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賢者の息子に転生したけど魔法が使えない件  作者: 天空 宮
第六章 獣王国救援編 ~獣王国にて始動するヴァルブレイブ家~
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第78話 ヴァルブレイブ家の冒険者

 父である【賢者】が死去してから一カ月あまりが経った。

 僕達ヴァルブレイブ家は、冒険者として活動を始めてそれなりに名を挙げてきている。

 賢者の息子ということで名前を覚えてもらうにはそう時間は掛からなかった。

 拠点はなく、旅をしながら魔物を相手にしたり、ときたま冒険者ギルドの依頼を受けたりしている。

 そんな折、とある人から依頼を受けた。いや、依頼というよりお願いに近いだろう。

 依頼主は、リニア・オコナーさん。レネイさんの侍女で、僕の友達の一人。

 依頼内容は、あちらの国についてから伝えるということだった。

 父さんの死と同時に獣王国の重鎮であり、元は【知賢】という二つ名で有名だったリルハート・フーリガン・シュツワートも亡くなっている。

 リルハートさんはレネイさんの父親で、あの亡骸の正体だった。

 つまり、現時点でシュツワート家はかなりの困難に見舞われている可能性がある。それを友人として手伝ってほしいのだろう。

 レネイさんは友達だし、僕達がそれを断る理由はなかった。


 旅装束で向かう目的地は、獣王国フーリガン。

 旅のお供には、いつもの顔が並んでいる。

 僕の姉のミラ、双子妹のアインスとツヴァイ。そして執事のファーノイアさんだ。

 そろそろお腹が空いてくる昼前、獣王国フーリガンへ向かう途中で南西の陸橋、ヘーイロン大橋へとやってきた。

 僕達が住んでいる屋敷があるのはミニストラード共和国の領地内だけれど、フーリガンはそこから見て西の方角にある。

 しかし、ミニストラード共和国とフーリガンの間には大きな湖であるスイ湖があって直接行くことは不可能だ。

 獣人族と人族の暮らす国の間ではまだ了解がとれていなく、湖を船で渡ったりすることは禁じられていている。

 ゆえに、僕達は湖を迂回する為に比較的近めの南側から進んでいた。

 ヘーイロン大橋は、獣王国が開国した時に設けられた大きな橋で実質獣王国との境界線にあたる。

 かなり大きな渓谷の上にあって、とても下は見られない。


「カエデ……こ、ここを通るの?」


 橋を前にしてミラが顔を苦くしていた。

 一応柵はあるものの、下が霧でどこまでの深さか判らないうえに風が強い。

 だからか人通りもなく、余計に不安になっているのだろう。


「大丈夫だよ、ウェンティがなんとかしてくれるから」

「おいおい、俺様だよりかあ?」


 精霊達のことは皆に周知させてある。

 ミラは姿が見えなく、どうせ僕の力のいい訳に使っているんだろうと思っているみたいだけど。

 だからまたこうして胡乱な目を向けてくるわけで。


「……じゃ、じゃあ僕がなんとかするからさ……」


 ミラを納得させるのに『精霊』というだけでは足りない。


「にぃがいるから大丈夫!」

「カエデにぃ、手つなご?」

「いいよ」


 僕を中心に両隣をいつものようにアインスとツヴァイが占有した。

 橋へと足を向けると、後ろからミラがついてくる。


「待ちなさいよ!」


 彼女の凍り付いたような目は、橋に足を乗せた瞬間に歪んだ。

 風が吹き、最悪なイメージでも想像してしまったのか足が止まっている。

 最後尾をファーノイアさんが歩いているから安心できるのに、ミラは高いところというかスリルのある場所が苦手なのかもしれない。


 アインスとツヴァイは、この一カ月でかなり頼もしくなった気がする。

 僕がいる、というだけで何も怖いものがないみたいに信頼されている感じだ。

 アインスは変わらず元気で、皆にも元気を開け与える太陽のようで。ツヴァイは、冷静沈着で細かいことにもよく気が付く。

 いち冒険者として見ると――魔法力、攻撃力共に最たるものがあり、僕の方が見習う部分も少なくない。


「お姉様大丈夫かな?」


 ツヴァイは姉想いのいい子だ。

 僕が後ろを気遣っているのを悟って後ろを振り返ってくれた。


「仕方ない……ウェンティ、ちょっとよろしくね!」

「……へいへい」


 どこかにいるとは思ったけれど、いつの間にかウェンティは僕の頭の上で胡坐を搔いていた。


「よし!」


 アインスとツヴァイを抱き込み、ミラへ向かって走った。


「わっ!」

「あはは!」

「え――」


 ファーノイアさんが僕が何かしようとしているのに気が付いて口をあんぐりさせる。「またか」という言葉が聞こえてくるかのようだ。

 ミラが僕が来たことに気付いた頃には、僕達五人の体は風に浮かされていた。


風穴駆動エアーホール・ドライブ!!」


 僕達を風が繭のように包み込んで、大橋の更に上を飛行する。

 風に煽られることもなく、まるで風の新幹線に乗っているみたいだ。

 空気でできたクッション座席に横になり、橋や渓谷を眺めながら大橋を通り過ぎるのを待つ。


 それにしても大きな橋と谷だ。

 橋は、六車線分以上はあるだろうか。馬車などが通る時もあるだろうけれど、それほど多くの人が行き来するようには思えない。

 人が飛ばされないようにするためなのかな……?

 渓谷はやはり下に行くにつれて霧が濃くなっていてどこまでの深さか判らない。だからこそ不気味であまり見たくならない光景だ。


「あはははは! すごいすごい! やっほい!」


 アインスはいつも楽しそうだ。

 少し前に庭でウェンティに頼んで同じことをやってもらったのだが、何度やっても飽きそうにない。

 ツヴァイは、ミラと同じであまり下をみないようにしている。僕にしっかりと掴まっていて、ちょっと罪悪感にかられた。



 大橋を超えた先でゆっくりと着地する。

 だが、ミラだけは四つん這いになってひどく疲れたようにしていた。


「だ、大丈夫……ミラ?」


 苦笑しながら訊ねると、「あん?」と睨み付けられた。


「やるならやるって言いなさいよおバカ!」

「ごめん……」


 庭でやった時もミラはこれを苦手にしているようだった。

 女の子はジェットコースターが得意なイメージがあったけれど、やっぱり人によるらしい。

 ジェットコースターよりは優しめとは思うけども……。


「もう……落ちたらどうしようってそればかり考えちゃったじゃない! フン!」


 へそを曲げられてしまった……。

 ミラならもう慣れていると思ったけど、やっぱりまだ僕の異能や精霊の力を身に受けるのには抵抗があるみたいだ。気を付けよう。


「ゼクト様、あそこにある建物に通行証を見せることになっています」


 ファーノイアさんが指差した先には、プレハブのような白い小屋があった。

 建物というにはちっぽけだし、あまりちゃんとした所ではないかな? でも、ファーノイアさんが言うんだからしっかり手続きしないとだよね。


「少々手続きがあったかと思いますので、私が済ませて参りましょう。通行証をお貸しくださいますか」

「あ、すみませんいつも」

「何をおっしゃいますか。これが私の仕事ですよ」


 すごい紳士的だよファーノイアさん!

 父さんが亡くなって色々と面倒を見てくれる機会が増えたけれど、おかげでこの人の良さが日に日に向上していっている気がする。


「ありがとうございます」


 執事達も僕達だけで旅をさせるというわけにはいかなかった。

 母さんも昏睡状態で帰れず、僕達が冒険者として外に出る以上は屋敷に主人がいなくなってしまう。

 万が一僕達に何かあっては従者の皆さんが路頭に迷ってしまう。ということで、一番の実力者でもあるファーノイアさんが付いて来てくれることになったのだ。

 ファーノイアさんは、元々父さんと共に冒険者をやっていた経歴の持ち主。僕達にとっては、学ぶ事も多いし、助けてくれるし、なんでもよく知っている知己だ。


「ファーノイアには、いつも苦労を掛けているわよね」

「うん、今度何かお礼をしなくちゃいけないね」

「お礼!」

「二人共、これはファーノイアには内緒よ? サプライズの方が盛り上がるからね、カエデもよ?」

「ファーノイアさんいつも優しくしてくれるし、一緒にいるとポカポカするから喜んで欲しい」

「そうだね。でも――ツヴァイは問題ないと思うけど、アインスに秘密は難しいんじゃない?」

「むぅ……できるもん!」


 頬を膨らませてムキになるアインスがおもしろく、皆で笑い合った。

 そんな和やかな空気を壊すかのように、向こう側から獣人が五人ほど歩いてきた。

 服装自体は高そうだけれど、少々きつそうで前のボタンがあいてしまっている。ズボンの横がきつすぎて破けているし、おそらくこの人達の私物じゃない。


「あれあれぇ? 人族が獣王国に何のようかなあ?」


 柄が悪そうだ。狼のような顔で分別がつかないけれど、態度や服装から見てそう思った。

 レネイさんが人族に近い部類に対して、この人達は全員獣に近い部類なのだろう。人間味のない顔がそろい踏みだ。

 人間並みの大きさの狼が二足歩行で歩いている。

 初めて見る訳じゃないけれど、やっぱり異質さがあって少し不気味に思えてしまった。


「カエデ……」


 ミラの警戒心が引き上がり、いつでも魔法を撃つ気満々みたいだ。

 アインスはにこやかな顔をしている。

 だが、前にも同じようなことがあった時に間合いに入った瞬間、相手に蹴りを入れていた。だから何を考えているか判ったものじゃない。

 今回は落ち着いて欲しい。ここは獣王国フーリガン、人族である僕達がここでもめ事を起こすのはよろしくない。


「友人がこちらに住んでおられるので、ちょっと遊びに来ただけですよ」


 ミラもアインスもどちらかというと血の気の多い方だ。僕がなんとか場を収めるしかない。


「ほえー? 人族様が獣人族の国に御友人とは珍しい!

 それは一体どこの誰なのか、お教え願いたいものですなあ!」


 やっぱり、か。適当ないちゃもんをつけて飯をただ食いする客と同じようなものだな。

 面倒極まりないのに捕まってしまった。


「それはちょっと……プライベートに関わることですから」

「つれないねえ……」

「なあなあ人族の女が三人、こりゃあ結構高値が付くんじゃねえか?」


 思わず、「はぁ?」と殴り掛かりそうになるのを堪えた。


「ああ、人族は確か胸が大きくて腰が細くてケツが大きいのが高いって聞いたぜ!」

「あはは! あれだろ? ボンキュッボンってやつだろ? だったら一番背の高い女が一番高そうだ!」

「男の方はいらねえな」

「前に売ろうとした時、無料タダじゃなきゃ引き取らねえって言われたからなあ! そんなただ仕事はやってられねえってもんだ!」

「それなら男はここで遊んで殺してパーリナイってことでオーケイ?」

「いいだろ」


 とうとうミラの堪忍袋の尾が切れた。

 殺気が隠せず、嘲笑う獣人達へと足を踏み出そうとしていた。

 その刹那、ファーノイアさんが僕達の間に割って入った。

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