表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
賢者の息子に転生したけど魔法が使えない件  作者: 天空 宮
第一章 異世界転生編 ~異世界転生にて幼い僕~
4/99

第2話 魔法は使えないらしいけど

 数日後の僕が幽霊に殺されたあの日のような激しい雨が降った日。



 珍しくうちに客人やってきた。

 濡れた黒いローブを着た白い顎髭の長い老人だ。


「この子には魔法適正が…………無い、ようじゃ……全く…………」


 その人は、ベビーベットに入った僕に手をかざして言葉詰りにそう言い放つ。


「えっ!? 全く? 少しも?」


 戸惑う父さんに同調し、僕も心中穏やかではなかった。


 え!!!?

 それってどう意味!? 僕に魔法適正がないってどういう意味!!?


「そ、そうですか…………」


 憐れむように頷く老人にそう答えると、父さんが残念そうにこちらを見てくるので余計に心配になる。

 それに含まれる意味には見当が付いていたが、信じたくはなかった。


「あなた……」

「この子は、一生魔法を使うことができないそうだ」


 異世界に来たのに、希望を持つことができた魔法を一切使うことができないなんて、そんなのあんまりだ。

 赤ちゃんなんだから泣いていいだろうけど、それは言葉を理解したと気付かれるから我慢する。

 母さんは苦しそうに笑い、僕を抱き上げて後頭部を撫でてくれる。


「大丈夫よ、大丈夫」


 母さんの包容力には感服する。おかげで涙が滲み出てしまった。

 恥ずかしくはあるけど、母さんの柔らかい胸に埋もれて涙を隠す。


「この子は残念じゃったが、姉の方は本物じゃ。

 残念がるでない。賢者二世は、姉の方が成し遂げるであろう」


 老人は慰めるように言っていた。

 だけど、父さんはそれで元気にはならなかった。

 元の世界風に例えるなら、父さんは僕に期待していたのかもしれない。

 姉さんは女性で、僕は男。男の僕に期待するのも解るけど、僕はその期待を裏切ってしまったようだ。


 この日、僕の魔法を使うという夢が儚く散った。



◇◇◇



 それから数日が過ぎたある日。



 僕の身に異変が起きた。

 お昼が過ぎたおやつの時間帯、母さんが刺繍を行っている横でいつものようにベビーガードで囲まれたベットの上でただ寝ていると、目の前に何かが現れた。


 それはまるでスクリーン。

 そう、パソコンとかの画面を3Ⅾ映像として映し出しているような感じで、僕の目の前に現れた。

 こんなことは生まれ変わってから初めての事だった。

 そこには、元の世界の言語で書かれている。

 こっちの世界にはこっちの世界の言語があり、それは何が書いてあるか解らなかったけど、これならば理解できる。


 これはゲームでいうところの『ステータスバー』だ。

 僕のステータスが書き記されているようだ。


――――――――――――――――――――


NAME:ゼクト・ディア・ヴァルヴレイヴ

HP:?/?

MP:0/0

ABILITY:H

SKILL:EVO

MAGIC:ー

Ψ:XXXXX 浮遊


――――――――――――――――――――


 ん?

 僕の名前は梅宮――

 ああ! こっちの世界での名前か。

 あれ? でも、僕の名前ってジュニアだったんじゃあ…………ニックネームかな?

 これって本当に僕のステータス?

 エイチピーが『?』ってどういうこと?

 まだ分からないとかかな。

 エムピー無し……魔法適正が無いって言われたし当然か。

 ……やっぱり僕のか。

 ゼクト・ディア・ヴァルヴレイヴ…………僕ってこんな名前だったのか。

 でも、スキルのイーブイオーって意味わからないし、

 マジックが魔法で『ー』は使えないって意味だとして、その下のこのマーク(Ψ)って何?

 これがステータスバーだとしても、意味がわからない。

 【浮遊】っていうのは父さんが使っていたのと同じだろうけど、これって魔法じゃなかったのかな?

 でも僕、魔法は使えないし意味ないじゃん。

 アビリティが『H』ってのは弱そう。僕、弱そう。

 せめて赤ちゃんの時から強そうな感じでいたかったな。そうすればちゃちゃっと何かしらの偉業を成し遂げられそうだし。


 なんか、僕には無理そうだな…………。

 魔法が使えないって時点でかなり終わってそうだったけど、これで更に無理そうってことが判ったよ。


 はは……いや、分かってたさ。

 前世があんなだった僕ごときが強くないことくらい。



 いや、諦めちゃダメだ。僕の悪い癖だ。

 弱くても、努力すればやれる。凄い人になるんだ! 頑張れ、僕!

 フンスッ!


 ステータスバーを見ながら自分に気合いを入れて現実に戻ると、なぜか一度だけ乗ったことのあるジェットコースターのとらうまを思い出す。

 体が浮いているような感覚があるのだ。


 へ?


 ステータスバーが消え、次に目の前に現れたのはいつも見ている天井。

 しかし、近い。近すぎる。

 僕の小さな手が触れられるところに天井があった。

 さっきステータスバーにあった【浮遊】だ!

 いつ使ったのかは分からないけど――勝手に発動するなんて、危ないな。

 あれ? 僕って魔法が使えないんじゃ?

 どうなっているんだろう?

 あと、これってどうやって降りるんだろう?


 解除するとか?


 わっ!!


 急に天井が遠のく。

 僕は瞬間的に自分が落下していることを理解した。



 ダメダメダメダメダメダメ! 浮いて!!



 僕が心の中でそう叫ぶと体が空中でビタッと止まった。

 違った。今のがジェットコースターの『フワッ』だった。心臓が浮いたよ。

 僕は、ゆっくりと自分の体をベビーベットの中へと収める。


 要は想像すればいいだけね。解りやすそうで、僕には無理だった。

 でも、次からは大丈夫なはず。


 それにしても、今のでよく母さんも気づかないな。刺繍に没頭して僕のこと忘れてないよね?

 だけど、これなら勝手に出ていっても気づかれなさそう。

 いや、流石に長いこと離れていればいなくなったことに気づくか。

 心配はさせたくないしな。

 漫画とかだったら自分の分身を代わりに置いておけるんだけどね。


 そう考えた瞬間、突然すぐ隣に僕そっくりの赤ちゃんが現れた。


 え!?

 これって…………【分身】、だよね?

 さっきステータスバーを見た時には分身なんてなかったはずだけど。


――――――――――――――――――――


NAME:ゼクト・ディア・ヴァルヴレイヴ

HP:?/?

MP:0/0

ABILITY:H

SKILL:EVO

MAGIC:ー

Ψ:XXXXX 浮遊 分身


――――――――――――――――――――


 増えてる……!


 考えただけで出てくるステータスバーを見てみると、MAGICの下の変な項目に分身が追記されていた。

 僕は好奇心から隣に現れた赤ちゃんの頬をツンツン、とつついてみる。


「んー、んー」


 喋った!!?

 まるで生きてるみたい!


「ん? どうしたのジュニア?」


 しまった! 母さんが気づいてこっちに来る!

 どうしよう。

 これじゃあ僕が二人だ。こんなの見たら僕なら気絶しちゃうよ。

 えっと、えっとー、

 じゃあ、透明になって!!


 母さんがすぐ近くまできており、腹を括るように目を瞑り、僕は心の中で叫ぶ。


「おいでージュニア。

 よしよし。ママはここですよー」


 声が上下と移動して聞こえて目を開く。

 僕には抱えられた感覚は無かった。

 僕の視線の先で抱かれる僕。分身の僕が無表情で母さんにあやされている。


 危なかった…………。

 ここ数分でどれだけ僕は赤ちゃんの心臓に負担を掛けているんだろう。

 それにしても、僕の髪ってやっぱり父さんと同じ銀髪なんだ。まだ生えかけって感じだけど。

 目は茶系で少し黄色よりだ。

 僕は鏡なんて見ないし、気にしてなかったから分からなかった。

 へー? 割と可愛い。僕が僕をあやしたいくらいだ。

 おっと、今はそれは置いておこう。自分を褒めすぎると調子に乗っちゃうしね。


 想像するだけで新しい魔法? 技?

 何かは分からないけど、すごいことができるようになったのが分かった。

 赤ちゃんの時点でこんなことができるなんて考えもしなかったよ。

 僕も魔法が使えるんだと思ったらワクワクが止まらない。

 おっと、ドキドキしすぎて赤ちゃんの心臓にこれ以上負担を掛けないようにしないと。もう死にたくないしね。


 これで僕が外を歩き回れるのに必要なものは揃った。

 あとは浮遊をうまく使いこなせるかどうか。


 先程同様に浮遊のイメージをしてみる。怖いから一応最低限の高さと速さで。

 僕の体は重力に反して地面から再び宙に浮いていった。高さと速さも自由自在だ。

 慣れてくればもっと速くできそうだけど、まだ最初だし、赤ちゃんの体だし、慎重に。

 なんらく僕の体をベビーベットの中から脱出させることができた。


 どうだ!

 歩き始める前に、

 いや、ハイハイする前に空中浮遊ができるようになったぞ!

 まぁ透明になっているから誰にも見えないんだけどね。

 ハイハイも立ち歩きもしようと思えばできるんだけど、とりあえずは一歳になるまでは様子見しようと思ってる。早すぎても周りを驚かせるし、心配されてきたらするって感じかな。


 さて、漫画とかだったらこのままお風呂を覗きに行くんだろうけど、僕はそんな邪な事には手を染めない。

 例え見られていないとはいえ、僕は正義のためにしか自分の力は使わないのだ!


 外に出る為の第一関門は、この部屋のドアだ。

 流石に勝手に開いたらポルターガイスト。母さんを怖がらせてしまうからね。

 じゃあ実験だ。



 それから僕は自分がどれだけのことができるのか実験を始めた。

 【念写】、天井の隅に元の世界のテレビのリモコンを写しだした。

 【瞬間移動】、ドアの外にある廊下にワープする。

 【千里眼】、部屋の中にいても外が見れる。

 【身体強化】、赤ちゃんの体でも長い廊下を走れる。

 【透明化】を合わせて7つもできるようになった。

 しかし、身体強化で廊下を走ったら疲れてしまったので一端休憩ということにする。


 それにしても結構色々なことができるみたいだ。とは言っても、念写からはほとんど何が起きるかはランダムだった。

 おかげで天井にテレビのリモコンを念写してしまった。

 おそらくは今の僕に足りないのがテレビだったからだろう。少し情けない。


 瞬間移動は欲しかったけど、最初から発動しなかった感じは、想像してもまだ発動したことがないものはそう上手く出てこないということだろう。

 千里眼も身体強化も特にイメージしたわけではなく、適当になんか出ろの感覚だった。

 しかし、適当でも何かしらができることが分かった。

 それなら――



 僕は瞬間移動で台所と思わしき場所へ来た。

 前に母さんが連れて来てくれた場所だ。

 ここは執事やメイドが仕事するだけで母さんや父さんもあまり立ち入らないみたいで、僕もそんなに来たことはないので気になってはいた。

 別にお腹が空いたからここへ来たわけじゃない。実験道具を借りようと思ったんだ。


 どうやらここは裕福な家らしい。

 外から見た家の外観はまるでお城か屋敷。

 広いすぎてまだ行ったことのない部屋の方が多い。多すぎる。

 メイドや執事も何人いるのかは分からないが、顔を覚えたのは三人くらい。

 最初に僕を抱きかかえていたメイドもそのうちの一人で、食事を呼びにくる若そうな執事服を着た女性と、父さんの仕事の手伝いをしている父さんと同じくらいの歳に見える執事だけだ。

 他にもこの台所で料理する人や掃除する人もいるみたいだ。

 この台所もレストランの厨房みたいで広い。お昼も過ぎたし、今は誰も仕事をしていないようだけど。

 僕もこんな所で働きたくなってしまう。

 前世でも両親が共働きで遅くまで働く時とかは自分で作っていたしね。



 よし、あった。

 借りるのはガラス製のコップだ。一つだけ失くしても気にしないだろう。

 次の実験は、物相手に適当に何かを出してみるというものだ。

 何もない場所ではさっきみたいな感じだったけど、物が目の前にあったら何か変わるんじゃないかと考えた。


 どれどれ…………。

 フンスッ!


 右と左の掌をコップの前にかざし、それっぽく目を瞑って適当に力を入れてみる。

 できたかな?

 瞼を開けると、自分の目を疑った。

 何故かガラスのコップが石みたいになっているのだ。

 これってまさか…………。


 石になったコップをチョン、と突いてみる。

 すると――コップは崩れて灰のように床に落ちた。

 嘘でしょ!?


――――――――――――――――――――


NAME:ゼクト・ディア・ヴァルヴレイヴ

HP:?/?

MP:0/0

ABILITY:H

SKILL:EVO

MAGIC:ー

Ψ:XXXXX 浮遊 分身 透明化 念写

瞬間移動 千里眼 身体強化 石化


――――――――――――――――――――


 【石化】だ……。


 背筋が凍った。

 やるわけはないけど、人間相手にやってたら人を殺していた。

 それを想像するだけでおしめが濡れる。

 冷や汗が止まらずどんどん出てくる。

 呼吸が荒くなる。

 僕の力が人を殺せるものだと自覚して絶望した。



 この力は、使ってはいけない力だ…………。

 僕は、人を殺したくはないんだ!!



 コップは砕いて砂状にして恥の方へ寄せて隠蔽工作をし、逃げるように瞬間移動をする。

 僕の寝床に戻ると分身が寝ていて、母さんも刺繍を続けている。

 僕は分身を消し、透明化を解除する。

 僕は恐怖心を抑えるように頑張って眠ろうとするのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ