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錯覚恋愛  作者: 叶 葉
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恋人なんて、ステータスだ。


彼はそう言って、グラスの中身を飲み干した。


「結局さ、生理的に無理な子以外ならヤろうと思えばヤレるし。めちゃくちゃアピールされたらさ、あっ、俺この子好きかもってなっちゃうんだよ。下らない」

彼、神田 涼は涼しい顔でショットのテキーラを煽り、続ける。

「だから結局凄い好きなんて無くて、凄いヤりたいな訳よ。脳で思考してるんじゃなくて、下半身で思考してる訳。それを世の中の頭軽い連中は色々理由付けして純愛だなんだって言ってるだけなのよ。俺はそれが気に入らないね」

顔には全く出ていないらしい涼は、スポーツバーのカウンターで隣に座る女に絡んでいる。

女は酷く困ったように、ちびちびとグラスを傾けている。

因みに女はカウンターに座って涼に挨拶をして以来無言だ。

「捨てたんだよ、こっちがさ。ちょっと優しくされたらなびくなんて、やっぱ下半身なんだよ。やっぱ、おっぱいかよって俺は言ったね!」

店内は平日の早い時間の為かガランとしている。

延々と流される海外リーグのサッカーゲーム。

誰も使っていないダーツ。

無言でグラスを服バーテン。

管を巻くゲイの友人。

彼女、竹中 司は非常に困っていた。

「だから、俺もタダじゃ転べないっつーか。一発決めたい訳。なあ、つかさぁー、いいだろ?」

「良くはないでしょ。嫌よ、私なんだかそれじゃティッシュと一緒じゃない」

困りながら何とか拒否した司の肩を涼が抱く。

「こんな事でもないとお前みたいなガリ勉タイプが俺クラスと出来るチャンスなんかないだろう?」

確かに司は学生時代はメガネがトレードマークのガリ勉であった。しかし、それも十年前だ。

頭のネジと一緒に時間感覚をどこかに置いて来たらしい涼に、司は詰め寄られる。

司はとても困っている。

ゲイの友人、涼が先程言った頭の軽い連中に司も漏れなく入っているからだ。

十年以上、隣にいるゲイの友人、神田 涼に片思いを温め続けている。

確かに涼の申し出は司にとって都合は良い。

だが、温め続けた恋心は最早聖域と化しており、司は涼に告白どころか、触れる事も出来ないくらいになっている。

「俺、男側初めてだけど、結構声出ちゃうタイプだから、司ちゃんくらいにしか頼めないし。一回だけ!一回だけだから!頼むよー、司ちゃーん」

司は溜め息を吐いてバッグから長財布を取り出し、紙幣を一枚カウンターに置いた。

「ご馳走さまでした。変な話し聞かせてごめんね、また来るから」

会釈をして席を立つと、慌てて涼が付いて来る。

「来ないでよ」

「えっ?オッケーって事じゃねーの?」

「まさかっ」

「て、言ってもこっちはオッケーなんだけど」

そう言って涼は下半身を人差し指で指す。

なんでこんな最低な男を。

司は涼に折り畳み傘を投げ付け、店の傘立てに入っていた自分の傘を掴んで足速に去った。


「連れないなぁ。だから好きなんだけど」


涼の呟きに、見守っていたバーテンはこっそり笑った。

「涼くんさ、あれは無いだろ。普通に好きだって言えよ、めんどくせーなあ」

「いやいや、言えないでしょ」

「ヘタレ過ぎんだろ。しかも。振った彼氏って誰よ?」

「お前、マジ黙れ」

バーテンは涼と司の高校の同級、椎葉 勇気だ。

「大体、涼くん、拗らせ過ぎでしょ」

呆れた顔をする勇気に、涼はムッとする。

「無理でしょ。男に掘られた事ある奴なんて普通に誘って司がなびくなんてある筈ないじゃん」

涼は溜め息を吐いて勇気が注いだショットグラスをまた口にした。





涼の初めては五つ上の従兄弟だった。

少々複雑な家庭環境の涼は、度々従兄弟の家に預けられる事があった。

従兄弟は十歳になったばかりの涼にいけない遊びを教えた。

それこそのめり込むように従兄弟と身体を重ね続け、二人の関係は涼の高校入学頃まで続いた。

だが、入学した先の高校で涼は司に出会う。

その頃には、周囲に隠していなかったし、実際女性には関心を示せなかった為、涼についてはクラスの殆どの友人がゲイだと認識していた。

涼自身も、そうだと思っていたからだ。

なんだかつまらないな、涼はいつも漠然とした不満を抱えていた。

毎日同じルーティンを繰り返す毎日に辟易していたのだ。

そんなある日だった。

下校時刻をとうに過ぎた夕方。

校舎に人影は無い。

涼は携帯を教室に置いていた事を思い出し、通学路を逆戻りした。

教室に入ると、司が居た。

白い夏服のセーラー姿に目が眩む。

「神田くん、忘れ物?」

ふんわりと微笑んだ司の表情は高校生の割に大人びていて、涼は少し恥ずかしくなった。

「携帯。忘れたから取りに来た」

涼が自身の机に近付きながら司に返事をした。

「そうなんだ。私は委員会だったんだ。もう終わったけどね」

「結構遅くまで大変だな。家はどこらへん?」

「上今の辺り」

「上今か。結構近いじゃん。俺、下今。丁度学区違いだな。一緒帰る?」

「ちょっと待って、支度する」

涼は、机の中の教科書を掻き分け、携帯を出す。

司は、教科書をスクールバッグに仕舞っていた。

「もしかして全部持って帰る訳?」

「え、ええ。家で予習しときたいから」

「真面目すぎない?」

「普通よ。授業レベル高いからやっとかないと落ち着かないの」

ふーん、と涼が返事をする。

司は自身の支度を終えると、教室の開け放されていた窓に近寄った。

窓から入る初夏の風に、司の前髪が掬われた。

夕日を浴びた司の横顔は綺麗だな、と涼は思った。


その日から何となく司と共に過ごす内に自分が司に惹かれている事を自覚した。

そうすると自然と従兄弟との関係は無くなっていった。

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