おかあさんのたいせつなもの
公式企画「冬の童話祭2023」参加作品になります
ここ、どこ?
気がつくとわたしはまっくらやみの中にいた。
わぁって大きなこえを出したくてもこえは出ない
かえりたいって言いたくってもこえは出ない
こわい
こわい
動きたいけど動けない
なきたくなるのをがまんしながら
どうしようって思っていると
足もとに光が見えた
そこにまっくろいかたまりが見える
光は見えるのにくろいものはよく見えない
ぱたんって音がして
またまっくらやみになる
こわい
こわい
そう思ってたら
なにかにぎゅってされた
びっくりしたけどこえは出せない
こわい
こわい
まっくらやみなのも
ぎゅってされてるのも
よくわからなくてこわかった
こわい
こわい
そう思ってたら
すぐヨコでないてるこえがきこえた
あなたもこわいの?
そう思ったら
こわいきもちがどこかに行った
だいじょうぶだよ
きっとわたしのたいせつな人が
たすけにきてくれるから
きっとだいじょうぶだよ
ちょっとしたら
ないてるこえはきこえなくなって
ぎゅってされていたのもなくなって
またあしもとに光がみえて
そこにまっくろいかたまりが入っていくと
ぱたんって音がして
またまっくらやみになった
まっくらやみはこわいけど
ここがどこかわからないけど
はやくかえりたいって思うけど
わぁっておおきなこえ出したいけど
ないてるこえをきいたから
がんばらなきゃって思った
わたしは元気をあげなきゃいけないもの
そう思ったら
わたしの「おかあさん」のことを思い出した
△▼△▼△
「どれぐらい大きくなってるかしら」
わたしの「おかあさん」はそう言って
きれいなふくをきせてくれる
白いフリルのついたブラウス
黒のチェックの長いスカート
大きさを見ながら
ふくをぬいなおしてくれる
「あなたを見てよろこんでくれるかしら」
わたしも、よろこんでほしいなって思う
生まれてからずっと
「おかあさん」は話してくれてた
「おかあさん」のだいすきな人
「おかあさん」のたいせつな人
よろこんでくれるといいねって
わたしは心のなかで「おかあさん」に言った
△▼△▼△
「おかあさん」とおわかれをして
「おかあさん」の「だいすきな人」のおうちで
おせわになることになってから
わたしはとてもたいせつにされた
たくさんふくを作ってもらって
たくさんいっしょにあそんでもらって
「おかあさん」の「たいせつな人」とは
いつもいつもいっしょだった
「おかあさん」の「たいせつな人」は
わたしにとっても「たいせつな人」になった
その子のなまえはイブっていった
大きくなってからは
いっしょにいる時間もすくなくなったけど
会ったときにはたくさんお話をしてくれた
イブはわたしとあまり会えなくなるからって
きれいな「はこ」をわたしにくれた
ぎんいろにひかる小さな「はこ」
その「はこ」からは
わたしの大すきな「おかあさん」をかんじた
それからわたしはいつもいつも
「はこ」を見ながらすごしていた
イブはときどき会いにきてくれて
わたしをだきしめて
「おかあさん」の話をきかせてくれて
「はこ」をたいせつそうになでで
「いっしょにいてあげてね」
と言っていた
そういえば、わたしはそうやって「はこ」を見てたら
いきなりここにつれてこられたんだ
まっくらやみのこのばしょに
どれくらいまっくらやみの中にいたのか
外が見えないからわからなかったけど
つぎに光が見えたとき
わたしはまっくらやみからつれ出された
つれ出されるまえに
わたしはまたぎゅってされて
ないてるだれかが
「ごめんね」
って言ったのがきこえた
「元気になった?」
まっくらやみで何も見えないから
どんなかおをしてるかわからないけど
わたしはその子に心のなかでそう言った
「こえはしないのに
「だいすき」ってこえがきこえる
そんな気がする」
「おかあさん」のたいせつな人で
わたしにとってもたいせつな人「イブ」が
むかしそんなことを言っていたことを
わたしは思い出していた
わたしは明るいところにつれ出された
そのあいだわたしは
ずっとだれかにぎゅってだきしめられてた
明るいところに出てみると
その子はわたしのたいせつな人「イブ」だった
大きくなったたいせつな人が
また小さくなってしまったの?
そうしたらまた、いつでも会える?
イブを見上げながら
そんなことを思っていたら
わたしはイブごと
だれかにぎゅってされた
「さみしい思いをさせてごめんなさいね」
イブのあたまの上から
わたしのしってるイブのこえがした
大きくなってからのイブのこえ
「わたし、いらない子なのかと思ったの」
小さくなってしまったイブが
なきながら話してる
ないていたらちゃんとお話できないけれど
ないていたってわたしにはわかるよ
だってわたしはないてるイブともいっぱいお話してきたから
もちろんわらってるイブとはもっといっぱい!
そっか、イブは
小さくなったんじゃなかったんだね
イブはやっぱり大きいままで
この子はイブににてるべつの子なんだね
またいつでもいっしょかもと思ったから
それはすこしだけさみしいことだった
「そんなことないわ
いつも、いつだってあなたがいちばん大すきよ」
「パパは?」
「……パパもいちばん」
「ずるい」
「だって、二人のすきはべつだもの」
ふふっ、てイブのわらうこえがする
わたしは?
わたしはいちばんじゃないの?
「わたし、ママにいらない子って思われてるって思ったの
あんまりあそんでくれないし
いつもおこってばかりだし
むかしはいっしょにねてくれたのに
いまは一人でねろって言うし
だから、ママなんかきらいって思って、
ママをこまらせたくて、
ママのたいせつにしてるぬいぐるみをかくしたの
ごめんなさい」
「そう」
ぎゅってされる力がつよくなった
ねぇ、まって、わたし、なかみ出ちゃう
「あなたにすてきなおとなになってほしくて
わたしがすこしがんばりすぎたのね」
「ママはわたしがきらいじゃない?」
「なんどでも言うわ。わたしはあなたがいちばん大すきよ」
……わたしはもういらない子なの?
わたしの中でなにかがきゅってなる
わたしよりずっとすきなものができたんだね
それはきっといいことだよね
「おかあさん」とおわかれしたときみたいに
イブともいつかはおわかれをする
わかってたことだよね
みんな大きくなっていくから
みんなかわっていくから
かわらないままのわたしとちがって
いつまでもそのままのわたしとちがって
ぎゅっとされていたイブのからだがはなれて
きゅうにからだがふわっとなる
「あなたがかわりにいっしょにいてくれたのね」
ふわっとなったのは
イブがわたしのからだを持ち上げたからだった
イブがわたしをぎゅっとだきしめる
わたしだけをぎゅっとだきしめてくれる
わたしもいらない子じゃないの?
いちばん大すきじゃなくてもいいよ
でも、いっしょにいてもいいなら
いっしょにいたいよ
「あなたはいつもたすけてくれるのね」
そっとアタマをなでられる
アタマをなでてもらったり
セナカをなでてもらったり
ぎゅっとされたり
たいせつに思われてること
つたわってくるからうれしいの
「あなたがもうすこしおおきくなったら
この子のこともお話しなくちゃね」
わたしのアタマをなでながら
イブが小さなイブにお話をしてる
「わたしにはね
おかあさんが二人いるの
あなたも知ってるおばあちゃんと
あなたの知らないおばあちゃん」
イブはわたしをわきにかかえると
小さなイブごとぎゅってした
「わたしを生んでくれたおかあさんで
この子を生んでくれた「おかあさん」
わたしがあなたを大すきなように
わたしを大すきと言ってくれたおかあさん」
イブのやさしいこえが
わたしのからだをあたたかくする
わたしもいつもたすけられてたよ
さみしくないように
「おかあさん」の「はこ」といっしょに
しまっておいてくれたから
ねぇ、イブ
もしもお話するときは
わたしにも「おかあさん」の話
ちゃんときかせてね
だってイブのおかあさんは
私にとっても「おかあさん」だから
「イブと銀の小さな箱」の後日譚になります。
https://ncode.syosetu.com/n8402hv/