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4:忖度されちゃった!



 ――とんでもないことが起きてしまった。


 昼間に通り魔から助けたお嬢さんだが、なんと彼女は警察庁長官の娘であることがわかったのだ。

 例の通り魔は先日警察に潰されたばかりのヤクザで、その復讐のために彼女を狙ったことが判明した。


 というわけであれから数日後の夜、俺は長官『大十字 誠二郎』様の邸宅にお呼ばれしていた……!


「わっはっはっはっは! いやぁー白木くん、キミには本当に感謝しているッ! キミがいなかったら娘はどうなっていたことか!」


「いえ……」


 豪快に笑いながら日本酒(たぶん十万以上するやつ)をグビグビ飲む大十字さん。

 そんな彼に気圧されながら俺も酒を飲むが、緊張で味が分からなかった。


 だって警察庁長官といえば警察組織のトップだぞ?

 約二万六千人を束ねる大集団の長だ。そこらへんの社長よりよっぽどすごい権力を持っている人物だ。


「フフッ、噂通りの冷静さだなぁ白木くん。たまに若手を飲みに誘うことがあるが、どいつもこいつも緊張でガチガチに震えているかおべっかばかり使ってきてつまらんのだ。その点キミは、自然体でいい」


 そう言ってニッと笑う長官殿。


 ――って俺だって緊張でガチガチになってるよ! 自然体ならスーツ脱いでグビグビプハァーとかやってるところだよ!

 でも警察になってから十年間、たまたま車で犯人を半殺しにしちゃった時から『冷徹な執行者』ごっこをしてきたことで、鉄面皮がすっかり板についてしまっていた。

 特に最近は注目されることが多いからなぁ。

 なんか雑誌から取材とかも受けるようになっちゃったし、俺が自然体でいられるのはもう自宅くらいだよ……。


 ってそれはともかく、


「娘さん、あれから大丈夫でしたか?」


「あぁ、静香のことなら問題ない。念のため大学を休ませているが、キミが優しい言葉をかけてくれたおかげで精神的にも落ち着いている」


 そりゃよかった。というか静香さん、女子大生だったんだな。


 学生なのにヤクザに狙われるなんて大変だよなぁ……。

 豪邸に住むお嬢様だからって、いいことばかりじゃなさそうだ。


「ハァ、馬面組のヤクザだったか……本当にとんでもないことをしでかしてくれたわ。キミが容赦なく銃を撃ってくれなかったら、今ごろ娘はこの世にいなかったかもしれない」


 大十字さんの言葉には強い怒気が滲んでいた。

 家族を狙われたのだから当然だろう。彼は酒をグイッと飲み干すと、力強い目で俺を見つめた。


「さて、せっかくの機会だしネタバラシといこうか。

 なぁ白木くん。薄々勘付いているんじゃないか? 『過激な捜査をしている自分が、誰かに庇われているんじゃないか』、と」


 それは……たしかに考えたことがある。

 偶然で犯人を半殺しにしてきた俺だが、故意だとしてもやりすぎだろう。

 どうして俺みたいなヤツがまだクビになっていないのか常々疑問に思ってきた。


「まさか大十字さん、アナタが自分を……?」


「あぁそうとも、キミが喜んでくれると思って動き続けてきた。

 約十年前、テロリストたちが潜伏したアジトにキミがパトカーで突っ込んでいって全滅させたあの日から、我輩はキミのファンなのだよ……っ!」


 そう言って俺の肩を強く掴む大十字さん。

 その目はまるでヒーローを見る子供のようにキラめいていた……!


 って、えええええーーーー!? 俺ってば警察庁長官じきじきに庇われてたの!?

 いやいやいやちょっと待ってくれ! それ完全に忖度そんたくってやつじゃねーか! 権力の濫用じゃねーか!


 というかテロ組織を全滅させたあの一件だって、本当にたまたまだからね?

 坂道を降りているときにブレーキとアクセルを踏み間違えちゃった結果、ちょうど前方にあったテロ組織の隠れ家にアタックしちゃっただけだからね!?

 それでファンになられても困るから~!


「あぁ白木くん……キミはまさに我輩の理想だ。

 最近は人権屋どもがうるさくてねぇ、犯罪者の身柄も丁重に扱わなくてはならなくなってしまった。

 ――だがしかし、おかしくはないか? どうして人を平気で傷付ける社会のゴミクズどもに、我らが配慮しなくてはならん!?」


 そう言って彼は机をドンッと叩いた。

 どう考えても問題発言だ。警察のトップが言っていいセリフではない。


 だけど、彼の瞳は真っ直ぐな光に満ち溢れていた。


「殴っていいんだよ悪党はッ! その様を民衆に見せつけてこそ、犯罪の抑制につながるんだろうが!

 このままでは日本はダメになる……そんな思いをずっと抱え続けてきた時だ。我輩は、キミという容赦なき正義の使徒に出会ったのだよッ!」


 俺の手をギュッと握ってくる大十字さん(ひえっ!)。

 彼はどこまでも目をキラッキラとさせながら言葉を続ける。


「あのテロ組織を全滅させた件は本当にお手柄だったよ。だが警察の上層部は荒れた。『何人も人間をねた男など辞めさせるべきだ』とね。

 我輩はどうにか庇おうとしたが、反対派はとても多くて旗色が悪かった……」


 いやそりゃそうなるだろうよ。むしろどうやって勝ったんだよアンタ?


「それで、どうしたのですか?」


「うむ、そんな時だ。私と同じく、今の警察の在り方では日本はダメになっていくと考えている人物が現れてねぇ。

 彼女は非常に頭が良かった。白木くんのルックスにも目を付け、『正義の執行者』のキャッチコピーをつけてアイドルのように売るようメディアを利用したんだ。おかげで若者たちを中心にキミは大人気となり、ウザい人権屋どもを黙らせることに成功したわけだ」


 戦いは数と勢いで決まるわけだな~と大十字さんは上機嫌に笑う。

 

 あ、ああそういうことね……俺が警察なのに雑誌取材とか受けることが多いのはそういう理由があったのか。

 田舎では『髪の毛真っ白だし細長くて白くてモヤシみたいな身体してるしダッセー』とよく笑われていた俺だが、都会ではなぜかウケがいいらしい。

 このまえなんて写真を撮られまくったし、密着取材企画も決まってしまった。


「なるほど……俺みたいな男を持ち上げられても正直困るところですが……」


「フハハッ、そう言うなよ白木くん! 今では警察上層部にもキミのファンは多いのだからっ! もちろん例の彼女もキミのために日夜動いてくれているよ」


 いやいやいやいや……俺みたいなウッカリ人をいちゃったり誤射しちゃうようなヤツを庇っちゃダメだって……!

 一体誰なんだよ~この長官サマに協力して俺を持ち上げることにした人物って。


「大十字さん、その彼女というのは?」


 そう問いかけると、彼は「内緒にするんだぞー?」と前置きし、そして、


「現職の法務大臣、風鳴 夕子様だ」


 えっ……えええええええええええええええええーーーーーーーーーーーーー!?

 ほほほほほほ、法務大臣ッッッ!? それって司法のトップじゃねえかーーーーー!?


 ……かくしてこの日、俺は警察庁長官と法務大臣に忖度そんたくを受けまくっていた事実を知ることになったのだった。


 ってなんだそりゃふざけんなッ!

 俺、この人たちの期待を裏切っちゃったら一体どうなるわけーーー!?




警察長官「白木くんステキ!」

法務大臣「日本よくなる!」

メディア「視聴率稼げる!」

日本国民「犯罪者減って嬉しい!」


よし、みんな幸せだな!

そういえば推理ジャンルだったんでそろそろ推理します



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― 新着の感想 ―
[一言] ◁テロリストたちが潜伏したアジトにキミがパトカーで突っ込んでいって全滅させた サラッととんでもないことがあって笑ったw
[一言] 良いね、こういうの。 オレも昔のクソ上司等、轢いて周りたいわw
[気になる点] え?推理ジャンル あぶない刑事から 相棒路線に!Σ( ̄□ ̄;)
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