1:人間跳ねちゃった!
「ああああああっ、また遅刻する!」
俺は悲鳴を上げながら純白のスポーツカーを走らせていた。
十年ほど前、警察官になるために田舎から出てきたときに買った中古車だ。
“新人がスポーツカーとか生意気すぎるだろ”と思うが、ド田舎に住んでいた俺にはそんな知識はまったくなく、しかもめちゃくちゃ高かったため乗り回し続けて今に至る。
俺はかなりの貧乏性なのだ。
ってそんなことはどうでもいい!
今日は連続殺人犯をみんなで追い詰める仕事があるのに、完全に寝坊しちゃったよーーー!
「うおーーーーーーーーー間に合えーーーーーッ!」
大人なのに遅刻なんてして堪るかっ! こうなったら現場に直接乗り込んでやらーーー!
そうして住宅街を爆走していた、その時。
――ドンッ!
「あっ」
……走る衝撃と吹き飛んでいく人影。
気が付いてきた時には、俺は曲がり角から飛び出してきたオッサンを跳ね飛ばしてしまっていたのだった。
「って、ああああああああああああッ!? また人をひいちゃったーーー!?」
すぐに車を止めて転がっているオッサンに駆け寄る。
うわーどうしよっ、傷だらけで白目剥いて倒れてるよ! もうこれ示談じゃ済まないレベルの大事故だよ。
「つーか生きてる……!?」
そうして俺が脈を確かめようと、オッサンの首元に手を置いた瞬間だった。
遠くのほうから「やりましたねっ、白木警部!」と俺の名前を叫びながら複数の警官たちが走ってきた。
え、やりましたねって……まさか?
「逃走していた『女子高生十人連続殺人犯の豚山太郎』、8時29分に確保ッ! お手柄ですね白木警部……やり方は相変わらずですが」
また怒られますよぉと苦笑する警官たち。
しかしその目には俺に対する尊敬の念が宿っていた。
って、コイツが犯人だったのかよ!? いやいやいやいや、俺そんなこと知らずに跳ねちゃったよ!?
――でもそんなことを言えるわけがない。
偶然ぶつかっちゃったんです~とか言ってみろ、ヘタすりゃ俺が捕まるぞ?
つーかこれで犯人轢くの三十人目だし。
……というわけでここは黙っておくに限るな!
俺は純白のコート(※中古)を翻しながら立ち上がり、メガネをくいっとインテリっぽく上げて言い放つ。
「――執行完了。さぁ、戻るぞ諸君。次なる悪党を捕まえるために」
『はいっっっ!』
……俺の考えたすげえテキトーなカッコいいセリフに頷いてくれる警官たち。
犯人を車で跳ねたり銃を誤射して半殺しにしてきた結果、俺は警察界隈から『悪を許さぬ純白の執行者』『苛烈なる正義の使徒』『白き狩人』とか呼ばれて、なんかめちゃくちゃ尊敬を集めているのだった。
って待ってねみんな!? 俺、実際はドジでクズなだけだから!?
この変なキャラクターも事故とかを誤魔化すためにみんなの評価に乗っかって演じ始めただけだから!?
だからマジで俺なんて尊敬するなって!
「……俺に憧れることはやめろ。俺は所詮、暴力でしか全てを解決できない破綻者だ。犯罪者どもと何も変わらんよ」
『そういう謙虚なところが大好きですッ、白木警部ッ!』
ってさらに目をキラキラとさせるなーッ!?
……俺は内心溜め息を吐きながら、悪人の血を吸いまくってきた愛車に乗り込むのだった。
コレ売ることって出来るかなぁ……?
中古車ディーラー「無理っすね」
・白木くんが暴力でだいたい解決していく話です!
こいつはもう車に乗るな。
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