未来ケシゴム
僕は、色んな人を守る警察官になりたい。
大人になってからどんな職業に就きたいかなんて考えてなかった僕がそう思ったのはこのケシゴムのお陰なんだ。
***
「なりたい職業…なりたい職業~。」
呪文のように唱えながら僕は学校から家への帰り道を歩いていた。
『なりたい職業は?』という作文の宿題がでて明後日には提出しないといけない。
「…そんなの特にないんだよなぁ。」
ぶつくさ呟きトボトボと足を動かしながら歩いていたらあっという間に家についた。
手を洗い自分の部屋に行き真っ白なノートを見つめ僕は考えた。
…今僕は6年生…しかも三学期…もうすぐ中学生になる。大人になったらどうしたいかなんとなくでも考えなくちゃいけないのは分かっている。
…
…でもやっぱり思いつかない。
ふと、そういえばケシゴムがもう無かったっけと思い机の引き出しを開けると運の良い事に1つだけあった。
「良かった。ん?なんだ?これ?」
よく見てみると真ん中に穴があいている。
なんだかちょっと気になったのでその穴を覗いてみた。
…すると
…その小さな穴の先にはお母さんが居た。
「え??これ何?」
僕は驚いた。お母さんは今働いてる時間で家には居ないし何よりこのケシゴムの穴から見えているなんて… そんな僕に向かって中のお母さんが話しかけてきた。
『今日はね、ちょっと会社で打ち合わせがあって遅くなっちゃったのよ。ごめんね、そうそう夕御飯オムレツなんだけどお手伝いしてくれる?』
僕はびっくりして思わずケシゴムを落としてしまった!
恐る恐る拾い上げたけどもうそこにさっき見えたお母さんの姿は無かった。
「な…なんだったんだろう?」
それから暫くしてドアの開く音と「ただいま~」という声がした。
お母さんが帰ってきたのだろう。洗面所で水を使う音が止まると僕の部屋がコンコンっとノックされた。
「どうぞ~」
僕が答えるとお母さんが部屋に入ってきた。
「今日はね、ちょっと会社で打ち合わせがあって遅くなっちゃったのよ。ごめんね、そうそう夕御飯オムレツなんだけどお手伝いしてくれる?」
…驚きのあまり声が出なかった。
同じだ。あの時見て聞いたのと…ケシゴムの穴から見えたのと…同じ…
「ねぇ、ちょっと聞いてるの?」
お母さんに言われ僕ははっと我にかえった。
「う、うん!勿論手伝うよ。けど机の上を片付けるから待ってて。」
お母さんはニッコリ笑い部屋から出ていった。
僕はあのケシゴムに目を向けた。
「もしかしてこれは未来が見えるケシゴムだったりして…」
ケシゴムを筆箱にいれ机の上を片付けている内に先ほどまでの少し怖い気持ちはいつの間にかなくなっていた。逆に今は少しワクワクした思いを胸に抱き僕は台所へ向かった。
**
このケシゴムを見つけ二週間程たった。
僕はあの後まず何に使えるかを考えてみた。未来が見えるのだからやろうと思えばテストの問題を知れたり誰かにイタズラだってできる…って思ったけれどやっぱりそれはいけない事だって分かっているから気がひけて代わりにお母さんがいつ帰ってくるか何をしようとしてるのかを先見して準備をしておいたりお父さんが「疲れたなぁ…」という姿が見えたら肩もみしてあげたり、学校で困っている人が見えたら先回りして手助けしたりと些細だけど誰かの助けになる事に使っていた。なぜかって『ありがとう』と言われると相手も僕も笑顔になれるのが嬉しかったからだ。
今日は学校だってのに朝から雨。大好きな体育のサッカーもなくなってしまったのでなんとなく憂鬱な気分に浸りながら下校時刻を迎えた。
学校を出ると雨はすっかり止んでいたので傘を片手に帰り道を歩いていた。すると根元が腐り今日の雨で益々倒れそうになっている木が目についた。
なんとなく嫌な予感がしたので僕はケシゴムを出し穴を覗いてみた。
するとそこには恐ろしい光景があった。
小学1年生位だろうか。ランドセルをしょった小さな女の子が1人走ってくる、ちょうど木の側にきたその時ミシミシと鈍い音をたて女の子目掛けて倒れていく。驚いて動けないその子はそのまま下敷きに…
恐ろしくてバッとケシゴムの穴から目を離すと今まさにその女の子が走ってくる所だった!
見えた未来の通り木はミシミシと音をたて…
「あぶないっ!!」
僕は一目散に女の子の所へ駆け出していた。
このままじゃ僕のみた未来と同じになってしまう。
そんなの嫌だ!助けたい!助けたい!助けたい!
傘を放り出し一生懸命足を動かした。
ドッッーーーンッ!!
とてつもなく大きな音をたて木は倒れた。
僕はしっかりと女の子をかかえている。
「やった…助けた…助けれた…」
僕が小さく呟くと急いで此方に駆け寄ってくる女の人が見えた。
「あっちゃん!!」
きっとこの子のお母さんだろう。目はうっすら涙を浮かべ声を震わせている。
「おかぁさぁーん!!」
女の子はワンワン泣きながら言った。
「良かった…もうダメでしょ。なんで勝手に走っていくの!」
ホッとしたように声をかけると女の人は僕を見て言った。
「ありがとうございます…本当に…ありがとうございます!」
女の子も続けて
「お兄ちゃん!ありがとうございます。」
と、すすり泣きながら言った。
「そんな…いいんですよ。大丈夫、無事で良かったです。」
二人を見送った後僕は傘を持ち直しランドセルをしっかりしょって思った。
…
『僕は警察官になりたい』
色んな人を守るかっこいい警察官に。
空を見上げると綺麗な虹がかかっていた。
短編二作目です。
此方も昼休みに考えました。