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賢者の息子に転生したけど魔法が使えない件  作者: 天空 宮
第二章 入学試験編 ~学院にて入学したい僕~
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第17話 入試:実技試験-1

 ベルシア王国。

 東と西、そして中央の3つに分かれるノーザンクラウド大陸。その東大陸西部に位置する最大の国。

 比較的戦争が少ない国ではあるが、魔法が発展している。

 魔法が発展しているから戦争が少なくなっていると言い換える事も出来るだろう。

 それも全て周辺諸国と協定を結び、魔法の研究に力を入れているベルシア魔法学院があるおかげだ。

 世界各国から優秀な人材を集め、習熟させてギルドなどに輩出することによって魔法師の発展を促している。


 ベルシア魔法学院は、他大陸で魔法の研究を進める学院とも同盟を結んでいる。

 デーベス魔法学院。

 フーアランクルシュ魔法学校。

 どちらも西と中央大陸で名高い学院であり、魔法研究の成果発表を一同に集まって行うこともある程だ。

 これら3つの学校を総称して『BDF魔法連合』と呼び、一部では危険視さえされている。


 その学院があるのは、ベルシア王国中央から少し北にある大都市、魔法都市エルミナである。


 『ベルシア魔法学院』の他、ベルシアギルド――別名『魔剣ギルド本部』 『エルミナ魔道具工房』 『ベルシア魔法訓練場』などといった、

 魔法を追求、享受できるものが備わっている。

 これほど凝縮された環境は、東大陸ではここ以外ない。


 魔法都市エルミナを上空から見ると、

 外界から隔離されるように魔法結界が張られるベルシア魔法学院が城の如く学生街と共に中央に佇み、

 北に魔剣ギルドを要する冒険者エリア。

 東に魔道具工房を要する工房、商業エリア。

 西には学院所有の魔法訓練場やギルド所有の宿がある。

 南には宿場街や住宅地域がある一方、誰も立ち寄らない端の方に国所有の厳重に守られた保管庫があったりする。

 学院だけが過保護のように結界で守られているのを見て、国がどれだけここが重要な場所と位置付けているのかが分かる。この範囲の結界魔法を常時発動させるのは容易じゃないからだ。

 学生やその保護者からすれば、これほどありがたいものはない。


 僕は昨日、宿場街で宿を取った。

 僕達が住む家は、東大陸の中でもずっと東の方にあり、ベルシア王国は遠い。

 来るのに馬車でも半日以上かかった。

 親からも過保護の域を超えるレベルでお金を貰っていた為、グレードも最高ランクの宿を取った。

 特にこっちで買うものも食料以外にはないし、宿くらい値が張ってもいいだろうと考えたのだ。

 おかげで馬車に揺られ続けて疲れたが寝起きがいい。


 持ち物は特に多くない。

 腰に巻いたバックパックにお金に身分証、父さんの伝手で書いてもらった推薦書と学院のパンフレットが入っている。

 あと護身用に鉄製の片手剣を腰に刺してある。

 忘れ物をしても瞬間移動を使えば、一度着た事のある場所へは行き来ができる為、取りに行くこともできる。


 装備も軽装だ。

 駆け出しの冒険者風に皮の防具を着ているだけ。

 客観的に見れば、全然お金を持ってそうじゃないから余計な事件が起きなくて済む。


 今日は僕としても待ちに待ったベルシア学院への入学試験当日だ。

 緊張とワクワクを胸に学院の結界の中へと足を踏み入れていく。


 ここへ来るまでに増えてきたとは思っていたけど、足を進めるうちに他の入学希望者も多くなっていて心が狭く感じる。

 他の希望者は、基本的に二人以上のグループを作っているからだ。

 最初から友達がいる感じは、高校入試を思い出す。

 気持ち的にはあの時と何も変わらない。

 ここにはミラ姉さんもルーナさんも去年入学したが、入学試験となると友達のいない僕は一人きり。

 まぁ、そんなのは試験とは関係ないと思うけど、気持ちを調節するのが一人だと難しいってだけ。



◇◇◇



 前もって知ってはいたけど、思った以上にベルシア魔法学院は広い敷地を持っていた。


 一つの街を超えるであろう広大な敷地が何重にも連なる煉瓦でできた棟が並び、中央にはどこかで見た王国の城を彷彿とさせる建物が存在している。

 昔は城として使っていたようにも見え、これが学校とは少し笑ってしまう。

 テレビのコマーシャルで見た大学を城っぽくすればこうなるんじゃないと想像できた。


 校門前まで来ると、長机の前に座る入学希望者の受付をするギルドの受付嬢3人が希望者に紙に名前を書かせているので、その人に推薦書を見せる。


「おはようございます」


 もちろん印象を悪くしないよう一応の挨拶もする。

 受付嬢は推薦書を見ると笑顔で頷いた。


「おはようございます。ゼクト様ですね、承っております。

 学内の地図はお持ちですか?」

「はい」

「では、こちらの番号を持って中広場へ御入りください」

「ありがとうございます」


 四角く小さな板に『118』と書いてある番号を受け取ると、僕は横を通り過ぎて中へと入っていく。


 学院とギルドが協力関係だからなのか外での受付はギルドの受付嬢がやってくれるんだな。

 教員は教員で他にやることがあるって事かもしれない。元の世界じゃない感じを見ると、やっと始まったと気持ちが引き締まる。


 パンフレットの地図によると、校門を入ったら直線に進み、校舎まで行ってから少し左に行くと中広場へ続く通路があるように書いてある。

 しかし、他の希望者も同じ方向へ行くのでそれに付いて行けばいいだけだ。


 道の両脇には草木が生い茂っている。

 もしここが元の世界なら、クリスマスとかにはライトアップされて上空から綺麗に見えるだろう。

 さらに奥には、校門に沿って3メートル程の壁がそびえ立っており、それら全てから魔法無効化の類が掛けられている感じがする。

 完全に魔法を無効化できるような代物ではないが、威力を抑えるには有効だろう。

 誤って魔法を当ててしまった時の為の耐性だろうか。

 僕は魔法を使わないから別に気にする必要はないだろうけど。



 前方の同じ入学希望者を付いて行くと、かなり大きい広場に出た。

 そこには多くの同じ境遇の者達がいて、

 こういう時に「まるで人が虫のようだ」って言うんだろうな。

 ざっと2000人はいるだろうかという様子で倍率も高そうだ。

 ここから生き残れるのは、大体300人前後らしい。

 年によって上下あるけど、中々どうして厳しい世界だ。


 他には、おそらく実技試験で使うことが予想されるドラマなどで見る銃の訓練で使うような円形のまとが一定の間隔で立ち並んでいたり、木人形や、木剣の束も大量に用意されてある。

 端の方には用具入れ用と思われる大層な倉庫なんかもあった。


 視点を変えて少し上を見れば、巨大な校舎群がある。

 見える範囲で4つ、東西南北に分かれてそれぞれある。

 これがパンフレットで見た、学年によって分けられる校舎なのだろう。

 それぞれの校舎から多数の視線が送られてきているのを感じるあたり、誰かしらがこの試験をそこから窺っているのは間違いない。

 生徒も教師もいるだろうけど、見られるというのはあまりいい気持ちはしない。試験されているみたいだし。

 これから試験されるんだけどね。

 どうせミラ姉さんも見ているんだろうな。

 気配探知をしたらすぐに判るだろうけど、見られてるって意識するとポカやらかしそうだから止めておこう。



◇◇◇



 試験開始時刻が近づいて中広場に10人の教師陣が入ってきた。

 ここの学院の教師陣の正装なのかそれぞれ青いローブを着ている。

 また、教師ということもあって強そうで強い眼差しを受験者全員に向けている。

 今回の試験官がこの教師陣になるというわけだ。

 この人数で全員を採点するのは無理だと思うが、

 おそらく、僕達を採点する主な人達は4つの校舎にそれぞれ配置されている教師達になるんだろう。

 今いる10人は、ほとんど進行がメインになるはずだ。


「それでは――」


 試験官の一人がこれから初めの挨拶でもするかに思われたその時、人ごみに紛れた僕を含む受験者を押しのけ、試験官達の前へ出て行く者がいた。


「ちょっと待ってくれ!」


 おっと……。

 なんだ、あの人?


 人2人分の肩幅のある大男で、明らかに学生には見えない。

 肌が黒人のように黒くて目力があり、茶髪の中分け君だ。


「何かね?」


 男が受験者を抜けて前へ出てくるので、気難しそうな老けた白髪の試験官が眼鏡を上げながら聞いてあげていた。


「俺ぁ、『荒原のグーフィ』と名の知れている冒険者だ。

 なぜ俺にまで試験があるのか聞いてもいいか?」


 男は偉そうに試験官を見下ろして眼飛ばしている。


 荒原のグーフィ?

 冒険者になるとそんなものが名付くのか……。

 普通に嫌だな、なんかダサい。


「ふん。それならば、他の受験希望者にも説明しておこう。

 実績のある冒険者には、学院側から入学していただきたいと勧めることがある。それらの人材には基本的に入試を行わずに入学して頂くようなシステムを構築している。

 しかし、これはこちらが欲しいと思った人材だけに限る。

 いくら冒険者として実績を上げようが、何かしらの異名や称号を獲得しようが、他はそれから除外され、入試を受けて頂くことになっている。

 グーフィ君、君へは学院からの推薦が出ていないはず。であれば、入試を受けるのは当然の事、という訳だよ」


 試験官は、グーフィという男をいなすように言い放ち、それを受けたグーフィは悔しそうな顔をして怒るかにも思われたが、不貞腐れた雰囲気で受験者達の中へと戻ってきた。


「……けっ!」


 ワンチャンあると思ったのだろうか。

 しかし、学内は冒険者だった者達とも共に過すことになるようだ。

 僕は実績が無い分、バカにされないか心配だな。

 とりあえず、入試であっても目立つのはよそう。



 その後、入試スケジュールの説明があって、さっそく魔法と武術の実技試験が始まった。

 魔法と武術を平行して試験が行われるわけだが、僕は先に魔法の方に振り分けられた。

 使用する魔法は攻撃魔法であれば自由で、自身の得意とするものを的を狙って発動させればいいらしい。

 的の前に並ぶ列の中で他の受験者が当然のように魔法を発動させるのを見て緊張が高まっていく。

 そして、緊張をほぐそうと深呼吸している間に僕の番になってしまった。

 横で他の受験者が淡々と魔法を撃っているのに対して、本番の緊張がどっと押し寄せてきて硬直してしまう。


「そこの君、早く魔法を撃ってみなさい」


 採点している試験官の一人から催促が入れられて、更に委縮してしまうのが分かった。

 どうしよう…………魔法、魔法を撃たないと。

 魔法? どうやって撃つんだっけ?

 早くしないと、採点してもらえない。

 採点してもらえなかったら、落選するかも。

 採点してもらえる魔法を撃たなくちゃ。

 何の魔法を撃てばいい?

 何の魔法――


「どうした? 緊張してんのか坊主」


 後ろから肩に手を乗せられ、咄嗟に振り返る。

 そこにあったのは――変な顔だった。

 獣に引っ掛かれたような爪痕が両方の垂れ目を通過するように付けられており、顎が割れ、茶色いアフロヘアーをしていて顔だけで色々ありすぎだろと思うような、長身でかなりのマッチョさんだった。

 なんだこの人、さっきの目立ってた人と同じ感じかな。

 顔だけでかなり目立つと思うけど、ここまで来ると逆に面白い。


「大丈夫だ坊主、別に試験やって死ぬわけじゃねーだろ。気楽にやれよ」


 顔には似合わないような事を言われて我に返ることができた。

 別に何かを失う訳じゃないし、何を言われても僕がやることが変わることはないんだ。

 この人の言う通り、気楽にやろう。


「すみません、ありがとうございます」

「いいってことよ。頑張れ」


 粛々と感謝を告げると、軽く返してくれ、背中も叩いてくれた。

 何かこういうのが久しぶりな感じがして嬉しくなってしまって、少し和んだ。


 的をやっと見る事ができると、ゆっくりと右の掌を上げる。

 僕ができる魔法なんてそんなにない。

 気負う必要もなかったんだ。


「【斬刃(スラッシュ)】」


 掌から空気のブレを引き起こし、それが斬撃と化すと狙った場所へと瞬きする間もなく的へと飛んでいく。

 斬撃は、一瞬で的を上下に両断した。


「ありがとうございます。あなたのお陰で緊張が解けました」

「へっ、やるじゃねーか!」

「えへへ……」


 再び後ろの人に礼を言っていると、会場が静まり返っているのに気が付いた。

 なぜか横の列の受験者の手も止まっていたのだ。

 進行を努める試験官もなぜか唖然している。


 暫くして気付く。

 そうだ、僕、魔法の試験はやらないって決めてたんだった!

 僕が使う異能は無属性魔法に属するから目立つと思って魔法分野はできないって進言するつもりだったのに…………。

 緊張して忘れてた。自分もそれくらいならできると思っちゃったのかな。

 失敗した…………。


「まさか、的を壊すとは…………」


 的?

 試験官が漏らした言葉を聞いて他の的を見てみる。

 確かに焦げ跡が残っているものはいくつかあるけど、壊れている的はない。

 よく見てみると、学院の壁に掛けられていたような魔法無効化の類が感じられる。

 こちらも無効化ではなく、少し威力を抑えられるという代物だろう。

 その耐久性を僕の異能が超えた事に驚いているのか。

 ということは、あまり魔法の方は見られていなかったってことかな。

 とりあえず、僕の試験は終了ということであまり顔を見られていない内に人ごみに紛れよう。


 僕は他の人に何か言われないうちに苦笑しながら受験者の中へと潜って行く。

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