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平和と言うのはどのようなものなのでしょうか。
書物の中に記された、争いのない平和な時代というものが、私には理解ができませんでした。
それは、私にとって夢のような国でした。
強大な権力を持つ絶対的な王があり、かつその王が無欲な人であったときにのみ、世が平和というものを知るのでしょう。
権力を持ちながら欲に溺れない人があるだとは、とても私には思われませんでしたし、無欲な人が多大な権力を持つことが、たとえ世襲的に引き継いだだけだったとしても、できるものだとは考えられませんでした。
法が活きる世をも、私は知る由もないのでした。
私が生まれてくるずっと前から、世界は、平和などとは程遠い場所にいたようなのでした。十五歳という年齢ですから、それは歴史的に見たらごく僅かな年数なのだということなのでしょう。
ですがご年配の方々も嫌に戦慣れしているようですから、世が乱れを知ったのはずっと前のことなのだと考えられます。
書物に記載されている年代が、相当に古いことなのだとはわかるのですが、今がいつなのか正確に把握できません。
記録の文化さえ失ってしまっているのですから、それだけで、いかに世の乱れが長く続いているかくらいならばわかりましょう。
人々がみな文字を知り学びを得る、そんな時代もあったようなのです。
裕福な家の生まれの私は、本を読んではだれにも仕官はしたくないのだと、我が儘を言って過ごすことができます。
あまり褒められたやり方で父が金稼ぎをしていないことはわかっていましたが、それを知らないふりさえしていれば、愚かな娘でしかない私は、咎められることもなく平穏無事に生きていられるのです。
しかし現代、多くの人はほんの少しの学びを得ることも許されず、単純作業に明け暮れるか、どこかの城に駆り出されて人殺しをするかの選択を迫られるのでした。
私は女です。
男性のように強引に働かされることよりは、嫁がされて、妻としての働きを強いられることの方が、可能性としては高いでしょう。
こんな世では今日のような生活がいつまで続くかわかったものではありません。
我が儘をしている今の中でも、その覚悟はできているつもりでした。
覚悟はできていますが、受け入れられるかと問われると、そうだとも言えません。
そんなときに私の目の前に現れたのが彼だったのです。
「優秀な軍師が必要だ。一緒に来てはもらえないか?」
一国の王を名乗る方が、わざわざ私の家を訪ねてきたものですから、何事かと思いながらもお通ししました。
そうしたらば、愚かしくもそのように言ったのでしたね。
「きっと私は期待には応えられません。より優秀な、お求めになるに相応しいような方がいらっしゃるはずですから、他を当たってください」
「いいや、俺にはお前しかいない」
お断りした私に、即答でそのように仰いましたね。
あんまりにしつこいものですから、結局は私が折れて、これまでと見限ったらばすぐに帰ることを条件にお仕えすることとなりました。
あれから四年が過ぎ、最近は妙に昔のことを思い出します。
十九歳の私は、どうやら何かを恐れているようなのです。
何かというよりも、何もかもをすら恐れているのかもしれません。
たとえば花が咲いては散ることを、たとえば日が昇っては沈むことを、そんな当たり前のことを、恐れているのかもしれないのでした。
恐ろしくてならないといった風ではないのです。
ですがなんだか恐れているようであると感じられるのです。
書物で見た平和と、到底同じものだとは言えないこの国に立っていることが、私には心苦しくてならないのかもしれませんね。
彼の築いたこの小国の中ですら、どう甘く見たところで平和だとは思われないことが、私には心苦しくてならないのかもしれませんね。
せっかく招かれて、お仕えしているというのに、何もできていない私の無力さというものが、情けなくて憎くて、恐怖という形で私を締め付けているのかもしれませんね。
特定の何かではない何かが、私には怖くてならないのですから。




