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賢者の息子に転生したけど魔法が使えない件  作者: 天空 宮
第一章 異世界転生編 ~異世界転生にて幼い僕~
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第1話 僕が赤ちゃんになってる

《完了しました》

《適応を開始》


 よく眠っていたところにさっきも聞いたような声がして朧気に目を開く。

 寝起きだからか視界が悪い。

 ぼやけて何が何だか……。


「―――・―・・・―」


 耳も悪くなってるかもしれない。誰かの話し声とは解るものの、何を言っているのかは解らない。

 どこか外国語のような気もする。日本語とは違う発音みたいだ。


「――・・―――・」


 そういえば、僕はどうなったんだろう。

 確か肝試しとかさせられて――

 そうだ。僕は髪の長い白い髪の女性に追いつかれて、

 それで?

 それからどうなったんだろう?

 どうした?

 僕は確か気絶したはず。

 だったらここは病院か家か――まだ廃ビルの中?

 でも、いつも見る家じゃないことは判る。

 電気が付いているから廃ビルでもないのかな。

 病院…………かな?

 それにしたらなんか病室がやたら広いような……? こんなものだっけ?

 まだ視界がはっきりしないから広く思えてるだけなのかもしれない。体感、僕の部屋四つか五つくらいはあるような……?

 僕の部屋は6畳半くらいだから、えーと…………わからないな。

 昔、親戚のお見舞いで病室は覗いたことがあるけど、大きく見積っても僕の部屋二つ分くらいだっははず。

 それに比べれば二倍以上はある。本当に病室?


「――・・―――」


 うーん。耳がまだ戻らないや。


《完了しました》


「どうしましょう。まだ泣きません」

「き、きっと大丈夫さ。な?」


 あ、戻った!

 泣く?

 ふふん! 聞いて驚かないでよね。

 僕は中学以来もう泣いていないのさ。だから泣き虫呼ばわりすることも高校では1回もない。どうよ!


 目もはっきりしてきて僕は驚く。

 僕が知らない女性にだき抱えられている。黒髪のなんかメイドっぽい格好をした女性にだ。目は緑色でカラーコンタクトもしているところを見ると、メイドカフェとかの店員さんかな。

 恥ずかしいからやめて欲しいんだけど、人見知りな僕に話しかける勇気はなく、目で訴えてみる。


「あっ、少し表情が変わりましたよ」

「本当!?」

「ほらほらー泣いてくださいねー」

「こ、こういう時は私のいないいないばあが効くんじゃないか……?」


 綺麗な銀髪をした中年の男の顔が視界に入ってくるかと思えば、僕に変顔をかましてくる。両手で顔をくしゃくしゃにして豚の真似だろうか?

 正直笑えないし、怖い。

 こういう時、どんな反応をすればいいだろうか。普通に引いた顔をすればいいのかな?

 もう一人は視界に入ってこないが、三人とも僕をまるで赤ちゃんみたいに扱うのはどうしてだろうか。


「す、少し、表情が苦くなりましたが……泣きはしませんね」

「…………私の変顔で泣かないなんて」


 まぁ、そのくらいで泣かないくらいには成長しましたから。

 それにしてもこの銀髪はカツラかな? 目も白っぽいし、どうせカラーコンタクトでしょ?

 僕は手を伸ばし、残念そうにしている男の肩から少しだけ垂れている編まれた髪を引っ張ってみようと思った。男のくせに女性みたいに編み込まれた髪に好奇心がいってしまったのだ。


 ぐいっ!


「痛い痛い!」

「こ、好奇心旺盛な赤ちゃんですね」


 えっ!!?

 すぐには気づかなかったけど、僕の手が赤ちゃんみたいに小さい!!?

 それに今、赤ちゃんって言った!?

 僕に?

 中学生に間違われるのはわかるけど、赤ちゃんに間違われたことはない。

 僕は今、赤ちゃんなのか!!?


「それにしても、どうしましょう。好奇心があるのは分かりましたが、泣かないとなると何か異常があるかもしれません」


 異常!?

 ない! 全くない! 僕は至って平常だよ!

 はっ、そうか! 泣かないって言うのは、赤ちゃんが産まれて直ぐにしなければならない『泣く』という作業を僕がしてないってことだ。

 そういうことなら任せてください! これでも中学まで【泣き虫のかえで】という異名で呼ばれてたんですから!


 僕は静かに息を吸う。気づかれないようにゆっくりと大きく。



「おぎゃあ――――――――!!」



 部屋中、もしかしたらこの家中に響き渡る程の大きな鳴き声を放った。

 不思議なことに僕の声は声変わりのしていないからか高らかにどこまでも音量を上げられる気がした。


「ぎゃぁ――――ん! ひぐ、えぐ、ぎゃ、ぎゃ――――ん!」


 どうですか? これが僕の、僕の? あなた達が欲していた泣き声です!

 これで異常はないでしょう?


「おぎゃ――――――ぁ!」


 あれ? 反応が無いな。これだけ僕が頑張っているというのに。

 メイドさん? それとも病院の人? 早くあやして欲しんだけど。泣き止むタイミングがわからないからさ。


「おぎゃ…………?」


 泣いている最中に違和感を感じた。僕の体がゆっくりと後ろへ落ちているのだ。

 いや、僕を抱えているメイドさんが倒れていっているんだ。

 まずいよ。僕は赤ちゃんだから倒れたらどうなるか分からないよ?

 泣いていて気付かなかったが、見てみると僕を抱えている女性の顔に意識が無いように思えた。

 やばいやばいやばいやばいー!


「おっと」


 間一髪、銀髪の男が女性と僕のことを支えてくれ、ゆっくりと女性を寝かせ僕を持ち上げる。

 ふぅ……危ないところだった。僕の泣き声で気絶しちゃったのか?

 やりすぎたみたいだね。こんなに声を出すこともないからちょっと調子に乗っちゃったかもしれない。

 待てよ?

 ということは、この人が僕のお父さんにあたる人なんじゃないか?

 よく見ればイケメン風。既にいい大人な感じも出ているように見えるあたりは30代くらいなのかな?

 銀髪も染めている感じがなくて、嫌悪感もない。


「さすが私の子だ。元気で可愛らしい」


 …………面目ない。


 この人は、僕の視線にさっきとは別の女性をいれた。汗ばんで近くにある明かりを反射して輝く長い金髪も濡れており、火照ったように顔に熱が帯びている。

 それから察するに、この人が僕の母さん。僕を産んだ母。

 一目で美女だと思わせられ、一瞬心臓がトクンって高鳴った。

 僕が一目でこの人を母だと認識したようだった。

 僕は女性は苦手だが、母さんや年の離れた人には苦手意識はない。

 母さんが僕を抱くと余裕で柔らかい胸が当たる。人生でこれほど豊満な胸を見たことがなく、恥ずかしさより驚きが勝った。


 それはさておき、僕は元の世界で死んだのだろうか。

 あの幽霊に殺された?

 死ぬ死ぬと思ってはいたけど、本当に幽霊に殺されるとは思わなかった。

 まだ実感がない。

 これが夢ではないのなら、せめてこっちで赤ちゃんからできなかったことをやりつくすことにしよう。

 僕が今こうして切り替えが早くできるのも、元の世界では未来を期待していなかったからかもしれない。

 赤ちゃんからなら、誰も成したことの無い偉業だってできるかもしれないしね。

 とりあえずは、そこを目指してみようかな。


「ジュニア、生まれてきてくれてありがとう」


 ジュニア?

 それが僕の名前?

 まぁ別にいいけど。とりあえずは、こっちもよろしくお願いしますと心の中で言っておくよ。



◇◇◇



 赤ちゃんになってから半年が過ぎた。



 あの後、僕には一つ上にミラという名前の姉がいたことを知った。一人っ子ではなかったんだ。

 その子も髪は黒ではない。父さんに似てはいるけど、ちょっと違う。銀髪ではなく白髪で、鮮やかで綺麗だった。

 雄介君もそうだったけど、元の世界で、同じクラスの中で髪を染めた人は結構いたから分かる。彼女も髪を染めたような感じはしなかった。

 一歳で髪を染めていたら、それはそれでどうしたって言いたくなるが。



 僕が見る景色はあまり変わらない。

 周りが身に着けている服装は、洋風の劇で用いられる民族衣装のようだ。

 少しは慣れたけど、現実味が感じられない花やいばらような模様をした天井。

 赤ちゃんだからだろうけど、木製の柵に覆われたベビーベッドに入れさせられていること。

 首を動かせば、僕の本当の母さんじゃない母さん(ややこしい)がいて、

 稀に部屋に入ってくる姉がはいはいして歩き回って、それをあやすメイドがきて、

 高そうな大きいソファーの背中や、

 その奥にあるガラステーブルの上にいつも同じ位置に置かれたティーセット、

 更に奥には、僕や姉の為に置いているのだろう赤ちゃん用の遊び道具がある。

 木製の馬型のゆらゆらするだけの乗り物や今の僕とそう変わらない球とテニスボールくらいの球、

 家の中でやるのかは知らないが、おそらくプールの様にして使うのだろう少し大きめの桶のようなものがあったりする。

 姉はあまりそれで遊ばないみたいだが。

 この部屋の明かりはロウソクだったり、ロウソクをガラスの中に入れて疑似的なランタンのようにしている。

 これらを見ただけで分かるが、僕はどうやら別の世界へと来てしまったらしい。

 ただ、最初はタイムスリップかなと疑っていた。


 異世界と断定付けた決定的な証拠となったのは――


 『魔法』だ。


 元の世界ではファンタジーなどの創作物でよく扱われ、現実では有り得ない現象を引き起こすアレのことだ。


 母さんは、偶に僕や姉を連れて外へ出る。

 その時に見たのだが、家が森の中の丘の上にあり、遠くに街が見えるもののそれほど遊べるような場所はなく、退屈そうな場所のようだと落胆してしまった。

 それとは違って僕の胸を高鳴らせたのは、僕の本当の父さんじゃない父さんが使っていた『魔法』だ。

 何も無い所から一瞬で木を生やし、手をかざすだけでその木を切り刻んで木材にする。

 普通に生えている木を切っていないので、地球に優しいんだ(ここが地球と呼ばれているかは知らないけど)。

 他にも僕に見せる為か空を飛んだり、魔法で生み出した大量の水をわざと被って、一瞬で乾かしたり。

 なんか家事しやすそうな魔法ばかりと思ったけど、もし将来自分もそんなことができるのであれば、ゲームみたいで面白そうだと心躍った。

 ただ最近、父さんは遠出しているようであり、魔法は見れていない。

 つまりは、頼みの綱である魔法も今は見れずじまいでつまらないのである。

 自分が使えるようになるにはまだ先だが、早く大きくなって魔法を使えるように父さんに教えて貰いたい。

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