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賢者の息子に転生したけど魔法が使えない件  作者: 天空 宮
第三章 学院入学編 ~学院にて友人が欲しい僕~
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第26話 七魔師との出逢い

 ベルシア魔法学院。

 あまねく魔法師に知られるそこは、冒険者だけでなく、幼い魔法師の卵にとっても憧れの教育機関である。

 なぜなら、このベルシア魔法学院から卒業した魔法師はもれなく上級国家魔法師やギルドでもかなり上位の役職として配属されるからであり、

 なにより、卒業生の中には戦略級魔法師と呼ばれる一撃で一国を滅ぼすことのできる魔法を行使できる者達が含まれるエリート校だからである。

 ほとんどの魔法師はそこを目指すが、なれる者はそういない。


 しかし、僕は信じている。

 ミラ――僕の自慢の姉さんがそこへ辿り着き、いずれ【賢者】と呼ばれる父さんを超えられる事を。

 もし、僕がその手伝いができるのであれば、幾重の壁を取り除くのに尽力しよう。

 それが、たぶん僕が凄くなる為の支えになるはずだから。


 これは、父さんにも言われたことだ。

 人は、近くにいる者を助けることでも成長し、また強くなれる。


 父さんの側近であるファーノイアさんがいい例だろう。

 元は一介の冒険者であり、名の知れない平民だった彼がエレンさんを一目で惚れさせ、並々ならぬ腕っぱしで敵をなぎ倒すことが出来るようになったのは、父さんと共に在った為だと説明を受けた。

 僕自身もそうかもしれないと思った。

 ミラと一緒にいることで更なる知識をつけ、自己防衛に必要な手立てを取り入れることができると確信してこの場への入学を決めた。


 新しい僕達の成長の場――ベルシア魔法学院に。



 新入生を歓迎するように神々しい日輪が学生街から歩いてくる僕達の通学路を照らしている。

 通学路を吹き抜ける涼しい風は、まるで高緯度地方の海風のように薄く弱い。


 後ろからは友達と合流したのか「おはよう」と挨拶が度々聞こえるが、前に住んでいた家の辺りでは珍しく、まるで前の世界に戻ったような感覚になる。


 しかし、そのぶん女性を見ると無意識に近寄りがたくなった。

 学生用の白いブーツを履いており、素足が見える訳ではないのだが、スカートなのが同じでつい尻込みしてしまう。

 根付いた癖は中々治りにくいというが、前の世界のものなのに、これはどういうことなのだろうかと愚痴を零したくなる。


 高校生成り立ての時には、ツーブロックなんか入れてみて高校デヴューしたのを、今からして思えば恥ずかしい事だったのではないかと思うが、

 そのせいで3日間誰とも話すことがなく、1週間誰の連絡先も貰えなかったという過去がある。皆、僕を不良だとでも思ったのだろうか。

 今回は別に学院入学デヴュー的な事はしていないし、杞憂に終わればいいけれど、友達作りに手間取ったりはしたくない。

 こういうところも異世界に来て成長していると願いたい。

 さすがにまた一人弁当が続く境地に落ちるのは嫌だからね。


 その為に格好もかなり気を遣っている。

 前の世界じゃ一人だけ目立った格好をすると先輩に目を付けられるという風習が無きにしも非ずだったと思うが、

 こっちの世界でどうかは知らないけども、男子のブレザーに似た白を基調とした制服を厳しい教師達にも対応できるように、ぴっちりと着こなしている。

 ネクタイも久しぶりだが、高校の時もブレザーでだいたい同じなので手間取ったりはしなかった。

 魔法に合わせた変な制服だったらお断りだったけど、こういうのは逆に楽でいい。

 しかし、何があるか分からないからとバックを盗まれないように肩にかけて大事そうに持つのは、ひったくりの防止であっても少し情けないだろうか。

 ベルシア王国は、入試を合わせても来た回数が少ないからまだ分からないことが多いのだ。



「きゃ!」


 校門を潜った直後に僕を左横から早歩きで抜かそうとしていた少女が足をくじいてこちら側に倒れ込みそうになるのを僕の視界の一端が触れる。

 僕は咄嗟に右肩を後ろへ下げ、彼女の両肩を掴んで支えた。


「大丈夫ですか?」

「……すみません、ありがとうございます」


 痛みに顔を歪めながら謝罪と感謝をされる。

 しかし、挫いたのが痛そうで再び歩き始めようとしても上手く歩けていない。

 見かねた僕は肩を支えて近くのベンチまで運びだす。


「すみません……」


 少女は、小さくお辞儀をする。



 ベンチは少し遠く、特師校舎の昇降口横の通路に沿って在り、彼女もその間痛がって声を漏らしていたが、なんとか辿り着くことができた。


 ありがとうございます、と頭を下げて腰かける少女。

 足を付けることがなくなって痛みもそれほどこなくなったのか表情もすっきりとしていた。


「捻挫かもしれませんね……。すぐに先生を呼んできます」

「あっ、あの! 大丈夫です」


 女性に触れすぎて胸打つ鼓動を抑えるようと校舎の中に先生を呼びに行こうとする前に少女は僕の足を止めさせる。


「だけど、このままというわけには……」

「そのうち友人がそこを通ると思うので」


 そう言ってここに来るまで通ってきた通路を指差す。


「その方は、回復魔法が使えますか?」

「はい。ですから大丈夫ですよ」


 屈託のない笑みをするので、これなら大丈夫だろうと思惟を巡らせる。

 改めて少女を上から拝見した。

 美少女なルックス、細身であるのにブレザーを押し出す胸元の膨らみ、

 黒の長い艶のある髪や制服の着こなしからも清楚さを感じられるが、表情の動きやオーラ的な観点からどこか蠱惑的こわくてきな雰囲気を醸し出していた。

 僕は反応が難しく、無言になるのを恐れて少女の制服の綺麗さから新入生ではないかと思って話掛けることにする。


「やっぱりブーツっていうのは普段履かないでしょうし、それで慣れていなくて足を挫いてしまったんでしょう。

 今日は入学式で正装をしなくてはなりませんが、明日からは履かなくてもいいらしいですよ」


 ミラに聞いた内容を含め、知識を披露する。

 しかし彼女は、含み笑いをするだけで何も言ってはくれなかった。

 僕は迷惑なことをしてしまったかなと勘繰り、愛想笑いをしてその場を立ち去ろうとする。


「じゃ、じゃあ、お大事にしてください」

「あの!」


 二度目の呼び止めに機敏に振り返る。もしかしたら学院内での友達第1号になってくれるかもしれないと思ったのだ。


「わたくし、5年のリアス・レーションと申します」


 ああ、自己紹介か。

 って、5年!? 5年生でブーツ履いて足を挫いたの? 普段履いていないから?

 いや、ミラだってオシャレで偶に履いているし、もういい歳の女性で5年間も履いているブーツで挫くなんて、相当運が悪いんだね。

 そんな驚きを伴うツッコミを心の中に収めて名乗り返す。


「あっと、僕は、ゼクト・ディア・ヴァルヴレイヴです……」

「あのゼクト様でしたか。お会いできて光栄です」


 5年生ともなれば、姉のミラを知らないはずはない。

 ミラは、この学院で既にかなりの権力を有する有名人のはずだ。

 そのミラの弟のゼクト・ディア・ヴァルヴレイヴ二世が魔法の使えない落ちこぼれであるのは、とうに周知の事実。

 落ちこぼれと心の内で思っての「あの」だろう。

 そう思い、とりあえずの会釈だけをする。


「入試、見ていました」


 まずい、の一文字が頭の中で湧き出してくる。

 このリアスさんは、入試のどの部分を見たと言っているのだろうか。


 固唾を飲んで次の言葉を待とうとすると、後ろから肩をトントン叩かれる。

 振り向くと――昔、誰もやりたがった肩を叩いて指を頬に刺すという遊びをここでやられた。

 犯人は、むすっとしかめ面をしているミラだ。

 彼女が怒っている理由は想像できる。

 ミラは、昨日僕に「明日の朝、学生街図書館前で待っていなさい。迎えに行くから」と命令していた。

 僕は、それを破って先に出てきたので怒っているのだろう。

 しかし、15にもなって姉と登校するというのはどうだろうか。

 相手が12の妹ならまだしも、僕はこちらの世界ではもう大人であると認定も受けている。

 僕ももう大人であると知って貰わなければ、と恐る恐る反論しようとした。


「僕は――」

「リアスさん、わたしの弟に何か用でしょうか」


 しかし、ミラはベンチに座るリアスさんへと相手を変えて前に出る。

 ミラも知るくらいには彼女も顔が広いようだ。

 華奢な体からは想像できないが、確かに魔力は秘めたものがある。

 身に纏うオーラは、わざと隠すようにまじまじであるものの、隠すことができている技量を思えば、かなりできる人だというのは想像できる。


「すみません、貴女の弟というので少し観察したかったのです。間近でね」


 最後に違和感のないウインクを添えて無邪気な笑顔を振舞う彼女は、ベンチから立ち上がっても足を痛そうにはしていなかった。


 なぜ僕は最初に気付かなかったのだろうか。

 彼女は僕を抜かそうとするくらい急いだ足並みだったのにも関わらず、その後の言動や行動、表情からはまったくそんな素振りは見られなかった。

 むしろ、いつ来るか分からない友人を待つという選択も愚策だったはずなのに。


「またお会いしましょうね、姉弟共々」


 姿勢正しく、綺麗な脚並みで歩き始め、彼女は特師校舎へと入って行く。

 それを二人で見送った後、ミラは僕にいぶかしんだ表情を向けてきた。


「……気を付けなさい。あの人は、この学院で最も実力がある七人と評される七魔師ヘプタマゴスの一人――慈悲じひかんむりかぶ小悪魔こあくまと書いて『慈悲の冠被る小悪魔(レ・ロア・ディアブロ)』の異名を持つ厄介な女よ」

「確かに僕も騙されたし、解るけど、『小悪魔』っていうのは弱そうじゃない?」

「あの人の専売特許は、騙しにあるのよ。アンタは正直すぎるし、人を信頼し過ぎる節があるから要注意しておくことね。

 特に、異能があるってことを知られたくないなら尚更よ」


 僕は苦笑いで返すが、心の中では彼女に入試を見られていた時点で手遅れになっているかもしれないと心配事が主張を強めていった。

 ミラも考え込むように腕を組み、右の人差し指関節を唇に当てる。


「まさか、開始当初から面倒な者達の一人に目を付けられるなんて、運が悪いとしか言えないわ」

「だ、大丈夫だよ。僕、上手くやる自信あるし……」


 ミラの心配事を晴らしたい一心で強がる。


「あの人も十中八九グランドアリーナに出場するだろうから、メンバーをあまり見られたくはなかったのよ」

「だ、だよね……ごめん」

「それはいいから、わたし達も中へ入るわよ。余計な時間をくってアンタのリハーサルをしそびれるかもしれないしね」


 ミラが言っているのは、僕が新入生代表挨拶をするから、その練習をする時間のことだろう。

 試験の結果が誰よりも高かったことを評価されて選ばれてしまったのだ。

 僕としては断りたかったが、代々の習わしであり、ミラもやったというから仕方なく了承するしかなかった。

 その練習をこの一週間してきて、最後の詰めをこれからやるというのだからせわしない。


「練習はもういいよ。これまで散々やってきたし、これからやって緊張が高まるのは嫌なんだ」

「……少しは成長したじゃない。

 挨拶は、わたしも見てるから父様の名に恥じないものにしなさいね」

「うん、分かってる」


 「ならいいわ」という笑みを見せて振り返り、自身の髪を払う様を見て、少しは信じて貰えているんだと思った。


 僕の人生は一応二度目であり、前世でできなかったことをやり遂げ、新しいことに挑戦するのもやぶさかではない。

 そして、これからは姉さんに恥をかかせずに成り上がらせるのも僕の務めになるわけだ。

 彼女を前にして失敗するのは絶対に有り得ない。

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