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賢者の息子に転生したけど魔法が使えない件  作者: 天空 宮
第五章 竜討伐編 ~自治州にて竜討伐隊の僕達~
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第66話 狂気に対する狂気

 ぼぅっと燃える森の木々の明かりで熱くも僕達の肌が照りついている。

 そして、それを背中に受け狂気混じりの笑みを浮かべる黒髪長髪の男へと四人全員の視線は釘付けになっていた。

 森中に張り巡らせた罠と先程に見た魔法の魔力出力量をとっても、この人がどれほどの死線をくぐり抜けて来たかが判る。この人は戦いを知っている。

 さっきの人達とは比べ物にならない威圧感なのに、それでいて僕達よりも戦いを知っているとなるとかなり分が悪い。

 なぜなら、僕達と現在プロとして冒険者をやっている大人達との差は経験であるのと同じで、向かい合っての戦闘ならよりそれが際立つんだ。

 たとえ魔力量がこちらの方が上手うわてでも、負ける可能性は十二分にある。それをこの人も判っているんだ。まるで子供で遊ぼうとしているような雰囲気がそれを物語っている。


 勝てるのか……?

 ホウライさんは、ベルシア魔法学院の研究生にまでなった元最強の実力者であり、魔法を知っている知恵者でもある。

 けれど、相手の素性は知らない。相手がホウライさんより下だなんて誰も判らないんだ。


 僕の手は震えていた。

 いつもそうだった。入学試験のような模擬戦などの命のやり取りではない戦闘ではなんともないけれど、相手を殺すような殺気を出す【剣豪】のテナンさん相手をした時なんかは、まず始めに怖気づく。

 誰の殺気も僕は耐えられない……怖い。


 でも、いつも誰かに喝を貰って乗り越えて来た。

 また誰かだよりで前に進むのか……? 僕は、一人でも足を踏み出さなくてはならないんだ。

 それができなければ、ホウライさんがさっき言ったように夢を持っても、そこへ目指す為に動くことなんてできない。

 僕は、変わらなくてはならないんだ。

 これからは自分の脚で、頭で、壁を乗り越えていく。



 僕は、拳を握り締めながら考えると、力を抜いた。


「行くぞ、ゼクト」

「――はい!」


 ホウライさんの息を呑みながら発せられる指示に僕は強く返事を返した。


 すぐさま走り出すホウライさんの背中を追うように僕も駆ける。

 ホウライさんの走り方は獣のようで敵に察知されにくいような、まるでパルクールの異世界版をのようだ。

 腰が低く、魔法が飛んできても走りながら直ぐに避けられるような構え。

 足の向きとのらりくらりとした独特のリズムは方向と緩急のタイミングを狂わせられる。


「二人が先頭――特攻という感じか。

 後ろの二人から意識を逸らそうとしているのだろうが、この俺様にそんな事は無意味だ」


 かなりの用意周到ぶり。罠を張るところからもそれは読み取れる。

 だから、僕がインビジブルで消えても警戒を怠ることはないだろう。一時の意外性で優位性は取れるかもしれないけど、策の無い目前でのインビジブルは不安もあるし危険が付きまとう。

 まずは――

 

――――――――――――――――――――


NAME:メンディス・フォード

HP:11811/12239

MP:9352/13102

ABILITY:A

SKILL:炎操者 気配知覚

MAGIC:ファイア・ショットLv.5 マッド・ショットLv.3 フレア・ボールLv.5

マッド・ボールLv.2 ファイアタワーLv.4 ファイア・フィールドLv.2

ホウセンカ ゴーストブラスト


――――――――――――――――――――


 能力を見る!


 ……あまり他人の能力を見ようとしてこなかった。

 自分の力を勝手に見られるというのは、嫌悪感を煽るだけ。僕にも罪悪感ができる。

 だけど、今回は命を奪おうとしてくる敵だ。そんなものは今は無い。


 メンディス・フォードっていう名前なのか。僕は犯罪経歴がある人とか調べたことないから判らないけど、もし知っていたら懸賞金のある盗賊とかの見分けがしやすいのか。


 こうして見てみると、ミラの能力の凄さが判る。

 けど、スキル持ちなのと二つのオリジナル魔法――。警戒すべき能力だ。


(ホウライさん、この人――)


 ホウライさんは僕がテレパシーをするのを判っていたかのように驚かずに返してくる。


(ああ、スキル持ちのオリジナル二つだ。結構知識がありやがるな。

 お前はこのまま俺と繋いだままでサポートしろ。距離は遠くても構わない)


 戦々恐々としている僕とは違い、ホウライさんは敵を目の前にして不敵に笑っているようだ。

 ホウライさんがメンディスへと飛び掛かっていくのを皮切りに僕は二手に別れるように木の影に隠れながら敵の視線から切れる。



「お前等、どっかの魔法学院の生徒だな。

 ホウライ=プライド、お前の名前くらいは知っている」


 ホウライの腕が光ると腕から先が光り輝く剣となり、それを振り上げメンディスへと斬り掛かる。


「そうかい!

 光剣フォトンソード!!」


 それをメンディスは、いつの間にか炎を纏わせていた五本のナイフで受けた。

 急接近した二人が不敵な笑みを持ってして眩いまでの光りが目の前にあるというのにバチバチとした視線を合わせていた。


「確かに俺はホウライ……だが、フルネームを他人に呼ばれるのは嫌いでね! アンタを打ちのめしたくなっちまう!」

「名などどうでもいいだろう。それとも、自分の名前を嫌う理由でもあるのか!?」

「まあなッ!」


 ホウライは剣で振り払い距離を取る。

 それを見送ると、メンディスは手を広げ訴えかけるように話し始めた。


「学生諸君!

 君達は、何故、俺様を倒そうと向かってくる! 危険を前にして何故命を張ってまで俺様に向かってくる!?

 この世界は取り取られが当たり前だ! 人の物だろうが、違かろうが物であることに変わりない! そこに契約あったとしても何ら変わりはない!

 俺様達がしていることに何故法という邪念を持ち込もうとしているのか! 俺様には理解できない!

 だから――ここらで止めにしないか? そうすれば、お前達の命を狩らないでやろう」

「……はぁ? それは命乞いか?

 俺達に勝てそうにないから、不評を得ないように引き分けのていを装うとしてんのか?」

「――わからないか……。もう俺様が勝っていることに気付いていないとはな。

 仕方ない。実力のある若者を俺様の物にしてやろうとしたのだが……そこまで言われては、もう要らないな」


 雰囲気が変わったように殺気が鋭く解き放たれる。

 すると、ホウライも苦笑気味に引きつった顔となってしまう。


 にゃろう……さっきまでのは手加減してたってのか? 舐めやがる……!!


 また、カエデはメンディスの右方向に位置する木の影から様子を窺っていた。


 どうしよう……。ホウライさん、敵を怒らせたみたいだ。

 それに今の言葉――何か意味ありげだった気がしたけど……。


 その瞬間、カエデは自分の頭上に違和感を感じふと上へ視線をやる。

 そこには、人間一人分くらいの大きさがある火の玉があった。

 火の玉は、カエデの頭上だけでなくホウライ、ラスターとデネブの頭上にもあり、皆もそれに気付いたようで目を見開く。


「なんだ……コレ……」

「言ったはずだ、俺様はもう勝っていると。

 俺様のは、罠とも称せようが、実際には炎を操っているだけに過ぎない。例えば、気付きづらいように炎を小さくしてそこら辺に配置しておくとかな。

 今はそれを目に見えるように少し大きくしてやっただけだ。本当の大きさは爆発してからのお楽しみだがな」


 まずい……僕には効かないにしても、ラスター君達くらい離れているところまで魔消滅マジックイレイサーは届かない!


「死ね――」


 間に合わない!


 意味もなくカエデが手を伸ばすのも、脳裏には少し先の爆発した未来。

 冷や汗が滲み出る中で、頭に直接囁き声が聞こえてきていた。


(――仕方ないですね……)


 次の瞬間、火の玉が爆発すると顔の前に腕を出していた三人を他所に目の前で小さくも青く光を放つ小人が宙で背中の羽を動かし飛んでいた。


「何ッ!!?」


 戸惑うようなメンディスの声に反応しカエデはゆっくりと小人から奥へと視線を移す。

 するとーーホウライやラスター、デネブの頭上にある火の玉が一回り大きい水の玉の中に収まっており、どんどん蒸発していくように湯気を出しながらしぼんでいっていた。


「君は――」

「貴方程の力を持っていれば私など必要ないと思うですが、危ういので仕方ありません。

 今回だけは協力してあげましょう」


 振り向く小人――いや、妖精は、確かにあの日、地下で感じた気配と同じだった。

 宝石のように輝く蒼い髪に落ち着いていて綺麗な女性顔、しなやかな曲線を描く容姿。額には、ひし形の紋様が刻まれている。

 服は、昔のギリシャのもののように薄く白い布地だ。

 なんとも落ち着いた、余裕のある雰囲気をしているのが判る。


「さぁ、さっさとしてください。精霊進化スピリット・エヴォリューションですよ!」

「あ、はい!」


 先輩に命令されたかのように咄嗟に返事をし、準備する。

 この精霊の覇気に拒否するなど他の事は考えなかった。


精霊進化スピリット・エボリューション!!」


 スキルの発動宣言をすると、カエデの目の前に現れるステータスバー三つ。

 いつもの能力値が薄く表れている上に、「進化」「EVO」「Evolution」と表示されてあり、スキル発動を報せる。

 次第にそれらの文字が消え、全てに「精霊」という文字が現れた。


《スピリット・エボリューション》

《進化、開始します》


 あ……またやっちゃ…………。


 カエデの体が腕や足などの端から水に包まれていた――。



「勝ったつもりが俺の助手にしてやられたみたいだな!」

「ハッ、粋がるなッ!

 お前達がここで死ぬのは目に見えた事実! ただ死ぬのが数分遅れるだけだ! お前達が死ぬのは、俺様がここにいるだけでそれが証明させられる!

 俺様は、メンディス・フォードだッ!!!」


 ホウライの不敵な笑みに憤ると、メンディスの背後が何も無しに爆発を起こし炎を燃え上がらせたかと思えば、その炎の中に目と口が浮き上がり化物の顔のようになっている。


「ゴーストブラスト!

 こいつは、お前等を喰う幽霊ゴーストだ! 精々燃え死ね、クソガキ共ォォオッッ!!!」 


 生き狂ったような覇気と共にメンディスは魔法を放とうと手を振り下ろす。

 しかし、メンディスの頭上を炎が通ることはなかった。


「…………ま、待て……? お前、なんでそこにいる?

 まだあっちに気配が残って……」

「アクアフォーム……」


 困惑しながら振り返る背後には、既に炎の欠片も残っていなかった。


「――理解が遅いようですね…………仕方がないので教えてあげましょう。

 とはいっても、ただの分身です。そんなことも思いつかないとは……あれだけ子供に何か意味不明なことを説いていた人とは思えませんね」

「ぶ、分身……だと?」


 そこにいたのは、全身が水で服だけでなく体まで透けたカエデが凛とした佇まいで立っていた。

 銀髪も蒼く潤んでおり、まるで水がカエデの形を模したかのよう。


 また、先程までいた場所にも同じように水のカエデが立っており、メンディスに確認させると煙となって消えていく。

 


「ふっ、やっぱり俺が奥の手出す必要はなかったみたいだな」

「貴方が最初から全力でないのは見え見えでした。しかし、私の友に刃を向けられるのは嫌だったので我慢が出来なくなってしまいました」


 今度は一人称は「僕」から「私」へ、怖がりのカエデから自身に満ち溢れた新たな存在へと進化していた。


「実際、俺が全力を出すとこの森を破壊しかねなかったし、力の制限を受けるのは仕方のないことだったけどな」

「その後処理を私に任せればよかったものを」

「……それは思いつかなかったな」


 鼻で笑うのを見て、思いついていたうえでまだカエデの全力を見たい欲望に駆られていたのが表に現れているようだった。


「何を余裕ぶっているかは知らないが、その体になったから俺様に勝てると思っているのなら――」


 メンディスが口を開き、生き生きと話しているのを見かねたカエデにより放たれる水滴くらいの大きさの水玉がメンディスの頬を掠める。

 まるで気付くことのできなかった速さにメンディスの顔が青くなる。


「ひっ……!」

「すみません。あまりにも五月蠅く目障りな長話が始まると思い、つい手が出てしまいました」


 悪びれもしない綺麗な笑みに狂気を感じ、メンディスは腰を抜かしたように尻を突く。

 今の一瞬で力関係を理解したように下も回らなくなったのか口が開いて何かを言おうとしているが、何を言いたいのか判らない。


「%$&#Y¥!!?」

「さて、先程まで私を含め私の友人にまで『死ね』と仰っていた貴方には罰が必要ですね。

 ですが、私にはそっちの知識はなく……仕方ないので窒息死で手を打ちましょうか。私、見た目通り水を操るのが得意なんです。

 死ぬまで悶え苦しむ姿、私達に拝ませてください」

「ヒィィィイイイ〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰!!」


 カエデの狂気に煽られ、メンディスは尻を突いたまま倒れ泡を吹いて気絶してしまった。


「おいおいゼクト……冗談だろ?」

「…………」

「おい?」


 ゼクトの無言の間にドキドキしながら冷や汗を流し返事の催促をする。


「勿論ですよ、気絶していては苦しむかどうかも判りませんしね」

「こ……こわ……」


 美しいまでの笑顔で狂気的発言をするので流石のホウライも身震いしていた。

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