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賢者の息子に転生したけど魔法が使えない件  作者: 天空 宮
第五章 竜討伐編 ~自治州にて竜討伐隊の僕達~
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第72話 竜を脅かす龍の出現

 瞬きする間に僕が見る風景が変わる。

 熱気が吹き荒れる山岳地帯は同じだけれど、僕の目にはさっきと同じ大きさでも肌が蒼い竜とそれに対して交戦しているミラ達皆の後ろ姿が映った。

 前線で攻撃を受け切っているのがホウライさん。

 右手から炎を、左手からは風を起こし炎の勢いを高めて竜から出るブレスを止めることに成功させていた。


「あんまりもたねーぞ!

 まだか!? ゼクトの姉貴よォ!」


 その後ろで魔力を高めているミラの姿あった。

 自身の魔力が上昇しきるのに早くしろと言わんばかりの怖い顔でいる。

 よく見れば、竜の下方で縦1メートル前後ほどにミラの形成したであろう氷が溶けてきているのが見える。

 おそらくミラの魔法だよりでなんとか凌いできたのだろうけど、流石に相手が悪い。

 竜の体温は戦闘時はおよそ1000度付近まで上昇する為、一般の水魔法や氷魔法では歯が立たない。だから、ミラの魔法といえど1分程時間稼ぎができればいい方だろう。

 しかし、ホウライさんの存在は大きい。ブレスを防御できているのは、一重に炎魔法と風魔法の合体魔法だからだろう。

 炎に対して威力や熱量は劣っても、質量はほぼ互角だが風量では勝っている。あとはどれほど魔力がもつかというところだけど。

 ミラとホウライから離れてリニアさんやアインス、ツヴァイたちが座り込んでいた。

 どうやらレネイさんが怪我をしているらしい。皆に囲まれる中で以前見た【超獣化】した姿のレネイさんが額や肩から血を流しながら竜を睨み付けている様が覗き見える。


「……早くなんとかしないと……」


 状況はあらかた整理できた。

 時間もない。早く精霊進化して加勢するんだ……!


「行くよ、イグニス!」

「よっ、待ってました!」


 イグニスは僕の掛け声を気に僕を中心に飛びまわり始める。


精霊進化スピリット・エボリューション!!」

(進化を開始します)


 あの声が脳内に響き渡り目の前に三つのディスプレイが現れ、それぞれに精霊や進化といった言葉が表示され、体を炎が覆っていく。

 あまりにも現実味のない変化に僕は体を預けていった。


(――完了しました)



 竜の口より炎の球が吐かれ、灼熱の炎がホウライへと襲いかかる。

 ホウライは、なんとか自身の前に顕現させる炎風で耐えようと身構えていた。

 その後ろでミラが情けなく歯を噛み締める。


 ダメ……到底魔力が足りない。

 どれだけ魔力出力量を底上げしようとしても、限界がある。

 なによりわたしが体得した父様の魔法(賢者魔法)は、竜相手には分が勝ちすぎる。

 もうっ! なんで早く来てくれないのよ――カエデ!!


 ミラが顔を空へと見上げたその時、ホウライが放出していた炎と風の渦による壁が一層炎圧を上昇させて高く大きく成長する。


「ッ――!!?」


 魔法を発現させていたホウライ自身もこの現象に対して驚いており、更にはたじろいでいく。

 どんどん膨れ上がるその魔法に恐怖していた。


「な、なんだこれは……!?」


 やがて炎の渦は勢いを増して空中で羽を羽ばたかせている竜にまで届かんとし、ただの盾用だったそれは牙を向く。

 ブラックホールのように螺旋回転を高速化し、竜を飲み込もうとした。

 竜は、滑空を利用し回避を試みるが、渦の横を行こうとして罠に嵌まる。

 炎を勢いづかせるようにして発せられたはずの風に巻き取られて上手く逃げ切ることができなくなっていた。


「簡単に逃がす訳がねェだろ!!」


 炎の渦からひと柱の炎が竜へと伸びたかと思うと、その中から一人の人間が姿を現し、その右拳を竜の横腹に炸裂させる。


「あれは――」


 皆が注目する空中の出来事。

 炎の渦より出でるは、炎を纏う精霊となったカエデだった。

 竜の体は拳を中心として捻り曲がると、勢いのままに一瞬にして地面へと叩きつけられた。

 カエデが残り火を宙に置いて地面へと下りて来る様は一見ゆっくりに見えるが、その実は軽やかでスムーズな為にそう錯覚させる。

 しかし、誰もその間に口を開くことはなく、ただレネイとリニアだけが安堵するような笑みを綻ばせていた。


「にぃにだ!」

「カエデにぃ……」


 カエデの後ろ姿を見て、アインスとツヴァイが悟る。

 しかし、ミラは絶句していた。

 目の前にいる燃え滾る炎を纏うカエデの姿に動揺して高めていた魔力を霧散させてしまい、信じられないような顔をしていた。


 あれが……カエデ、ですって……?


 ずっと小さくて可愛い弟と思っていた。

 わたしがいないと何もできなくてずっとわたしの後ろを付いて来るペットのような存在。

 わたしはこの子の力、偶に出る言葉や仕草にドキッとさせられることはあるけれど、素直なカエデはいつになっても変わらないと思ってた。

 なのに、今わたしの前にいるカエデはわたしが前にいるなんて到底おこがましい。唯一無二の父様と同じような燦然さんぜんとした存在になっている。

 ずっと気付かなかったじゃ済まされないくらいに歴然とした差が現実として現れているなんて……。


「お前等、離れてろよ……こいつはとてつもなく頑丈なんだ」


 でも、こうなるなんてずっと昔から判っていたこと。

 だってわたしは養子。カエデと違って【賢者】の父様とは血が繋がっていない赤の他人。

 だけど不思議。そうなったらわたしは嫉妬心で煮えたぎるものと思っていた。

 血のせいにして鬱憤をそこら中にまき散らすのを想像してた。

 でも、現実となった今ではむしろ当然のことのように受け入れている自分がいるのに驚いている。

 ――いえ、少し違うかしら。

 確かに受け入れてはいるけど、それ以前にカエデの立派になった姿を見てどうしようもないくらいに心が揺れ動いているのに心地良さを感じているんだわ。


 ミラは微笑しながら呆然と立ち尽くしカエデの後ろ姿を傍観し始める。


 いきなさいカエデ。あなたはわたし達とは違う、突き抜けた存在。

 もう立ち止まらずに自分の道を踏みしめるのよ。


 竜が体をくねらせながら再び宙へと舞い飛ぶ。

 カエデはそれを不敵に笑いながら目線だけで追った。


「やっぱり頑丈だな……さっきの俺の攻撃が全然効いていないみたいだ。

 だが、俺もさっさと状況を収拾したい。この後、街に戻って何が起こってんのか調べないといけないからな。

 つーわけで……悩む時間削って、さっさと竜は見納めにさせてもらう!!」


 拳を鳴らし、旋回してくる竜を待ち構える。

 固唾を呑んで見守る者達は熱いはずの熱波を受けるも動じずに目を凝らしながらカエデの一挙手一投足を注目していた。

 竜は、口に炎を蓄え吐き出す準備をしながらカエデへ向かって突進し始める。


「にぃにが危ない!」


 アインスが立ち上がって飛び出そうとするのをツヴァイが止めた。

 振り向くと、ツヴァイは唇を噛み締めて悔しそうにしておりアインスは肩を落としながら意図を悟る。

 自分達が行っても足手纏いどころか邪魔にしかならないと判っていた。


「にぃに……」


 竜の大きくも恐ろしい顔が自身へと迫っているというのにカエデは落ち着き払って不敵に笑っていた。

 やっと動いたかと思えば腰を落として拳を突き出すためか半身になる。


「今度はさっきより強めな上に気絶で済むか微妙なラインだ。精々覚悟して来いよ……」


 竜の口が開き、放たれた赫灼かくしゃくたる炎球の明光がカエデを覆う炎を際立たせる。

 人間を飲み込むには十分すぎるほどの大きさと炎圧を伴った竜のブレスは格差をひけらかすように地面を抉って突き進む。

 しかし次の瞬間、カエデは瞬間的に自身を炎で纏うと竜のブレスへと突進していった。

 その無謀とも言える行動にホウライは一歩前に進むが、「あ……」と声が出る頃にはカエデを包み込む炎は炎球を突き破りブレスの奥で着地していた竜へ進み続けていた。

 いくら容姿が変貌したからとはいえ、全員が有り得ないと口をあんぐりさせる。

 その後のことはただの付け加えでしか見えなかった。

 瞬く間に竜の背後へと到達すると、先程から用意していた拳を振り下ろした。



魔焔妖楼まえんようろう嶽災天がくさいてん!!」



 振り抜かれたカエデの拳よりどこまでも伸びる一本の炎の柱が竜から出でるようにして発現した。

 柱が竜の背骨を歪めるように落ちると、とてつもない地響きと衝撃音が山に充満する。


「ウォオオオオオオオッッ!!!」


 竜は炎の柱に押しつぶされるようにして地に腹を落とし、重力に逆らえないようにどんどんその体を沈ませていく。

 すると、亀裂の入った地面から同じような炎の柱が生え出て昇る。

 それはまさに竜を龍が食いちぎる様に錯覚された。


ドラゴンが……」

ドラゴンに食われている…………?」


 竜の瞳が白く染まって瞼が閉じられると、龍に見立てるように発せられた炎の柱は全て一瞬にして霧散する。

 その炎の欠片のように上空から下りて来るカエデを皆、神の出現を見ているかのように呆然と見上げていた。


「にぃに!」

「あ……ん!」


 アインスが駆けだすのに合わせ、思い出すようにツヴァイもその後を追う。

 カエデは着地すると同時に再び纏う炎の渦によって元体に戻る。

 そこへ一目散に飛び込んでいったアインスが背中から抱き着いて行った。


「にぃに!」

「おわっ!」


 ふらりとよろめくも首を後ろへ向けてアインスと顔を合わせる。

 今にも泣きそうな顔で口や手は震えていた。

 カエデが来るまで死んでしまうんじゃないかという恐怖が滲み出る。


「――アイ……」

「絶対来てくれると思った。

 けど、もし間に合わなかったらどうしようって何度も頭の中に出て来て、振り払おうとしたけど、ついて来て……だから…………大好き!」


 泣いているのか笑っているのか、落ち込んでいるのか喜んでいるのか判らないめちゃくちゃな顔にカエデは微笑しながらアインスの頬を撫でる。


「もう大丈夫だよ。暫くはあの子も起きてこれないはずだから……」

「……う゛ん……」


 泣きじゃくるアインスの後ろからツヴァイが無表情で歩み寄ってきていた。

 カエデは後ろを振り返るとツヴァイを見つけ、屈んで頭を撫でる。


「心配させたね」


 すると、意外にもツヴァイはカエデの懐へと入っていった。

 三人へと厳かな雰囲気のミラが近づいていた。


「さっきの能力、なんでわたしに黙っていたの?」

「…………言えなかったんだ。

 それだけ言うと元も子もないから言うんだけど……この力はあまり人には言っちゃいけないような気がしたんだ。

 異能とはまた違う種類の僕だけの力で、それを意識したのはある人が現れたから。その人がそう思った原因でもあるんだけど……言いにくいことなんだよ」

「……そんな話じゃ全然納得できないんだけど!」


 ミラの表情が険しくなる。

 まだ話したりないようにしているのはカエデも理解していたが、それよりも重要な事が待っている気がした。


「それよりミラ、アインスとツヴァイを頼むよ。僕は今から直ぐに街に戻るから」

「え……何かあるの?」

「まだ分からないんだけど、僕達の知らないところで何かが巻き起こっている気がするんだ。

 身も気もよだつ、そんな計画が動いているような……ざわついた悪寒がある」


 既にカエデの視線はこの山からの帰り道へと向かっていた。

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