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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

積もる、募る。

掲載日:2021/08/27

このお話はフィクションです。

 ああ、また今日も仕事でミスをした。


 その人は声を荒らげる。


 大きく威圧的な声。

 心臓が鷲掴みにされるような錯覚。

 心拍数が上がる。

 説明しなければ。

 声がうわずったりしないだろうか。

 以前、くどいと吐き捨てられたことがあるので、シンプルに。


 その人は、自分にミスはないと主張する。


 確かに、その人のミスではなかった。

 むしろ、ちゃんとチェックをしたことは感謝してもいい部分。


 結局は、私の認識の違い。


 必要なのは、『今』の情報。


 私があげたのは、『最終的』な情報。

 それは『今』必要ではなく。


 結局は、私のミス。


 だから、叱責されることはまあ仕方がない。


 どんくさい私。

 ずれた返事をしてしまう私。


 信用も評価も、地を這うアリかイモムシか。




 ……だからといって、そんな言い方はないんじゃない?




『お前頭おかしいんじゃないか!?』




 素知らぬ顔で謝罪して、訂正して、直しましたと再提出。

 お願いしますもセットで。






 ああ、また今日もミスをした。




 ミスをするのはどうしてか?


 仕事に集中してないからだと言われたことがある。


 やはりそれは、私が悪いのだと思う。




 ……だからといって、気分と機嫌で言うことが変わるその人に、他の人のことを『頭がおかしい』などと言う資格はあるのかな?






 どんくさい私。

 よくミスをする私。


 一緒に仕事をしたら、ストレスがたまるのは理解ができる。

 私がそうだから。


 その人の顔を見たくない。

 その人の声を聞きたくない。

 その人と同じ部屋の空気を吸いたくない。

 その人と一緒に仕事をしたくない。

 その人に頭を下げて仕事を頼みたくない。


 いなくなればいい。

 消えてなくなればいい。


 きっとその人も、同じことを考えている。


 私がいなくなればいいと。

 私が消えてなくなればいいと。


 きっとその人も、そう思っている。






 口下手な私。

 あらかじめ言いたいこと、言うべきことを整理してから発言することが苦手な私。


 怒鳴られると萎縮して、声がうわずる私。

 どもって何度も言い直す私。

 とっさに真逆のことを言い出す私。

 説明しようとして、言葉が上手く出てこない時のある私。


 素知らぬ顔でごめんなさい。

 へらりと笑ってすいません。


 状況を説明しようとして口を開けば、くどいぞ手前と一喝。


 結局、すみませんと頭を下げる。




『反省してんのか? そのツラ、バカにされてる気分だ!』



 そんなことはないです。すみませんと、嵐が過ぎ去るのを待つ。




 あまり私が悪くないことでも、私が悪いということになれば、ことはスムーズに進む。



 他の人のミスを失敗を、私が悪いということにしておけば、ことはスムーズに進む。




 そんなことを何度も繰り返すうち、色々諦めるようになった。


 日本語が通じていても、会話が成立しない人がいる。




 俺が正しいのだから、お前は間違っている。

 (こうべ)を垂れて這いつくばえ。

 謝罪以外は認めない。



 そんな言葉が透けて見えるような態度。


 最初から一切話を聞く気がない態度。


 上の立場から、私の言葉に被せてくる。


 言うことを聞けと。




 話を聞いてくれない人がいることを知り、会話を諦めるようになった。






 仕事のことがよく分からないから人に聞いた。


 何回聞いても分からないからまた聞いた。


 失敗してはいけないからと、念のためまた聞いた。




 少しは自分で考えろ! と怒鳴られた。




 なら、と、自分で考えて行動してみた。




 お前の考えのどこが正しい? と言われた。

 何を根拠に? と。




 どうすればいいのか分からなくなった。






 未経験の仕事を任された。


 他の人は、それぞれ得意分野がある。


 それを軸に、仕事を割り振った。


 とはいえ、仕事の進め方は個人々々で違う考えがあった。


 Aの人のプランとBの人のプランとCの人のプランと、全部違った。


 どのプランも、誰にとってやりやすいかという違いしかなかった。


 結局、一番大きな仕事を担当する人のプランを採用した。


 あっちにいけば、あの人から愚痴が。

 こっちにいけば、この人から愚痴が。


 一人でできる仕事ではないので、なだめすかして頭を下げる。




 私の方が立場は上なので、私の言うことを聞いてください。


 言ったら最後のこの言葉を、飲み込んで。






 積もる。募る。


 また今日も、見えない傷が増えていく。


 時間と共に薄くなっても、決して消えない傷が。




 ああ、また今日もミスをした。


 たぶんそれは、きっと私が悪い。


 今日はあの人がミスをした。


 たぶんそれは、きっと私が悪い。



 立場というものは、そういうもの。



 私が悪ければ、誰かの気が済んで。


 私が悪ければ、誰かの仕事が捗って。



 そうやって今日も増えていく。


 見えない傷が増えていく。


 積もる。募る。



 このお話はフィクションです。


 誰の共感も得られないことを望みます。


 もし、共感が得られたとしたら、それは。


 それは、あなたが、このお話の『私』より深刻な状況だと思うから。



 どうか、傷ついた心に安らぎを。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 『俺が俺が』という言葉がある。 まさにそれを具体的に示した作品ですね。 会話が成立しない人物、というのは往々にして八つ当たりに近い言動を発します。ミスは叱責してもミスのまま、フォローとそ…
[一言] 聞け 自分で考えろ ミスをするな 正しい情報を教えろ 何で間違える 言ってくる相手もイライラしているのでしょう でも、その言葉が相手をどうしているかは考えていないのでしょう 「日本人は思…
[良い点] 「ミスをするのはどうしてか?  仕事に集中してないからだと言われたことがある。」 『お前頭おかしいんじゃないか!?』 私が最初に配属された部署の上司がこのような事を言う人でした。 今思えば…
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