5:推理しちゃった!
いやぁー、まさか警察庁長官やら大臣やらに庇われてたなんて知らなかったわぁ……。
そんな衝撃の事実が判明してから数日後、俺は捜査一課のメンバー数名と共に大きな屋敷に招かれていた。
といってもめでたい理由じゃない。この屋敷で、殺人事件が起きたからだ。
ぐでーと横たわる死体を見て、謎解きのプロである老刑事の佐藤さんが唸る。
「ふぅむ、被害者はこの屋敷の主人である『大金 望夫』さんですが。……白木警部、この事件をどう見ます?」
と、なぜか俺に話を振ってくる佐藤さん。
何だか知らないが、俺はこの人からめちゃくちゃ信頼されていた。
こういう事件が起きた時、なんか知らないけど勝手に犯人が俺に名乗り出てくることがあるんだよなぁ。
それでなぜか俺が事件を解決したことになっちゃってるんだよ。
はぁ~あ。俺、推理小説すらまともに読んだことないんだから勘弁してくれよ。
唯一読んだ作品もあるが、それもラノベでなんか大昔の中国の毒見役の子がなんやかんやする話だから現代に活かせねーよ。
……まぁテキトーに「ふむ」とか頷いておくか。
「死因は胸を突き刺されたことによる失血死。しかし凶器は見つからず、ですか。普通に考えたら犯人が持ち去ったのでしょうが……」
などとアホでもわかることを喋っておく。
ポイントは最後に言い淀むことだ。文章にすると「……」と付けることだ。
すると佐藤さんは目論見通り言葉を継いでくれた。
「えぇ、そんな単純な事件ではないと私の刑事の勘が告げています。……失礼な話、大金さんはあまり素行のよろしい人物ではなかったらしく、内部の者の犯行も考えられる。
そこで容疑者として、この屋敷で使用人をしている三名に集まってもらいました」
俺の前に立つ三人の執事さんたち。
彼らは全員青い顔で亡き主人を見ていた。
「そんなっ……たしかに大金さまは横暴なところもありましたが、殺すなんて……」
「外部の者による犯行に決まっています! 大金さまはトラブルを起こすことも多いから……」
「恨んでる人は山ほどいますよ!」
……大金さんの評価ボロボロやんけ。どんだけ悪いヤツだったねんこの人……。
うーん、これで一人だけが大金さんを恨んでいたなら事件もわかりやすかったが、たくさんの人に恨まれてるとなったら逆にわからないぞコレ。
なんてマイナス方向に難易度の高い事件なんだ……!
それからは佐藤さんも困った顔をしながら話を聞いていった。
大金さんが死亡したと思われる五時間前、執事の一ノ瀬さんは調理も担当しているのでキッチンにいたとか。
二葉さんは買い物に出ており、三嶋さんは外の雪かきをしていたらしい。
三人の手荷物も検査することになったが、特に怪しいものは出てこない。
となると、
「ふぅ~む、調理を担当していた一ノ瀬さんが怪しくなるかもですなぁ。調理場にはいくつもの包丁がありますし……」
「そんなっ!?」
佐藤さんの呟きに一ノ瀬さんが狼狽える。
「じ、自分はただ、大金さまに言われてケーキを焼いていただけなのに……あの人太ってて大食いだから……!」
む、ケーキか。ケーキといえばもうすぐクリスマスだよなぁ。
少し前まで残暑を感じる毎日だったのに、最近はすっかり寒くなってきたもんだ。
……でもこの部屋はちょっと暖房が利き過ぎじゃないか?
俺、コート着てるし立ちっぱなしだしなんだか汗が出てきたんだけど。
ちょっと窓を開けさせてもらおーっと。
すると、
「これは……」
窓のひさしから氷柱がいくつかぶら下がっていた。
お~ずいぶんと立派な氷柱だ。もうすぐ30歳な俺だけど、こういうの見るとテンション上がるよなぁ!
一本もぎ取ってっと……あら、部屋の中が熱いせいかすぐ溶けてきちゃった!?
うわどうしよっ、現場を汚しちゃったよーッ!
そうして俺が困ったまま立ち尽くしていると、佐藤さんが「ハッ、流石は白木警部ッ! それですよそれ!」と叫んだ。
「なくなった凶器……溶ける氷柱……そして被害者の大金さんは太っているというのに、妙に温度の高い室内……ッ!
謎は解けました。犯人は氷柱で大金さんを刺した後、水気が乾いて血に紛れやすくするよう温度を上げていったんです!」
え、そうなの!? 俺ただ遊び半分で氷柱ぬいただけなんですけど!? 『子供のころアイスソードとか言って振り回して怒られたな~』って懐かしさを感じてただけなんですけど!?
というかアレだ。
もしも屋敷の周囲の人間から、氷柱を抜いているところを見られても不自然に思われない人物がいるとしたら――、
「うぅぅうううう……刑事さん、私がやりましたぁ……ッ!」
そう言って、雪かきをしていた三嶋さんが俺の前に膝をつくのだった。
――って、俺なんの推理もしてないんですけどぉおおーーーーーーッ!?
・現場を汚すだけで給料をもらう男、白木――!(※もうすぐ30歳)
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「俺は長男だから諦めない」~『ファイヤーボール』しか使えず『ブラックギルド』を追放された俺、『10万年』修行したことで万能魔法に到達する。戻れと言われても『もう遅い』。ホワイトな宮廷に雇われたからな〜
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