表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
賢者の息子に転生したけど魔法が使えない件  作者: 天空 宮
第一章 異世界転生編 ~異世界転生にて幼い僕~
9/99

第7話 双子を世話するエレンさん

 自分に妹ができたと思えば少し寒気を感じるが――娘ができたと思えばなんてことはなく、むしろ可愛く見える。

 そんな可愛らしい双子がやってきてから家の中が少し明るくなった気がする。

 姉さんも双子の前ではデレデレだ。

 それを僕が見ているのに気が付くと、急に顔を赤くして去って行く。普通に可愛がればいいのに。

 もちろん母さんも父さんもデレデレである。

 また、気を遣っているのか母さんはその後に僕の事も抱きしめてくる。そこまで気を遣わなくていいのに。

 その時は、まだあの胸は慣れなく、逃げたいという願望が顔を出してくるのだが。


 双子は、流石に僕に全面的に任せることはできないらしく、エレンさんの部屋で寝ている。

 それで朝、双子の様子を見に行くと――エレンさんが着替え中で下着姿を見てしまっうというハプニングがあったり…………あれは本当に申し訳なかった。

 エレンさんには着替え終わってからすぐに謝ったが、僕も女性ということに関して気が抜けているかもしれない。


 エレンさん曰く、世話のし甲斐があるのは、圧倒的にアインスらしい。

 当然だ。まずアインスは、じっとしていない。元気が有り余るように動き続け、着替えだって一向にさせてくれない、らしい。

 アインスは、僕に限り着替えさせる時はじっとしていて、言う事も聞く。

 それで毎回エレンさんにどうしているのか聞かれるのだが……特段何かをしているわけではないのでアドバイスも何も出てこない。アインスはそういう意味で不思議な子だ。


 逆にツヴァイは、大人しさの塊だ。

 僕だけでなく、エレンさんの言う事も聞く。

 アインスがスポーツカーとすれば、ツヴァイは原付バイク。ごはんを食べるのも遅く、アインスがボールとかで遊ぶのにツヴァイはぼーっとしているだけ。いつの間にか寝ている始末だ。

 ただ、僕が近くで本を読むときだけは近づいて来て僕と本の間に座り、体を預けてくる。

 こっちは本当に不思議な子だ。ただ、面倒なことがない為、エレンさんはツヴァイの方が楽でいいという。





 エレンは、16歳という若さにして【賢者】の近衛執事を努めるファーノイア・ブラフストに弟子入りした。

 元は、公国近くにある山で山賊狩りを主な仕事とする冒険者のパーティに所属していたが、とある山賊狩りの途中でパーティが罠に嵌められて逆に囚われてしまう。

 エレンは若く、容姿も綺麗で珍しいハーフエルフだということから、山賊達に奉仕をさせられそうになってしまうが、

 そこへゼクトの命で伝達を頼まれ赴いた公国から帰る折り、ヴァルブレイヴ家の夕食の為に山菜を取ろうと山へ入っていたファーノイアが現れ、山賊全員をものの数秒で瞬殺してくれ、その腕前に惚れたという。


 数日後、街で再会したファーノイアに弟子入りを志願し、そこで初めてファーノイアが近衛執事だということを知ったが、住み込みになろうとも改めて弟子入りを願い出た。

 エレン自身、両親と死に別れ、身よりがなかった為に住処を変えるのには抵抗がなく、住み込みで鍛えてもらえる環境というのは逆に魅力だった。

 執事としての仕事は、最初は面倒としか思っていなく、他のメイドや執事に注意を受けることが度々あったが。


 エレンからすれば、師匠であるファーノイアが仕える【賢者】は化物だったという。

 自分の師匠が仕える理由も理解でき、噂でしか聞いてこなかった賢者の実力を目に焼き付ける経験もさせてもらえた。その結果が化物という答えに至ったのだ。



 ファーノイアは、元は冒険者時代にゼクトSr(シニア)の仲間になった旧友で、【賢者】と呼ばれるようになってからも傍に仕えることを決めた。

 ゼクトは【賢者】になってからは、冒険者としてギルドからの依頼を受けるのではなく、特別枠として公国などの国の重鎮から直接依頼を受けることとなった。力が強すぎる為に、ギルドでは管理しきれないと判断し、ゼクトの舵を国が持つようになったのだ。

 そうなれば、ファーノイアは基本的に冒険者としては活動できなくなる為、ゼクトに見放されれば金銭的に危うくなってしまうデメリットが付きまとうが、ゼクトとファーノイアの絆にそんな心配は無用だった。これまでの死線がそれを物語っている。


 そういった経緯を聞いてからは、エレンは仕事に励むようになった。

 ゼクトが化物すぎて遠い存在故に近寄り難かったが、正面から見てみればただの人間。むしろ親切で他の従者から注意されていてもフォローをしてくれた人だった。

 そんな人に仕えていることにどんどん喜びを感じるようになり、執事としての仕事にも熱心に励むようになったのだった。



 ゼクトJr(ジュニア)様は本当にすごいお方です。

 私の言う事をろくに聞いてくれないアインス様を容易に手懐けているのです。

 出逢ってからの時間は同じなはずなのに――アインス様は私が着替えさせたり、ごはんを食べさせたりさせようとするとどこかへ行ってしまわれます。

 まだ奥様ならば分かります。二人も子供を育ててきた経験がありますから。

 案の定、奥様は言葉巧みにアインス様に言う事を聞かせていました。

 しかし、ご子息は子育ては初めてですし、何かコツのようなものをしている感じはありません。

 子供のことを分かっている感じはありますが、最初は私と同じ初心者なはずなのです。

 私の笑顔が原因かもとご子息に見てもらったのですが、顔を赤くして大丈夫です、と嬉しいお言葉を頂きました。面と向かっては言われませんでしたが……。

 ですが、練習した笑顔をアインス様に向けても笑顔を返してはくれるのですが、やっぱりじっとはしてくれません。


 そこでご子息に何か案はないかと恥ずかしい限りでしたが、相談しました。それくらい私は本気になっているのです。

 そこでご子息はお菓子を使えばどうかと言って頂きました。

 なので、私も覚悟を決めてお菓子で釣ってみることにしました。

 なんせアインス様はとても多くのごはんを食べ、お菓子にも目がありません。そこを突いていくご子息の考えには感服致しました。

 しかし、問題点がありました。

 アインス様の食べる速度があまりにも早く、着替えさせようとしてお菓子を与えると服を着せる前には食べ終わり、すぐにどっかへ行こうとするのです。

 それではと次のお菓子を与えますが、まるでどこかへ消し去ったかのようにいつの間にかお菓子が無くなっていてアインス様も動き始めます。


 それを見て、冒険者を始めてすぐに対峙したポークボアーという猪のような魔物を思い出しました。

 ポークボアーは、食用にもなるのでよくギルドで依頼が出される魔物の一体なのですが、それを狩るのに餌を食べているうちに背後を突くという方法をとって痛い目を見ました。

 ポークボアーの食べる速度は早く、餌が足りなかったのです。

 そう、今のアインス様の状況とまるで同じです。

 あの時は無理矢理倒しましたが、アインス様はご子息の大事な妹君、そんなことはできません。

 しかしこの元気さ。アインス様はいずれ、とても腕のいい剣士とかになりそうです。

 剣士にはこのくらいの元気さが必要ですから。そういう意味で、かなりの才能の塊だなと感じております。



 失礼に当たるかもしれませんが、ツヴァイ様は本当に楽でいいです。

 着替え中も何も考えていないようにただご子息やアインス様を見ています。

 子供としてはアインス様のような方が普通なのでしょうし、ツヴァイ様は少し変わっているかもしれませんが、その方が楽で助かっています。


 ツヴァイ様は、外へ出ると近くに来た虫をよく見ています。

 子供なら追いかけたりするものなのでしょうが、視線を移動させるだけで何もしようとはしません。

 また、ツヴァイ様は植物にも興味があるようです。

 奥様が育てている花や野菜を見て目を輝かせていました。

 それを見て、私は親近感を感じました。まるで生き物や植物を重んじるエルフ族のような子だなと。

 とてもそうは見えませんが、いつかエルフ族と人族との懸け橋にならないかなと未来を妄想してしまいました。



 数日して、私はとある方法を思いつきました。

 ご子息がアインス様をあやしている最中、くすぐりをしたのですが、どうもアインス様はお腹へのくすぐりに弱いようなのです。

 それで私もやってみることにしました。

 そしたらなんと、私のくすぐりも効いたのです。

 これを応用すれば着替えも楽にできるのではないかと考えた私は、次の日の朝に実行に移すことにしました。

 すると――少しくすぐりで暴れはするものの、着替え自体は完璧に成功したのです。

 それを見てご子息は、


「良かったねエレンさん。これで少しはアインスも打ち解けてくれるかもしれないよ」


 と涙ぐましいお言葉を言って下さりました。

 この時、私は一生ご子息に仕えることを私自身だけでなく、ご子息にもアインス様にもツヴァイ様にも誓いました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ