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犠牲者  作者: 内藤晴人
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序 接触

 窓の外には無数の光が瞬いている。

 月並みな表現で言えば、宝石箱をひっくり返したというのがしっくりくる。

 その様子にしばし視線を向けてから、彼女は深々とため息をつき頭を揺らした。

 

 彼女が住むのは、テラの衛星ルナにそびえ立つ高層マンションの一室である。

 そんな一見恵まれた環境で暮らす彼女だが、実際には極めて窮屈な生活を余儀なくされていた。

 外出時には尾行がつき、送られてくる手紙の類いにはチェックが入る。

 そして、部屋の前には二十四時間警護という名の監視の目が光る。

 そんな境遇に置かれるようになったきっかけは、彼女が惑連に研究員として勤務していた頃にさかのぼる。

 神の領域を犯しかねない最先端の研究。

 今や公然の秘密となっている、惑連宇宙軍特務を形成する人工生命体、通称『doll』。

 その初期開発メンバーに、彼女は名を連ねていた。

 彼女は意見の相違から辞表を叩きつけ逃げるように惑連を後にしたのだが、その直後から惑連に監視されるようになった。

 それはテラを離れ、生まれ故郷であるルナに戻っても変わることはなかった。

 彼女の触れてしまった機密は、微妙かつ複雑な問題を孕んでおり、それが彼女の口から外部に漏れるのを惑連が恐れたのだ。

 

 数年前始めた診療所勤めを辞め、惑連に戻ってしまえばこの境遇から開放されるのだろうか?

 

 だが、彼女はその考えを頭から振り落とした。

 一人でも多くの患者を救うのは、彼女にできるせめてもの罪滅ぼしである。

 そして、悪魔に取り憑かれてしまったような笑みを浮かべるかつての同僚の顔が、脳裏に浮かんで消える。

 理性という糸が切れてしまったら、自分もあのようになってしまうのかもしれない。

 その恐怖は常に彼女をとらえて放さなかった。

 

 そんな時、室内に電子音が鳴り響いた。

 机上に置かれた端末機にメッセージが着信したことを告げるランプが点滅している。

 

 一体誰だろうか。

 

 惑連入局時の同期とは、すでに連絡が途絶えて久しい。

 大学の同窓会も、先日断ったばっかりだ。

 疑問に思いながら彼女は机に向かい、キーボードを操作した。

 表示された差出人には、見覚えがない。

 首をかしげながら彼女はメッセージを開く。

 画面に表示されたのは、ただ一文。

 

──助けてくれ。third──

 

 青ざめた顔に固い表情を浮かべ彼女は立ち上がる。

 

 まさかそんなことがあるはずがない。

『彼』はもう死んだはずだ。

 けれど……。

 

 一瞬ためらった後、彼女は玄関へと走る。

 

 表に貼りついているはずの惑連のMPに報告しなければ。

 

 勢いよく扉を開いてから、彼女は思わず短く悲鳴を上げた。

 目に飛び込んできたのは、腹や胸から血を流して倒れ伏す男達。

 それは言うまでもなく入口に張り付いていたMPである。

 すでにこと切れているのは、一見するだけでわかる。

 思いもかけない光景に、息を飲み込みよろめく彼女。

 その時、薄暗い中に見たことのない男が薄笑いを浮かべ立っていることに気が付いた。

 言葉もなく立ち尽くす彼女に、男は笑みを崩すことなく言った。

 

「先生、はじめまして。その様子だと、サードのメッセージを受け取ったようですね」

 

「あ……あなたは一体……」

 

「説明は後々ゆっくりと。とりあえず一緒に来てもらいましょうか」

 

 それは提案ではなく命令だった。

 果たして彼女には、突然の出来事を受け止めるしか道はなかった。

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