奏、こりゃ一本取られたね」

 璃玖は笑いながら、晩酌を始める。

 短パンTシャツ姿になった信之も、璃玖に付き合い始める。

 「お疲れ様〜」

 「お疲れ様です」

 「ありがとうございます」

 グラスを軽くぶつけて鳴らし、乾杯をしてから、ゆっくり飲み始めた2人。

 自宅だったら、ギターで付き合うところだが、旅先ではギターは無い。

 構って欲しいと、大きなソファーに座った2人の間に入り込んで寝転ぶ詩奏。

 「ヤバいくらいカワイイです」

 「随分甘えん坊だな〜。 小学生の頃みたいだぞ」

 2人はその仕草に、それぞれ感想を述べながら、晩酌を続ける。


 すると、

 「シン、私の髪を触って、顔に触れて」

 詩奏は甘え続ける。

 恐る恐る触れる信之。

 固唾を飲んで見守る璃玖。

 「もう少し、ちゃんと触って、シン」

 「本当にイイのですか?」

 その問い掛けに、顔を見ると、真剣な表情で頷く璃玖。

 その様子を見て、思い切って撫で回してみる信之。

 すると、涙が出始める詩奏。

 「大丈夫ですか?」

 優しく撫でながら確認する。


 「お父さん、私、大丈夫になったみたいだよ」

 「詩奏......」

 大泣きし始める父娘。

 ある程度、詩奏の苦しみの時代の出来事を、璃玖から聞いていた信之であったが、流石にこの反応には驚いてしまう。

 「シン。 ありがとう」

 「私、シンなら大丈夫みたい......」

 そして、理由を話し出す。

 「私ねえ、男に嵌められて、金持ち相手の性の玩具にされかけたところを、お父さんに命懸けで助けて貰ってから、逆に男性恐怖症になっちゃって、璃玖以外の人の肌に直接触れることが出来なくなったの」

 「璃玖以外の男の人の手が当たっただけでも、蕁麻疹が出たりして、一時期は酷い拒否反応が出ちゃって。 服の上から当たるぐらいなら大丈夫になるまで、半年ぐらい掛かって」

 「最近は、心の方もだいぶ落ち着いてきたから、この間、思い切って、シンの頬に軽くキスしてみたり、自分からシンの手を握ってみた」

 「そうしたら大丈夫だった。 手を繋いだあの時、ちょっと強がりなこと言っちゃったけど、本当はシン以上に緊張していたの」

 「こんな私だから、本当に時間掛かっちゃうよ。 もしかしたら、普通のカップルの様なお付き合い出来ないかもしれないし、エッチも出来ないかもしれない。 それでも待ってくれるの?」


 「男に二言は有りません」

 きっぱり言い切る信之。

 「今日も待ち合わせしてから、こうして過ごす迄に、益々好きになってしまいました。 だって、こんなにカワイイんですよ」

 「ちょっと意地悪言ってみたり、大人っぽく変身したり、無邪気なところを見せて、甘えてみせて」

 「こんな色々な姿を見せられたら、元々大好きだったのに、もうどうしようもないです。 心を抑えることが出来ません」


 「それと、部長と詩奏さんが非常に仲が良くて、理想的な父娘関係だって言われていますけど、その裏には、2人しか知らない苦しみが有ったのですね」

 「今、僕はそれを知り、涙が止まりません」

 「僕の力では、大してお役に立てないと思いますが、僕に出来ることなら、遠慮せず言って下さい」

 そう言いながら、信之は涙が止まらなくなるのだった。


 詩奏は、

 「シン。 私の胸を触って貰えないかな? 服の上から」

 突然その様に求める。

 流石に、躊躇する信之。

 璃玖の方を見ると、黙って頷かれる。

 そこで、恐る恐る触れてみる。

 「もう少しちゃんと。 ちょっと揉んでみても良いから......」

 指示に従う信之。

 暫くして、ビクッという大きな仰け反る様な反応を、詩奏の体が見せる。

 「シン、ありがとう。 流石にもうちょっとかな」

 詩奏は、そのままソファーで丸くなってしまった。

 拒否反応もあったのだが、それ以外のものも有ったので、恥ずかしくなって、顔を隠したのだ......


 「今回の旅は、修行的な意味合いも有るんだよ」

 「それに、今話した様な事情もあって、修学旅行に参加出来なかった詩奏の為の、代わりの旅行みたいなものだね」

 「だからシン君も、詩奏の一生の思い出となる様に、一緒に楽しんで欲しいんだ」


 その後、男2人の晩酌は続き、自然と仕事の話しになっていた。

 詩奏は丸くなったまま、シンの体を触り続ける。

 璃玖以外の男の人と肌を触れ合っても拒否反応が出ないか? 自分の体の状況を確かめるように...... 


 「私、シャワー浴びるね。 今日学校行ってたこと思い出した。 シンごめん。 ちょっと汗臭かった?」 

 「いえ、全然です」

 「良かった~」

 暫くすると、

 「お風呂にテレビが有るし、広いね〜」

 そんな声が浴室の方から響きながら、やがてシャワーの音と、詩奏の鼻歌が聞こえ始める。


 「部長、先月の海外での撮影スタッフが殆ど女性だったのには、理由が有ったのですね」

 「長尾さんは、詩奏の恐怖症のこと知っているから、配慮してくれたのだろう。 ただ海外で女性だけっていうのは、安全面から問題も有るので、シン君とカメラマンさんと、その他もう2人という形になったんだろうね」

 「直接肌が触れなければ、大丈夫なのですか?」

 「大丈夫のようだよ。 ハグも出来るから」

 「男物の下着触ったりするのも? この間のゴルフの時ですが......」

 「そう言うのは、一番状態が酷い時でも大丈夫だった。 大きくなったアレ見ても、騒いだりしなかっただろ? 直接肌同士が触れなければ、拒否反応は無いらしいよ」

 「そうなのですか......」


 その後、SP市中心部の都会の夜景を見ながらの、男2人の晩酌は続く......

 1時間近く経って、2人の酔いがまわり始めた頃に、風呂上がりの詩奏が現れた。

 その姿に見惚れてしまう信之。

 「......」

 「シン、どうしたの? お父さん、シンがまたフリーズしているよ」

 「シン君は、詩奏の風呂上がりの姿を見るのが始めてだからな。 感動し過ぎているだけさ」

 「ふーん。 そんなものかね~。 私ぐらいの女の子なんて、幾らでも居るのに?」

 「シン君は、詩奏のことが大好きだからな。 大好きな子の風呂上がりの姿を初めて見た時の感動は、それはもう言葉に言い表わせないものだろ?」

 2人の間に詩奏は座ると、ツマミで出されている菓子類を片付けながら、

 「2人共、少し酔いが回っているみたいだから、そろそろシャワー浴びたら? 明日は他の宿に移動するのだから、寝る準備をしないと」

 「そうだね」


 2人が晩酌を終了し、空き缶などを片付け始める。

 詩奏は、一人夜景を見つめ続けながら、

 『お母さん、私、少しずつ立ち直っているよ。 でも、絶対に彩陽を忘れたりしないから、引き続き私達を見守って居てね』

 心の中で呟くのであった。


 消灯後。

 詩奏はイタズラを始める。

 少し酔いすぎた信之。

 寝付きは良かったが、酒の影響で眠りが浅い。

 寝付いて1時間くらいで、ふと目が覚めると、自身が寝ているキングサイズのベッド内に、もう一人入り込んでいた。

 詩奏であった。

 ビックリしてベッドの端に体を移動させる信之。

 すると、ベッドの中央部を占領する詩奏。

 『ヤバいよ~』

 心の中で叫ぶも、どうにもならず。

 空きベッドに移動しようとすると、詩奏が服を掴んでいる。

 そして、布団の中から顔を出して、

 「ダメ。 ここに居て」

と言う。

 「そんなにくっついていられると、ヤバいんですけど......」 

 小声で哀願する様に詩奏に言ったものの、

 「わかってるよ」

 明らかにイタズラ顔の詩奏。

 『さっき修行って言われたけど、こういうことか〜』

 もうどうにでもなれと思い、体の向きを直して寝ようとする。

 しかし、今度は詩奏が抱き着いて来てしまい、我慢の限界を完全に超えてしまったのであった。


 「シン、寝れないでしょ?」

 「うん」

 「でも、暫くこのままで居させて」

 「わかった」

 「私の我儘聞いてくれてありがとう」

 目を瞑っていると、唇に何か柔らかいものが触れる。

 「詩奏、今......」

 「シンが目を瞑っているから、見落とすんだよ」

 そう言うと、布団の中に潜ってしまう詩奏。

 結局シンには、詩奏が今、何をしたのか、確証が持てないまま、夜は更けていくのだった。


 ふと気付くと早朝になっていた。

 詩奏は結局、シンを抱き枕にしてずっと寝ていたようだ。

 爆睡状態の詩奏の腕をゆっくり外すと、信之はベッドから出る。

 緊張もあってか、喉の渇きをいつも以上に感じたので、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、ゴクゴクと飲む。

 その物音で起きた璃玖。

 璃玖も冷蔵庫のところにやって来て、同じ様にする。

 「シン君、寝れたかい?」

 「多分、寝れたと思います」

 「修行だったろ?」

 「もしかして、部長にも同じ様な出来事が?」

 「同じだよ」

 「シン君はまだいいよ。 彼氏的な立場だから。 俺はあの子の父親なんだから、本当にきつかったぞ。 ずっと抱き着かれたままっていうのは」

 「我が娘ながら、結構美人だろ? 出るところもそれなりに出ているし、小学生じゃなくて、もうほぼ大人の女性だからな」

 「彩陽が亡くなってからのあの子の辛さと寂しさ、自暴自棄になって嵌った最悪に近い出来事を考えると、そこから抜け出す為に必要なことを、あの子は自然と、そして真剣にやっているだけなんだよね」

 「それにしてもシン君、よく襲わなかったな。 そうなってもおかしくないよ」

 璃玖は、笑いながら信之の肩を叩き、自制心が勝ったことを褒めるのであった。

 

 すると、2人の会話で詩奏も目覚める。

 「2人共、早いね~。 まだ朝6時だよ」

 「折角、早起きしたから、散歩するか。 SP市内の観光名所を巡ろう」

 璃玖の提案に、全員が参戦する。

 「ちょっと、待ってね。 女の子は準備に時間が掛かるから」

 そう言って、洗面所で詩奏は準備を始める。

 とは言っても、まだ10代なので、5分程で準備完了。


 先ずは、地下道。

 雪の多いSP市内は、この地下道が非常に広くて長い。

 「お父さん、地下道凄いね~」

 足早に歩く人々が無表情ですれ違う。

 駅に向かうスーツケースを引いた人達が結構目につく。

 そして、SP市内最大の繁華街で地上に出る。

 「あの看板、有名だよね~。 写真撮ろうよ」

 某酒類企業の巨大看板が入るように、スマホでパシャリ。

 「次は、有名な建物に行くぞ」

 少し歩くと、ビルの間に、白い木造建築物が。

 TK台である。

 ここでも、3人で記念撮影。

 そこから少しホテルの方に戻ると、OD公園とTV塔。

 更には、HD道道庁舎を巡って、ホテルに戻る。


 「朝の散歩、気持ちイイネ。 プチ修学旅行みたいな案内、お父さんありがとう〜」

 「散歩気持ちイイと思うのなら、毎朝やろうか?」

 「学生が終わったらね」

 「現実には、難しいよな」

 「僕はやってますよ、毎朝では有りませんが、散歩」

 「へー。 ちょっと意外」

 「そうですかね~」

 「だって、シン、あんまり運動神経よくないでしょ?」

 「そんなこと無いですよ。 普通です」

 「じゃあ、私と一緒か〜」


 その後、朝食ブッフェに。

 「ここのホテルの朝食ブッフェは、人気有るんだよ」

 「出張族にも人気有りますよね?」

 「本当だ〜。 種類も多くて、味も良いね~」

 「ただ、SP駅前の再開発で、無くなっちゃうんだよ。 ここ」

 「そうなんだ~。 今回が最初で最後か〜。 じゃあ、スイーツ全制覇しておこうかな~」

 「あまり食べ過ぎるなよ。 今日の宿は夕朝食ブッフェだけど、もっと美味しいからな」

 「それなら、お昼抜きだね」


 チェックアウト後、3人は次の目的地、SK湖湖畔へ移動。

 少し早く着いたので、湖畔のベンチに座って、ぼーっと過ごす。

 「湖の水、綺麗だね」

 「この湖は、透明度が高いから」

 「あっちにある山、噴煙上がっているね~」

 「活火山だよ。 だから温泉があるんだぞ」

 「ちょっとお馬鹿な私でも、それぐらい知っているよ~」

 「詩奏は別にお馬鹿じゃないぞ。 色々あったから勉強が遅れているだけだろ?」

 「こういう風光明媚なところで、ぼーっと過ごしていると、嫌なこと忘れられるね」

 「シンも、そう思うでしょ?」

 「全くその通りですね。 風も気持ち良いし」

 チェックインの時間になったので、この日の宿に入る。


 「温泉露天風呂が付いてる〜。 水着持って来なかったよ~」

 「一緒に入るつもりか? 今回はそんなこと考えて無かったよ」

 「えー。 一人じゃつまらないじゃん、私。 2人は一緒に入れるから良いけど......」

 「仕方ない。 裸で一緒に入ろうか?」

 「詩奏は良いのだろうけど、男には事情があって、美女と一緒に温泉入るのは、ちょっと無理なんだよ~」

 「わかっているよ~」

 「大浴場も有るからな。 ここのお湯は無色透明なのに、少しドロっとしているのが特徴だよ」

 「へー。肌に良さそうな感じ?」

 「2人、先に入れば? ひと汗流してから、ゆっくり夕ご飯にしたいでしょ?」

 「そうするか、シン君」

 「そうしましょうか」


 部屋に付いている温泉露天風呂に入る2人。

 「絶対来ますよね?」

 「おっ、わかってきたね~」

 「だから、タオル持ってきています」

 「重要だよ。 無いと見られちゃうから」

 そんな会話をしていると、やはり現れた詩奏。

 しかも浴衣姿であった。

 やっぱりという顔をしている男2人。

 「記念撮影しようよ」

 詩奏は、そう言うと、スマホを固定して、湯船に浸かっている2人の間に来て、足だけ浸けて湯船の縁に詩奏が座り、3人でパシャリ。

 「じゃあね~ ごゆっくり〜」

と言いながら、部屋に戻って行った。

 「予想外に、アッサリ戻りましたね」

 「いや、絶対また来るから、油断するなよ」

 「......」


 しかし、その後詩奏は入って来なかったので、

 「僕、そろそろ出ます」

と言って、露天風呂から出て扉を開けると、詩奏が鏡に向かって座っていたのだ。

 「シン、お疲れ様〜」

 そう言いながら、詩奏は鏡の方を向いたまま。

 完全に油断していた信之。

 鏡越しに全てを見られてしまう。

 「詩奏さん、わざとでしょ?」

 そう言いながら、バスタオルを取って隠す。

 「バレた〜」

 「未来の旦那様になるかもしれない方の体を、今からチェックしておこうと思って」

 「とりあえず合格。 それ以上太らないように、体型管理に気をつけてね。 お邪魔しました〜」

 そう言って、部屋に戻って行った。


 「イタズラ好きだな~。 泣いて、笑って、怒って、歌って、拗ねて、清まして。 本当に面白い子」

 そんなことを考えながら、館内着に着替えた信之。

 後から出て来た璃玖に、

 「待ち伏せされたんだね」

と笑いながら、確認され、

 「今回は完璧に全部見られました。 でもこの間のゴルフの時の朝の出来事と比べれば、全然大したことないって思える様にもなりました」

 「詩奏は、寂しがり屋だから。 こんなこと、そのうち日常茶飯事になるさ」

 「それって......」

 「詩奏が望むんなら、直ぐにそうなっても俺は構わないって思っているよ」

 「近いうちに決めたいと思います」


 その後、入れ替わりに詩奏が温泉露天風呂に入る。

 楽しそうな鼻歌が聞こえて来る。

 男2人は、早くもビールを開けて飲み始め、

 「シン君が一緒に来てくれて良かったよ。 こういう時、独りになっちゃうと、妻の死を実感してしまうからな~」

 「なんだか非常に寂しいですね」

 「部長は、まだお若いから、新しい出逢いとか考えることは無いのですか?」

 「そりゃあ、非常に魅力的な女性が現れれば考えないことも無いさ」

 「でも、俺だっていい歳だし、そんなオジサンの前に、彩陽や詩奏を超える様な女性、そう簡単に現れると思うかい?」

 「思いません」

 「だろ? 詩奏はきっと、『ずっとお父さんと一緒に居る』って言うから、近い将来、詩奏の夫になる人との3人暮らしになると予測しているよ」

 「......」

 「そうだよな。 海野君」

 璃玖は、そう言うと、なんとも言えない嬉しそうな顔をして、信之が手に持っていたビールに、自分のビールを当てて、乾杯をするのであった。

 

 夕食は、ブッフェ。

 でも、この宿のブッフェは高級感が有り、HK道内の宿泊施設でも、かなり上位の人気を有する。

 「ここのは、ブッフェのレベル超えているね~」

 「デザートも、その場で作ってくれるし、大満足」

 詩奏は、そう言うと、デザート完全制覇を目指す。

 「詩奏。 あまり食べすぎて太ったら、シン君に嫌われるかもしれないぞ」

 「......」

 「じゃあ、ちょっと控えようかな」

 「......」

 「頼むから、俺をお祖父ちゃんにするのは、もう少し先にしてくれよ」

 赤面する詩奏と信之。

 璃玖の巧みな言葉のやり取りに、自分の本心を言わされてしまったことに気付いた詩奏であったが、もはや手遅れであった。

 「もう、食べまくってやる〜」


 夕食後、3人は大浴場へ。

 そして、男達は先に部屋に戻り、再び晩酌に。

 「イイお湯だった」

と言いながら、温泉満喫と館内散策を終えて詩奏が戻って来ると、既に晩酌は終盤に差し掛かっており、2人はかなり酔っ払っていた。

 泣いている男2人。

 『話題は、彩陽様のことだったんだろうな』

 そう思いながら、テーブル上の空き缶を片付けて、ツマミも明日の宿泊先で食べることを考えて仕舞い、ソファーに座る。

 すると、男2人が泣き崩れ、詩奏の方に寄りかかってきた。

 泣き続ける璃玖と信之。

 「2人共、どうしたの?」

 確認するも、何を言っているのかよくわからない。

 2人の頭を撫でながら暫くすると、酔い潰れて寝てしまった。

 『暫くしたら起こしてあげるか』

 そう思い、ソファーで潰れている2人に毛布を掛けてから、ベランダに出る。

 HK道の9月下旬の風は、少しヒンヤリして、間もなく本格的な紅葉シーズンに突入する予感を感じさせる。

 「色々辛いことが有ったけど、今の私は幸せだなあ~」

 部屋でくたばっている2人に感謝しながら、暫く夜風に当たる詩奏であった。


 翌朝。

 朝食ブッフェを食べる3人。

 しかし、男2人に元気が無い。

 飲み過ぎて酔い潰れたことを詩奏に怒られたのだ。

 「2人共、お酒強く無いのに飲み過ぎて......帰りの空港迄お酒禁止〜」

 起きるとキツくお灸をすえられる。

 「2人共、元気無さすぎ。 朝ごはんしっかり食べて、次の目的地に行くよ~」

 「おー」

 弱々しい返事に、

 「折角、美味しい朝食ブッフェなんだから、もうちょっと元気出してよ。 今晩、一本だけならお酒赦してあげるからさ〜」

 その言葉に元気が出た璃玖。

 「シン君。 詩奏が温情見せてくれたから、元気出そうか?」

 「はい」

 その後の様子を見ていると、演技に少し騙されたようである。

 「まっ、いっか」

 元気になった璃玖と信之をみつめる詩奏も、少し嬉しそうに見えた。


 特急列車でTY駅へ。

 ここから路線バスで20分。

 最終宿泊地TY湖湖畔に到着。

 到着後、遊覧船で中央部にあるN島へ。

 島内を見学して戻ると、ホテルのチェックインの時間に。

 

 部屋に入ると、TY湖が一面に広がる眺望に、

 「うわ〜。 凄い景色だね~」

 「ここも展望風呂付きの部屋なんだ〜」

 「ここは、本来2人用の客室だから、少し狭く感じるかもな」

 予約した璃玖が説明する。

 「最上階の温泉大露天風呂は、一面湖が見えて、爽快だよ」

 「ここも本来はブッフェの宿だけど、流石にブッフェ続きもなんだから、フレンチにしたからな」


 3人は、早速大浴場へ。

 TY湖が一面に広がる、屋上露天風呂は、いつ迄も入っていられる爽快さであった。

 最終日の夕食。

 フレンチ懐石のフルコースに舌鼓を打つ3人。 

 食べ終えて部屋に戻ると、期間限定で行われている湖上花火大会を部屋から観ることが出来た。

 「花火......綺麗」

 部屋を真っ黒にして観る3人。

 詩奏は真ん中に座り、璃玖とシンと手を繋いで、花火をみつめる。

 3人を照らす花火の淡い光。

 照らされる度に、3人の頬を伝う一筋の涙も輝くのであった......


 旅の最後の夜。

 3人は、キングサイズ2台がくっついたベッドで、川の字になって寝ることに。 

 「完全に寝落ちする迄、2人共、私の手を握っていなきゃダメだよ」

 詩奏がその様に指示する。

 「旅の最終日くらい、そういう時間を私持ちたい」

 「彩陽が亡くなって、私ずっと寂しかった。 璃玖もそうでしょ?」

 「でも今日はシンが居る。 もしかしたら新しい家族になる人が。 だから、今日ぐらい寝落ちする迄の僅かな時間、独りじゃない、誰かの存在を感じて、寂しさを少し忘れても良いと思うの」

 そう語る詩奏は、涙を滲ませながらも、非常に嬉しそうな顔をする。


 暫くすると、寝息が聞こえ始める。

 最初に寝落ちしたのは、詩奏だった。

 まだ起きている2人は、詩奏の頭を交互に優しく撫でて、詩奏が今夜見る夢が、今迄で一番の幸せなものであることを祈り続けるのであった......

 

 翌朝。

 一番早く起きたのは、詩奏であった。

 信之は、詩奏の手を握ったまま、詩奏の方を見ながら、横向きで寝ていた。

 『シン、ありがとう』

 そう心の中で呟く。

 璃玖は、相変わらずの寝相の悪さで、斜めに寝ている。

 詩奏が信之の手を強く握り直したところ、目を明ける。

 「もう、朝?ですか......」

 「うん。 これから一緒に部屋の展望風呂入らない?」

 「えっ」

 「ダメかな~」

 「......」


 結局、詩奏の押しに弱い信之は、一緒に入ることとなるのであった。

 先に湯船に入った信之。

 後から、詩奏が入って来た。

 緊張で固まってしまう。

 一瞬チラッと見てしまうのは、男のサガ。

 下はタオルで隠していたが、上半身は......

 直ぐに視線を窓外に向ける。

 横に入ってきて、並んで温泉を味わう2人。

 「緊張してる?」

 「うん」

 「私も」

 「もし、拒否反応出ちゃったらごめんね」

 「わかってる」

 「湖、綺麗だね。 折角のこの景色だもの。 やっぱり気になる人と一緒に見たいじゃない? しかも温泉入りながらだよ~。 本当に贅沢だよね」

 「それに安心して。 お父さんの許可貰っているから」

 「えっ」

 「旅の最後に、こうして一緒に入る許可貰っているの。 私の心の再建に必要だと思うから」

 「再建出来ないと、シンと一緒になれないでしょ?」


 静寂の中、景色を眺める。

 大きな鳥達が湖上を悠然と飛んでいる。

 そんな時間が続いてから詩奏が口を開いた。

 「もう一度確認してもイイかな? シンの気持ち。 本当に最後の確認だから」

 「いいよ」

 「お父さんから、ある程度聞いているとは思うけど」

 「うん」

 「私、お母さんと人生の目標の2つを失った空虚感を、男を作って埋めようとしてね」

 「結局、屑野郎に引っ掛かって。 そいつが借金まみれで」

 「その借金のカタにされちゃって、騙されて、アングラ組織がやっている金持ち用の乱交クラブに、性奴隷として売られちゃったの」

 「でも、お父さんが必死に私の居場所を探してくれて、助けてくれた」


『回想

  「詩奏、大丈夫か、詩奏......」

  「う......う......」

  「詩奏〜」

  「お、お父さん......何故ここに......」

  「い、痛い......」

  「何処が痛むんだ?」

  「せ、背中......」

  「この傷どうしたんだ?」

  「アイツに......スタンガン充てられて」

  「逃げようとした時に......」

  「アイツ等は?」

  「警察に逮捕されたよ。 安心しろ」

  「もしかして、お父さんが......?」

  「大学時代の同級生が頑張って事件化してくれた」

  「とにかく、間に合って良かった」

  (涙)

  「詩奏、すまなかった」

  「お前の辛さや寂しさに気付いてやれず......」

  「俺も彩陽を亡くした喪失感を忙しさで誤魔化そうと」

  「仕事ばかりに走ってしまって......」

  「結果的に、詩奏を放ったらかしに......」

  「そのせいで、こんな組織の性奴隷に......」

  「......」

  「全部イチからやり直そう」

  「お父さん」

  「たった2人しか居ない家族なんだから......」

  「本当にすまなかった......」』


 「心臓の弱いお母さんが、周囲の大反対を押し切って、命を賭けて産んでくれたのが、私なの」

 「そして、大切に大切に育ててくれて。 ずっと体調良くないのに、それを隠して、愛情の全てを注ぎ込んでくれた」

 「その大事な命を、私自身が、粗末に扱っちゃった。 本当に私って屑だよね」

 「シン。 本当にこんな私で良いの?」

 「私、穢れているんだよ。 それでもイイの?」


 涙を流し続ける詩奏。

 その涙を拭ってあげながら、

 「ありがとう。 辛い過去を話してくれて」

 「でも、それを聞いても、僕の気持ちは何も変わらない」

 「詩奏は穢れてなんかいないよ。 あんなに綺麗な歌声で聴いている人に涙をプレゼント出来る詩奏が、穢れている筈無いじゃないか?」

 「それに詩奏と、話をすればするほど、一緒に過ごせば過ごす程、ドンドン好きになっちゃう」

 「もう、この気持ちは止まらないんだ」

 「まだ早いとは思うけど、正式に交際してくれるなら、結婚したいと思ってる」

 

 「シン、ありがとう。 でも結婚は早過ぎるよ、まだ」

 詩奏は、泣きながらも嬉しそうに言う。

 「触られると倒れちゃうかもしれないから、見るだけね」

 そう告げると、湯船から立ち上がる。

 「ねえ、見て。 私、本当に穢れていない?」

 信之は、詩奏を見上げる。

 「綺麗だよ」

 「......」

 ジーっと見られたことで、急に恥ずかしくなってしまい、湯船に入る詩奏。

 暫く、無言の時が続く。


 「ちょっと大胆過ぎたかな、私」

 「うん、そう思う」

 「だよね」

 「でも、交際の可否は私の行動で返事したよ。 2日前に」

 「えー。 聞いてないと思うんだけど......」

 「誰かさんが、目瞑っているからイケないんだよ」

 「改めて、いま言ったからね」

 それ以上は、幾ら確認しても答えない詩奏であった。


 美味しい朝食ブッフェを頂いて、チェックアウト後、直ぐ近くのUS山等を観光してから、列車を乗り継いで、NewCS空港に戻った3人。


 帰りの機内で璃玖は信之に、

 「今回は、詩奏の為に本当に色々とありがとう。 詩奏から彼氏にするって聞いたよ。 普通の恋人同士の様な関係になるには、詩奏自身が克服しなければならない心の壁が幾つか有って、困難が続くけど、試行錯誤しながら、みんなで乗り越えて行こうな」  

 「はい」

 「もう、プロポーズもしたんだって? そっちは保留にしたって聞いたけど、早く保留じゃなくなるように、頑張って」

 それを聞いて、隣に座って映画を見ている詩奏の方を見るも、知らんぷりをされてしまう信之。

 「お恥ずかしい限りです」

 「良いんじゃないか。 俺も婿養子にするつもりだから」

 「そうなのですか? 先日詩奏さんが言ってましたが、冗談かと」

 「俺の方からの条件は、それのみかな?」

 オープンだとは聞いていたが、ここまでオープンな関係で、娘が父親に全部話をしているとは思ってもいなかった。


 HN田空港に帰着すると、教来石父娘とほぼ一緒に過ごし、信之の人生イチ充実だったシルバーウィークも終わりの時を迎えた。

 「じゃあね~、シン」

 「シン君、会社でな」

 「部長、明日からもよろしくお願いします」

 「詩奏......また遊びに行くから」

 「そんな悲しそうな顔しない。 そんなに離れるのが嫌なら、うちに引っ越してくれば良いんじゃない? 部屋空いているし、社会人なんだから、何処に住んだって家族も何も言わないでしょ?」

 詩奏はそう言い残すと、手を振りながら、璃玖の手を引いてリムジンバス乗り場へと去って行った。

 その姿を寂し気に見送る信之。

 しかし、いつまでもそんな気持ちで居る必要は無い。

 『そうだよ。一緒に住めば良いだけなのだから』

 詩奏の抱える心の問題を解消していく為にも、その方が良いと考えた信之は、もう結論を出していて、実家に帰宅していくのであった。

 

 「お父さん。 シン引っ越して来ると思う?」

 「今週末には、もう居るんじゃないかな」

 「俺もそうしたらって勧めたし」

 「そうなの?」

 「半年後には転勤だから、詩奏の為にも誰か一緒に居て貰える方が安心だよ。 最悪、璃子に頼もうと思っていたのだから」

 「璃子さんに頼むの嫌なんでしょ?」

 「苦手だからな。 でも、イザという時は非常に頼りになるのも事実なんだよ」

 「娘が男と一緒に暮らしても大丈夫なの?」

 「そりゃあ〜、なんだか取られちゃうみたいっていう気持ちも有るけど......」

 「でも今回は、俺が見つけてきて引き合わせた様なものだろ? だから納得しているよ。 彼ならってね」

 「詩奏も油断するなよ。 シン君自身が鈍感だから気付いて無いけど、社内の女性社員で彼を狙っている子、沢山居るからな」

 「やっぱり。 私がお父さんの会社に乗り込んでいって、シンと話している時は、沢山の視線感じたんだけど、気の所為じゃ無かったのね」

 「シン君よりカッコイイ男性社員は何人も居るけど、彼より優しい子はあまり居ないからな」


 帰宅すると、詩奏はピアノの練習をしてから、空き部屋の掃除を始めた。

 新たな家族を迎える準備として......



 翌朝。

 いつも通り、結唯と合流して学校に向かう。

 学校迄の徒歩の途中で深月と合流する。

 「おはよう、結唯、詩奏」

 「おはよう、深月」

 「詩奏。 金曜日に迎えに来た男の人、もしかして」

 「彼氏だよ」

 「えっ、やっぱりそうなの?」

 「その男性ひとって、先週日曜日にKW駅で一緒に居た人?」

 「そう。 週末、彼氏になった」

 「じゃあ、HK道旅行、一緒に行ったってこと?」

 「うん。 お父さんと3人で」

 「ってことは......」

 「私、男性恐怖症が有るから、直ぐにはそういう事出来ないよ」

 「原因は、結唯には話したけど......」

 深月にも簡単に説明してから、

 「ゆっくり治していくしか無いから......」

 「そっか〜。 それでお父さん公認なんだね」

 「相手は社会人だし、今後どうなるか、わからないよ」

 「ちゃんと勉強はするんだよ、詩奏」

 「浮かれて、疎かにしないようにね」

 「うん、それは大丈夫。 1年以上怠けて後悔しているから、ちゃんと勉強するよ」

 「青春も大事、でも勉強も大事ってね」

 「自分にそう言い聞かせて、日々小さな努力を怠らず」

 「そうだ、文化祭に向けて、練習しないと......」


 その様な会話をしながら、3人の高校生の時は、少しずつ大人へと流れて行く。

 特に詩奏にとって、その人生の大きな転換点は、此の様にして過ぎていったのであった。

 

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