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賢者の息子に転生したけど魔法が使えない件  作者: 天空 宮
第六章 獣王国救援編 ~獣王国にて始動するヴァルブレイブ家~
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第92話 話の通じない訓練隊長

 レネイさんの屋敷に戻ると、起き抜けのアインスとツヴァイが夢うつつに僕の腕を掴んできた。

 ずっと食卓で待っていたらしい。ツヴァイは、置いてかれたのがよほど嫌だったのか拗ねたようで顔を合わせてはくれなかった。


「遅いわよ、冷めてしまうでしょう。一体今まで何をしてたんだか」

「あはは……ちょっとね」

「なんか女の匂いがするだけど!?」

「なんですって!!?」

「ねえ七光りくん? どこで何をしていたのかしら、教えてくれるまでわたしの部屋に監禁するわよ?」


 獣人族はやっぱり鼻がいいのか!? 嫌に怖い……。


「ちょっと散歩してただけだよ。そしたらエクサさんが来て……」

「ああ……あの戦闘狂か」

「え、昨日の七魔師ヘプタマゴス!? なんでまた……」

「どうせカエデの力の秘密でも探りに来たんでしょ。学院に居た時、わたしも偶に標的にされていたわ。あの人にされたことはないけれどね。

 気を付けなさい。あの人達は、強いだけでなく悪魔のように他を弄ぶことに特化している人種よ。アンタが一番危ないんだから、十分注意を払って隙を見せないことね!」

「う、うん……」


 他を弄ぶことに特化しているのは否定しないけど。リアスさんがそういう感じだし。

 でも、エクサさんはそういう感じで来たんじゃなかった。僕の何かに惹きつけられたみたいだったけど、それを話して不安を煽るのは良くない気がする。皆が一番僕の近くにいるんだから。


「なに? 他に何かあったのかしら?」

「なんでもないよ。さっ、今日は朝食を済ませたら獣王国所有の軍事基地の方へ行くよ! 戦闘になったらまず間違いなく一緒に戦う人達になるんだからね!」

「え、ええ……」


 ミラは気付きつつあるかもしれない。まだ定かではないだろうけど、僕の異変に気付くのが早いのが姉弟だから仕方が無い。



◇◇◇



 獣王国軍事基地――。



 今回も前回同様双子達はお留守番。だけど、ソフィアさんとプニーは蠍が攻めてくる話をしたら付いて来るということになった。

 軍事基地は高い塀に囲まれており、入り口も一つだけ。外からは中に何があるのか全く見当のつかない四角い建物だ。

 外界から遮断された中では兵士達がいつもの訓練の如く鬼気迫った様子でジョギングしていた。特に獣型獣ビーストケモノの面立ちは怖いくらいだ。

 そんな軍事基地にリアスさんの伝手もあってなんとか基地に入ることができたのだが――


「帰りたまえ」


 基地で訓練を指導していたライオンの顔をした獣型獣ビーストケモノ。威厳のある威圧感を放ってきている。


「この度城に書き出された警告は知っているはずです。協力する身として共闘する味方の能力を知っておいて――」

「くどい!」


 丁寧にファーノイアさんが説得しようとしているが、相手は聞き耳を持ってくれない。この繰り返しだ。


「取り合ってくれないわね。わたしもこの人がどれほどの地位かは知らないけれど、少なくとも気品の会場には出ていなかったわ」

「これじゃあなにを言っても意味がないね……」


 さてどうしたものか……。異能を使って無理矢理通してもらうこともできるけど、あれはそんなに使ったことがないものだからボロが出かねないしな。できれば穏便な方法で通過したい。


「人族なんぞに見せるものは何も無い! 即刻敷地から出て行ってくれ!!」

「少々よろしいでしょうか、訓練隊長様」


 僕の後ろにいたはずのソフィアさんがいつの間にかファーノイアさんの隣に出ていた。

 なんでソフィアさん!!?

 慌てて戻そうと思ったが、プニーに引っ張られてそれができない。


「なんで止めるの!?」

「まあ見ててやんなよ、あいつああ見えて――というかあのまんま一国の王女なんだ。こういう時は場数踏んでるソフィアに任せなよ」

「…………えっと……」


 確かにそうかもしれないけど、王女という重々しい立場の子をこんな場所に引っ張って来ていいのだろうか。


「任せましょう」

「お手並み拝見ってことね!」


 ミラにレネイさんまで任せる気満々だ。ミラは判らないけど、レネイさんはこういう所はやる気ないんだろうな……。

 でもソフィアさん、一体どうするつもりなんだ……?


「わたしはソフィア・L・ラドクリフと申します」

「誰が出てこようが、これ以上の散策はやめて頂こうか。そちらが誰にそそのかされてここへ入れたのか知らないが、ここは兵士にとっての聖地でもある! 部外者に立ち入って欲しい場所ではない!」

「……そうですよね。本来ここ獣王国軍事基地エルドラドは、並々ならぬ試練を乗り越えて合格なされた兵士の方々のみが入ることを許可されている場所。たとえ国の重鎮といえど、獣王国総司令部総隊長の許可がなければ見学さえすることが敵わないらしいですね?」

「……その通りだ、よくわかっているではないか」

「ですが、わたし達が許可を頂いたのはその総隊長なのです。わたし達が何もせず、何も見ず、また何も収獲がなかったことを総隊長殿に伝えてしまったら、それはそれは悲しむことでしょう」

「ぐ……」


 そ、ソフィアさんが怖い……!?


「しかし、貴方様のおっしゃりたいことも重々承知しております。現在の状況で軍事基地に余所者を入れるなど愚の骨頂、もっと警戒を強化するべきだとお思いなのでしょう」

「そ、その通りだ! 我々は外部に一切の情報を漏らさぬよう寮生活を行い、外部との接触もおおむね遮断させて貰っている! これは外部、つまりは他種族との戦争も考慮しつつ内戦への抑止力ともする為である!!

 なのにだ、そこを獣人族ならまだしも人族など……決してあってはならない事だ!!」

「では、こういうのはどうでしょうか? 軍人なら、この言葉をご存じのはず。

 ――大儀の前に力を見よ、さすれば人心のさち。互いに力を見せ合うことで大儀以上の幸福を得られるという教訓です。それにあやかり、互いに手合わせをしてみるのです!」

「はっ! バカバカしい!」

「力に自信がおありなのでしょう? なにせここには長く苦しい試練を勝ち抜いた才能しかいないのですから。

 それに、この度戦うのは――あそこにいる一見なんてことのない成り立ての冒険者です」


 …………え、僕!?


「人族との戦闘を前に獣人は引くことなどないと、わたしは思っているのですが――そんな敵戦逃亡、訓練隊長ならばむしろ打って出るのでは?」

「…………いいだろう! あんなひよっこ、子供を撫でるようにして終わらせるだけだ!」

「よろしいのですか、隊長!?」

「フン、どう見ても強そうではない。いくら軍戦隊長が不在といえど、あのような華奢な人族に後れを取る訳がない!

 手合わせをすれば帰るのだな、お嬢さん!?」

「そちらが勝てば引きましょう。ですが、こちらが勝てば少しの願いを聞いてくださいませ」

「フン!」


 訓練隊長らしいライオンさんは、焦燥を煽られたように強靭な筋肉を強張らせて学校の校庭のように広々としたグラウンドへと進んだ。

 怖かったけど、なんとか話は進んだようだ。それにしてもソフィアさんってあんなにしたたかだったんだ。意外な一面を見れたな。


「というわけでゼクト様、後をお願いしてもよろしいでしょうか?」

「ちょっとムカつくけれど、王女様のご指名なら仕方ないわね。カエデ、今回だけは譲ってあげるわ! ちゃっちゃと終わらせてきなさい」

「わたしあの獣人にイライラさせられたの! 絶対勝ちなさいよ!」


 なんでかんでこの二人、結構息があっているんじゃないか?

 でも――そんな激励も今では背中を押されているみたいで、嫌じゃないよ。


「やっとゼクトの本気が見られるのか! あたしがちゃんと見てるから、ちょーっと手加減してもらえると嬉しいんだけど!」

「あはは……」


 いや、それは相手によるな〰〰。


「ゼクト様、あまりご無理はせず怪我のないようにしていただければ幸いでございます」

「もう……ファーノイアさんまでそんな言い方」

「私が仕えてきた主君は、今も昔もこういう時に絶対に負けないお方ですから」


 ……これは、また負けられない理由ができたね。


 隊長さんの後を追おうとすると、ふとソフィアさんの長い丈のスカートの下に覗き見える脚が震えているのに気が付いた。

 もしかしたら無理をさせていたのかもしれない。彼女もここに来た以上、なにか役に立ちたいと思ったのだとしたら。嫌な役回りをさせてしまった。


「ソフィアさん、ありがとう。おかげでチャンスを貰えたよ」

「いえ……わたしはゼクト様を頼らなければいけなかった。もしかしたら、別の人だったら一人で最善策を見つけられたかもしれません」

「ううん、僕は頼ってくれたことの方が嬉しいからこれでいいんだ。だから――勝ってくるから!」


 僕も大人になった。女性と話すことさえおっくうだったのに、今ではこうしてこんな気障な科白さえ戸惑うことがない。

 もしかしたら興奮しているのかも。すぐそこには父さんの仇がいて、後ろには頼りになる仲間がいて、もう二度と負けないって自信が溢れてくる……!!



 隊長さんは、2メートル以上もの上背で僕を睨み付けてきた。上着を脱いだらしく、ライオンの毛深い上半身を露わとしている。威嚇しているつもりなのだろうか。


「七光りくん! 負けたらわたしと結婚だからね――!」


 え、レネイさん!? なんで!?


「あ、でも勝ったらかっこいいから勝っても結婚してあげる――!」


 逃げ道がない……!? 


「カエデ、こんな所で負けるようなら帰って貰うからね」


 ……了解ミラ。


「黄色い声援というやつか。貴様なんぞに期待するなど無駄だと思うがな!」

「僕もその期待を裏切りたくないので、精一杯やらせてもらうだけですよ」

「フハハハハハ! 恨むのならあの少女を恨むのだな、貴様のような矮小な人族チビが俺に勝てるわけがないだろう!!」

「え? どうして?」

「異なことを言う。まさか勝てると思っている訳ではあるまい?」

「勝つけど……? もしかして、ソフィアさんが負けを見越して僕を出したと思っているの? それこそ異なことだよ」

「ハッ! ガキの分際でこの俺に意見する気か!?」


 リアスさんの言っていたことがよくわかった。これじゃあ話にならないどころか、共闘しても頼りにならないかもしれない。


「気に入らない人族が! さっさと開始のゴングを鳴らせ! この俺が世の常識を教えてやる……どの種族が最強の種族かをな!!」

「そうやって種族の違いを理由にしているから、あなたには先がないんだ……!」

「なにィ!!」


 隊長の顔色が憤怒に燃え上がった瞬間、審判に立った獣人より開始の合図が発令された。

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